異世界の君、復興物語 ~狩猟技術と農家の知恵でお国復興しちゃいます~

瀬夏

第1章 異世界に転写されし君

第1話 Uターンしたはずが異世界の君となる(1)

「ようこそ異世界の君、この枯れた土地に恵をもたらしていただきたい」

 ポニーテールにくくった長い黒髪、赤いジャージに身を包んだ酪農家な農業女子かつ狩猟女子、異世界に立つ。


 ◆


 大学には自転車で通える距離の1DKを借りながら生活していた。大学の敷地が大きいので車と自転車も1台ずつ、親に感謝だ。

 気づけばもう10月。食堂で昼ごはんを食べながら、もっぱらの話題は卒業後の進路だ。研究の引継ぎもいいかんじだし、残り少ない時間、楽しまなくては。


「え、院に残らずに実家に帰るの?」

「うん。うち兄が料理人で家業継がないから、私が継ごうと思って。みんなが売る牛乳の元を作っちゃうから!」

「妹が継ぐこと兄さん、知ってるの?実家酪農だっけ」

「そうそう。因みに兄さん音信不通なんだよね、多分ヨーロッパ行ってる」

「……おお、修業……」

 卒業後、私が生産した生乳を、学友たちが就職した企業で販売したり、加工してくれたり、研究したり、商品開発をしてくれるだろう。その報告は何気に楽しみだ。

「ただ、家でチーズ工房やるから、上手く生産できたら販売ベースに乗せるからよろしくね。とりあえずチーズフェスに出せるぐらいは工房大きくしたいな」

「できるよそれ、そこ専攻だったし、味覚鋭いし」

「ありがとう、成功できるように頑張るよ」


 料理人を志して家を飛び出た兄が酪農という家業を継ぎそうになく、私は継ごうと思うぐらい好きなことから、大学はもちろん農学部で学び、卒業後、酪農を営む実家に戻ることを選択した。

 家業は乳牛がメインで、おおよそ100頭ぐらい飼育している。


 卒業後は、実家が私の研究所であり工房になる。


 ◆


 大学卒業後は軽トラを借り、北海道を離れる友人たちの置き土産を丸ごともらい受け、実家まで愛犬を伴った数時間のドライブとなった。引っ越し業者も頼んだが、それで運び切れない分は実家から軽トラを持ち出した。


 ありがたいことに、Uターンを喜んだ両親が大学で学んだことを活かせるように、新事業の展開を見据えてチーズ工房も併設することを目的として別棟を建て、一昨日完成。

 

 その数日後、両親がもともと予定されていたお寺さんの檀家旅行で京都に行くというのでに空港まで送り、夕方の仕事までの間、愛犬を膝に乗せながら漫画を読みながらダラダラする。


 呼んでいた漫画のページをめくったところで世界が暗転した。

 窓の外が急に暗くなり、電気もつけていないせいか、眼が慣れず手元が見えなくなって驚く。流れるように窓の外を確認するため目を向けると、外が全く見えなくなる程、光った。


 そして轟音。


 雷が近くに落ちたのかもしれない。


 両親不在の間に落雷火災とかシャレにならないので、割と平気そうにしている愛犬改めカニンヘンダックスフンドの『うい』を抱きかかえ、家の様子と動物たちの様子を見に外へ出たでた。


 家を飛び出した先は、見慣れた牧場の敷地はそのまま、敷地外が丸ごと荒れた雑草地になっていた。


「……何これ、夢?」


 気温はそんなに変わらない、空の色はなんかちょっと違う。

 うちの土地だけはなんかそのままなのだがそれ以外が遠目に見たことのない風景になっているし、お隣の家も見当たらないし、遠くに何か建築様式の違う建物が見える気がする。


 状況確認をしながらも、牛たちがまず心配なので見回り、とりあえず無事を確認。

 ちょっと安心はしたけれど、うち以外世界滅亡なんてことはないだろうし、夢かもしれないからこれは寝て起きたら気のせいかもしれない。

 

 そう思った時に聞こえて来たのがさっきの天からの声である。そして、こう続いた。


「異世界の君、貴方が転移してきたその土地にはあなたの許可をいただかないと強固な結界が張られているため立ち入ることができない。後ほどあなたの土地の門まで迎えを向かわせますので、是非ご同行願いたい」


 若い男の声が拡声器を通したような音でノイズ交じりに聞こえる。

 動物たちの点検は終わってるのでいつ行ってもいいんだけど、どうしたものか。


 普通ひょいひょいついていったらアウトだろ。と思うが、正直夢にしてはなんかおかしいし、私や動物たちの周りに何かチカチカしたものが周りに見えるようになっている。

 大切なかわいいちゃん『うい』の安全のためにハーネスとリードをつける。状況が全く分からない、声の案内しかヒントがないので外に向かってみるかという気持ちと、かなり不用心じゃないかなという気持ちと、結界で入って来れないって言ってたから問題があったら門から外に出なければいいじゃないかという無謀な安心感でとりあえず外に向かってみることにした。

 結界だなんて小説か漫画の世界すぎる。


 そして向かった先で見たモノは、門の外にただずむ言葉を話す碧く、大きな尾の長い鳥だった。

「ようこそ、異世界の君。ナット王国へ」

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