第2話 Uターンしたはずが異世界の君となる(2)

 敷地から出て良いものか、突然襲われやしないかと警戒してはみたものの、警戒心の強いういがおとなしくしっぽをふっていること、この意味不明な状況の打開を考えるにこの際何か危険があっても許容範囲ではないかと思い、一歩を踏み出して見ることにした。


「ありがとう、異世界の君だけを召喚したつもりが土地ごと召喚されてしまったのは正直驚きを隠せないが、土地を守るものたちの想いが強いのかあなたがとても愛されているのでしょうね」

 よく見るとノイズ交じりの声は綺麗な鳥の首飾りから発せられていることがわかった。

 そしてこれから魔法による転移でこの国の城に案内したいというのである。

「今、城って言いました?私ジャージですよ?!」

 そう声を発すると同時にまわりが暗転し、見知らぬ建物の中に移動していた。

 

 今魔法っていってたよね。私にも使えるんだろうか。


「ジャージと言うのはその服装のことか」

 

 そんなことを考えていると先ほどの声が背後から聞こえた。ここで出てくるのはきっとイケメンですよね〜って声の主の方に顔をあげると、黒いモヤのようなものがあった。

 え、モヤ?!

 流石に驚き、力が抜けてへたり込んでしまった。言葉も出ない。

 すかさずういは膝の上に乗ってくる。

 このよくわからない状況で現実はお犬様だけな気がしてきた。

 

「驚かせてすまない、今の私は君に差し伸べられる手ももちあわせてはいない。こうなった理由について、そしてあなたをお呼びした理由をお話しさせていただきたい」

 そう言うと、モヤは移動し、私を簡素なテーブルに案内した。

 先程城、と言っていたこの建物の外壁はとても立派そうなのだが調度品というものがまるで見当たらない。

 石打ちっぱなし、なにもなし。

 この部屋は一体なんなんだろうか、牢屋でもないだろうし。


「この国は元々採掘資源で持っていた国で豊かすぎるほど豊かであったのですが、先先代で採掘資源が尽き、先代で貯蓄資源や財産を売ることでなんとかしのぎ、当代に至ってはもう何をしても国民を守れる状態では無くなってしまい抜本的に立て直すため、この国の魔法使いに頼み国の凍結と引き換えに救国の力を持つ異世界の君を召喚して頂いたのがあなたです」

「国民みんなモヤってこと?!」

 モヤは悲しそうな雰囲気をだしながらこう続ける。

「勝手なことはわかっています。もう飢えて民が苦しむところ、貧しさからくる暴動を見たくなかったのです」

「で、私を呼んだところでどう打開したら良いと」

 私が何かをしなければこの世界は救われないらしい。と言われても具体策がなければ解決はできない。うちは自給自足はできているから最悪結界に引きこもってもいいんじゃないか。

 モヤが言い淀んでいるオーラを発し無言になってしまった。

 で、どうすれば。

 

「この国を豊かにしたらこの国は戻るぞ」

 新たな声のほうを見ると大体15歳ぐらいの見た目のくりくりとしたブルーグレーの目、とがった耳、ウェーブがかった白銀の髪をした少女が、そして後ろに整った顔をした黒髪の双子とおぼしき少年たちがいた。

「私は先程紹介を受けた凍結の魔法を使った魔法使いじゃ」

 

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