第114話 ミアカ/給料日

 畑づくりがひと段落、今日は早めの解散となったが、私にはまだやることがある。


 兄の滞在する国とナットの時差を考えると、今ちょうど兄たちはミルク完売につき、店の片づけが終わったあたりの時間だろう。

「アオくん、兄さんに通信お願いできる?」

「あ、そろそろ30日経つのでお給料払いに行く時期ですよね」


 まだナットは銀行が復活していない。銀行にを復活させてしまうと、この国に足がついてしまうので、復活させるのはギルドと一緒で一番最後の最後となるとの魔女さんからのありがたいお言葉だ。


 「あにさ~ん、アオです!」

『お、そろそろ給料払う時期だもんな。連絡くるかとおもって売上から経費を引いた額、ちゃんとアナログで帳簿つけてっから、仕入れ額についてについてこっちで算出してちょっと色つけてこの、収納袋に入れてある!買いたたく金額でもなく、高すぎるわけでもなく、ちょうどいい額はいってるはずだから、あとで確認してみて。分配は記録から拾ってしてくれ、お前たちに任せるから。』

「ありがとう!今こっちも1区画だけ復活させて畑づくり開始したよ。兄さんのジャガイモ畑はちゃんとイオくんが管理してくれてるよ」

 

 兄の横にいた魔法使いさんが通信に割って入る。


『復活させるだけのリソース、どこから持ってきたんだい?』

「ウララさんの持参呪物です」

 正直に答えてみる。それを聞いてあー…って顔に二人ともなっている。

 

「復活させたはいいものの、食料が圧倒的に足りないのでなんとかいま畑を作って定植までおわった状態。で、一部私の時魔法を使って一気に育成可能な区画も残してある状態。いつの間にかイオくんが畑管理のオートメーション魔法みたいなものを開発していて、すごい鮮やかなの!」


『それって俺の畑、いい感じになりそうじゃね?』

「おそらく、間違いなく。」

 

 そこまで聞いた兄は上機嫌で収納袋を手にする。

 

「じゃあとりあえず、これ、【無限フリースペース】の例の場所に今入れるから、すぐ取り出して」

 兄にのみ許可を与えている区画に収納すると同時に、即座に取り出す。


 『まるでワープだな!』

「どうもありがとう、結果報告待ってて」

『じゃあ片づけの続きに戻るわ。こんど直接ミアカに行って良い生乳づくりのお礼になにか料理でも作りに行くって何かあったら言っといて』

「りょーかい!」


 通信を切ると同時に、次はミアカのモニタリング結果データを牛舎から引き寄せ、その働きによって給料を分割、給料袋に入れる。振込じゃないなんていっそ面白い。


 ◇

 

「じゃあ、行きますか」

「はい」


 外に出て、アオくんの手を握り、ミアカを思い浮かべ、行ったことのある場所に行ける、転移魔法を使う。座標としては、村民立ち入り禁止としている農機の入っている車庫だ。

 

 問題なく転移も完了し、最初に村の代表に挨拶にいく。結構みんなイキイキと牛ちゃんのお世話をしてくれているようで、ありがとうがいっぱいだ。これから給金を配ることを告げ、リーダーには最初にお給金を渡す。

 

 給料袋の中を見、確認しはじめて、びっくりしたような顔をしている。もしかして、ここ田舎すぎて物価がものすごく安いのでは…と思いつつ、次のフェーズ、移動販売所のような場所を作る許可をもらう。

 月に1度、給金を持ってくると同時に、来月からは野菜もあわせて持ってきて、行商に来ますと。


 ただ、この村、通貨を所持していても、ほぼ自給自足の交易貿易とも無縁っぽいので使う先があるかどうかがわからない。ゆえにその辺もちょっとずつ整備してあげられたらな、と思う。


 今回持ってこれたものはジャガイモ人参のみ。次はもっと持ってくるものを増やしてあげたい。まだ余剰在庫がないので村のリーダーにサンプルを渡す程度で今月は勘弁してもらう。いい感じに調理してふるまえる人材だったら良いのだけど。


 この世界の通貨は、全世界共通。ナットよりさらに西の島国に、造幣のみに特化した施設があり、そこは国という体をなしてはなく、通貨使用の各国からの人材派遣によってもたらされている。

 

 倉庫のもたらしたデータベースに則り、アオくんが給与袋を街灯する村民のところに魔法で配布する。誰が巧緻魔法が苦手なんだか…やっぱり双子だね~とおもいつつ、光景を見守る。配布が終わったと同時にあらかじめ準備しておいたステータスボードへの通知を行う。


「今月のお給料を配布します。そして、大まかな分類『野菜』という食材を、リーダーに渡してあるからぜひご賞味ください、っと。」

「今回は料理しないんですか?」

 

「この国の料理と混ざったら面白そうじゃない?だから様子見ということで今回は料理しないでいくよー。あと前回兄さんが振る舞いを行ってるから比べられたくない。」

「確かに。」


 そして、リーダーへ来月来るときに、欲しいものを何か持ってくるので思いつくものがあれば教えてほしいと伝える。リーダーの名前は「ピピン」、フツメンの男子。


 そうすると、希望はもう決まっているという。

 

「先日、来ていただいたときに食べた料理が忘れられません。今度また作りに来ていただける、と前回仰っていましたので、是非お願いしたいとおもうのですが。」

 

 希望の報酬は兄の料理だった。

 今兄のいる国って転移すると罰則みたいなことになってなかったか?と思いつつ、来月までに何とかしてもらおう。

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