第106話 ナット/食糧難からの脱出(2)

 コミュニケーションを密にしたほうがいいこと、ウララさんたちがちゃんと溶け込めるようにサポートをすることを目的として、職員寮の一部屋を借りて、私とアオくんは当面寝泊まりをすることにした。なぜかウララさんたちと同じフロアをあてがわれてしまった。

 

 フロアの中央に階段があり、東西に大きな客間、まあ、ホテルのスイートみたいな部屋が1つずつ。東側をウララさんご一行が使用しているため、西側を使用して、ということらしい。体よく監視の目を増やす役割をさせられているきがしないでもないが、まあいいか。

 

 ここの寝具は王城の簡素なものと比べるとまだまともで、ちょっとだけふかふかする。ちょっとだけ。

 なお、魔女さんとイオくんは王城に戻って、モヤ王をボッチにしない政策。独りぼっちはさみしいもんね…。と思いつつ、魔女さんの隠し事があからさますぎるので、詮索はしないが、モヤ王以外にアオくん、イオくんとも縁深い、きっと言えない何かがいるんだとは思う。


 ◇

 

 「1部屋完全に育苗実験に使おうとおもうんだけど、最後にちゃんと掃除して返せばいいよね。芋はそのまま植えるとして、その他のちょっと種が古かったり実験的な要素があるから。あとあとでキノコの菌床造るから手伝って」

「了解です。」

「実はそろそろチーズ工房開始したくはあったんだけど、ウララさんのお世話と畑づくりが軌道に乗ってからにしようかなあ。食料難を脱しないと明日をも暮らせなくなるし、嗜好品はもうちょっと人が増えてからにしないと。でも作ったら作ったで販路さえ確保できれば他国で売れそうではある。」

「確かに、それは商機ありますね」

「あと、最近私の使えるようになった魔法あるじゃない。あれの実験もしたい。」

「時魔法ですね」

「それそれ」


 冒険者ギルドランクがCになり、スキル【時間干渉】の派生で、【時魔法】の使用が解除された。現在、時の巻き戻しはできないが、もともと【無限フリースペース】で、時間凍結・ゆっくり進む・通常・早く進むの4カテゴリで使用していたものが、【無限フリースペース】外で使用することができるようになった状態だ。ちなみに、戦闘中に自分の速度を2倍にして2倍疲れるとかいうことも可能だ。

 

「時魔法を使ったら、苗を植えられる状態まで育てることも可能だと思わない?」

「確かにそうですよね!」

「苗ポットもありったけもってきたけど、数が多分これから絶対足りなくなると思うんだよね。複写とか複製とかコピーとかそういう便利な魔法ないんだろうか…」

「それ師匠の得意技ですよね…チーズさんの家も複写ですし」

「あ!」

「あ!って。気づいていませんでした?」

 まったくもって失念していた。異世界から複写できるんだから、同一世界なら完全に楽勝じゃないか。魔力源さえあれば。

「そのうちこの国の産業で作れるようになれば最高なんだけど、まだまだ、だよね。多分私たちの国では産業で構築していたものを、魔法に置き換えて生産すると、継続的な使用が可能となるよね。」

 本当はコピーじゃなくて作り出したいけれど、今は手立てがないから我慢。明日魔女さんにお願いしてみよう。


 結論、ナットは凍結を経て資源王国から農業王国に転身したい!そのオペレーターはチーズ、お前に決めた!から家ごと転写っていうのが私が思っている筋書きであり、おおよそ間違っていないと思う。ただ、当初レベルが低すぎておおよそ何もできないという状況ではあったけれど。


 冒険者ランクもCになったし、できることも格段に増えたのでマルチタスクでできる範囲をしっかりがんばってみよう。あと、そのうち名前を取り戻せるといいな。


 ここの部屋の編成はリビングが2つ、主寝室1つ、寝室1つ、護衛の待機部屋1つという編成だ。無茶苦茶広い。

 護衛の待機部屋とはいっても20畳ぐらいあるので、育苗場所としては十分広い。ウララさんのところではキイとノナが詰めている場所だ。志摩と永長は身の回りと雛の世話をしているので、居室の方に控えている。ただ、今回凍結解除された引継ぎ要因に引継ぎがきちんとでき次第、アトルの拠点に戻り、拠点の保持を再開しなくてはいけない。


 あと、もう1つ問題があり、どっかの鳥竜従者と小鳥メイドのいちゃラブオーラが周りの人間の気力を削ぐ。これについては魔女さんも、アトルの保守にはいったほうがいいけれど、輪を乱すぐらいならこの2人で行ってこいをしてしまうと次会う時には確実に数が増えていそうだ、どうしたらいいかわからん、と頭をかかえていた。


 ちなみに、ウララさんとレイさんは落ち着いているのと節度があるため、全く問題ない。


 このこともまあ、明日以降考えよう。とりあえず早急に欲しいのは、苗だ。


 まず、部屋全体を土が入り込んでも大丈夫なように床から壁にかけて、防汚加工を施し、天井に魔石を使いイオくんが作成した、疑似太陽を証明としてセット。その後、準備してきた大きなプランターを持ち出し、そこにだいぶコントロールの利くようになっていた土魔法で、土を出す。


 古い種は結構な数があるため、まず、発芽するかどうかを確認して、苗を作れるか実験をとりすすめよう。

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