第242話 浮世音楽堂(6)

 掃除魔法はあとで教えてもらうことにして、実際「行ってほしい」という国の位置をマップで再確認。シラタマの北方はやはり海。しかもシラタマの「サクラ」は島の東側にある。

 

 どうやって行くかというと、西の「サンショウ」から「サクラ」への転移ゲートを使用したように、「サクラ」の転移ゲートで北にある「チンピ」へ行き、そこの「陳皮港ちんぴこう」から北に向かう、というルートを使用するのが一番早いということがこの国にいてわかったものの、この港、特別な場合においてのみ出航するものであり、一般人はもとより国外からの旅行者はまず利用できない。

 そして「サンショウ」からのルートについては、週に1度しか出航していない。貿易において「ナット」、そしてさらに西側の「ネルド」を越え、その先の国々を見据え行っていたものの、北方の今回の行き先においては「シラタマ」にとってナット側の3倍ぐらいの海路が必要であり、貿易のうま味があまりないことから、週一の交流となっている、とガイドブックにかいてあった。


「ノリさん、これ、どうやって行くのが一番いいんですか?」

「ええとね、あーちゃんって行ったことがない行き先に転移する魔法アオくんに授けられるでしょ?頼っちゃえば?それ、私はやったことがなくて。そもそも授けるような相手がいなかったっていうのもあるんだけど。最悪私が連れて行ってもいいんだけど、それをすると私が目的地に行ってしまうので自分がやったほうが早いになるから、それはしたくないんだよね」


「さっき、師匠にばれないようにとか言ってませんでした?それ、頼ったらバレません?まあ、そもそも拠点の話をしている時点でほぼバレてるとおもいますが。だから僕は気にしませんよ?」


 そうアオくんが言うと、魔法使いさんはにこにこ笑ったまま無言になる。


「ゴメン、ほんとうにそうだね。絶対バレてるね」


 酷い。

 と思ってアオくんを見ると、仕方ないですね、みたいな顔をしていたので、最初から分かっていたんだろうな。私も大体そうだとは思っていた。


「改めて聞きますけど、いっそのこと海路攻めてもいいんですけど、お勧めできない感じですか?」

「サンショウからの海路は特に、途中大体荒れることが予想されるんだ」


 確かに揺れたら釣りもできないし、酔うのもキツイ。


「チンピは具体的に言うと王専用船とその随行船じゃないと使えないんだよ。王専用港というか。まあいいや、一番楽なあーちゃんルートを使っていくといい」

「では1回ナット経由したほうがいいですね。なんのクエストというくらいに本当に行ったり帰ったりですが」


 今ここまでの間、つまらなくなって天くんは夢の中、兄はパスタ作りを終えてパン作りを開始している。信じられないほどの無言ぶりからも、さっきのあだ名を思い出したときのあの感情の振れ幅が恥ずかしかったんだろうな、きっと料理の世界に逃避しているような気がする。


「チーズさん、明日の朝食が終わってミルクスタンドの準備が終わってから出発します?」

「いいね!明後日からは2人作業になって大変だろうし、出来ることはやっていきたいよね」


 そんなことを言っていたら思い出したように兄が相槌をうってきた。

「さすが出来た妹をもつ兄は幸せだ!っていうことで、美味しい肉を撃って来てほしい兄からのプレゼントあげてもいいかな?こないだ山にいったときのモンスターからドロップしたんだ。ノリ、いいだろ?」

「私は使わないのでいかようにでも」


「俺いま食品扱ってるからノリ、出してあげて」

「はいはい」


 そう言って壁面に隠してあった収納だろうか、壁の空間がちょっとゆがんだと思ったら、そこから漆黒に金細工を施してある猟銃が出てきた。息をのむような美しい銃。

「はい、これ、ユウから」


 無造作に魔法使いさんが私に手渡してきたそれは、よく見ると細工のモチーフが天使の羽根のような感じで、より美しさを醸し出す。

「こんな美しいもの貰っていいんですか?」

「いいよいいよ、一番うまく使えるのって一人しかいないでしょ」

 遠くから兄さんがコメントしてきてくれる。なんだかんだちゃんと話を聞いている。

「これ、ドロップ限定でしょ?」

「まあ、そうなんだけど。持ってみて?」


 手に渡されたその銃は最初こそひんやり冷たく、ずしっとした感じがあった。


「じゃあ軽く魔力通してみて」


 何だろう?と思いつつ兄の言葉に従い、魔力を通してみる。びっくりするほどするっと魔力をもっていかれる。

「ユウ、思ったとおり回路接続成功してますよ」

「だろ?いけるとおもったんだよ。ベティ、今魔力持ってかれたとおもうけど、それ初回だけだから」


「びっくりするじゃない!なんなのこれは」

「こないだドロップしたんだよね。見たら『降魔の長銃★★★★★★★』ってあったから、ベティに丁度いいと思ったんだよ」


 いや、それ取得状況であって答えになっていない。


「充填した魔力でその引き金はベティ以外の何者も引くことできなくなった。いいだろ?」

「良いもなにも、全く良くわからないよ兄さん」


 正直に言ってしまった。そうすると兄はにこにこ笑いながらこう続ける。


「そこはせっかく思い出したんだから『ほっちゃん』って呼ぼうよ。使ってみたらわかるけど、この銃の使い勝手に新鮮に驚いてほしい」

「え!兄さんも使っていたの?」


「うん、一瞬で壊したけど」

 兄がそう言うと、呆れたような顔で魔法使いさんが兄を見て続ける。

 

「銃で物理攻撃開始するんですよ?この人」

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