第115話 ナット/仔竜の冒険

 兄似の仔竜が逃亡した。


 何をしたかというと、背中の羽根で飛べることに気づき、親の目を盗み窓から逃亡。

 慌てるウララさんたち。兄に似てるならしょうがないと思う私。兄はむかしからそんなかんじだったので、ほっとけば昼ごはん時には帰ってくる。ただ、なんで兄の手形一発で遺伝子を書き換えるほどに似たんだあの竜は。

 

 今日は楽しい狩猟デーだったというのに、とりあえず仔竜確保まで出発を保留、うっかり迷子になってたら困るので、兄似の卵からの探索をやったことがあるアオくんが今日は本領発揮、探索魔法を発動する。


 今回はナットの中だけであり、情報も「遺伝子」から「本人」に代わっているので楽勝の部類だという。最初からありがとうアオくん。と思ってみていると、アオくんの表情がみるみる曇りと汗のあいのこになっていく。

 

「チーズさん、聞いてください。多分、あのちびくんの行き先って今日の狩場です。ちょっとランク高めだから早急に追ったほうがいいかもしれません」

「え!ちょっと遠いじゃない!どうしよう!私行ったことないから転移できないよ」

「ちょっと師匠呼びます。その間に今日の狩猟部隊呼んでおいてください!」

「了解!さすがに竜の仔でも10歳だから何かあってもまずいよね!兄基準で考えちゃダメだったこの世界モンスターでた!」


 ◇


 おかあさんは、なんかしろっぽいしきょうだいもしろっぽい。

 ぼくはなんか、かみのけもくろい。

 ぼくはおかあさんのこではないのかもしれない。

 おかあさんは、ぼくにちからをくれたひとのえいきょうで、すがたがひっぱられたといっていた。

 そんなこといわれても、よくわからないよ。


 仔竜は背中の羽根を広げ、南へ向かう。

 羽根はまるで鶴のような、大きな羽根。これも、兄弟と違う。兄弟の羽根はまだ、小さい。

 まだ生後まもないのに、こんなに顕著な差が出てしまうことは、小さい竜には、理解し難いものであった。

 まったく、傷ついてあたりまえというものだ。

 すべては、力を籠め、自分の姿かたちを決定づけるに至った、ウララがお礼に、としたために力を籠めた人物に由来する。

 助けてくれた恩人に報いるため、また、その恩人に付き従うことにより我が子が幸せになるように願いをこめて。


 はじめてきた森は昏い場所だった。

 じめじめして昏い場所は、初めての仔竜はうろたえる。今まで明るく、清潔な場所にしかいなかったせいだ。


 この森には豚に羽根が生えたようなモンスター、大きな蜂のようなモンスター、げっ歯類っぽいモンスターが生存する。

 普通の動物もいるにはいるが、狩猟対象となっているものはいない、かつ、無害なものばかりだ。基本、狩猟可能動物以外であてっても襲われた場合は応酬可能とはなっている。ただ、滅多に攻撃はしてこないので、問題はほぼないものではあるのだが。


 ぼくのしっぽに、なにかがくっついてきたのでふりほどいたら、とおくまでとんでいった。

 あしもとにからまってきたものがいて、かじりついてきていたかったのでふんじゃったら、すなになっちゃった。

 まとわりついてきてうるさかったから、てをばたばたしたらいつのまにかいなくなった。あしもとにははちみつのつぼもおちていて、びっくりしたけどひろっておいた。おかあさん、よろこぶかな。

 もっとこのもりのおくにいってみようかな。きれいなはなとかないかな。


 母親の子ではないのではないかと最初は疑ったのがこの冒険のはじまりだった。

 ただ、仔竜は、そんなことは忘れ、親へのプレゼント探しに夢中になる。空飛ぶ豚をぶっとばし、蜂を払う。どんどんお土産がふえていくことがうれしくなったので頑張って戦っていたのだが、ある程度狩りをした段階で、収納袋もなにもないのでドロップの山積みの中で、困り果てる。


 どうしよう、おにもつがいっぱいになっちゃった。おかあさんにおみやげいっぱいできたのに。

 はこべなかったらもったいないじゃないか。

 おかあさんのよろこぶかおがみたいのに。


 ウララがどれだけ心配しているかなんてことは、仔竜には関係がない。ただ、この竜、強かった。


「ちびくーーん!いた!!いたよアオくん!」


 おかあさんのためになるおしごとをしてくれているひとが、ぼくのおむかえにきた。

 もしかしなくても、ぼくってあいされてる?


 ◇ 


 そんな今日1日の報告と、給金支払いの報告をしに兄への通信をアオくんにお願いする。


「兄さん、どうもありがとう!今月のお給金お支払いしてきたよ」

「また来月に向けてこっちもやってくよ。そろそろ仕込みだけしてバイトで回そうと思ってるんだけど割と俺たちの顔の良さで売ってるところがあるから、売り上げに直結しそうで悩むよな~」

「はいはい」

「ところで、この子、誰でしょう」


 ウララさんから、脱走竜を預かっているわたし、モニターごしに兄にみせびらかす。仔竜くんはなにがおこったかわからず、目をぱちくりさせる。

「え、もしかして卵孵ったらこんな俺の子どもの時そっくりなの出てきたわけ?!まじで!?」

後ろで魔法使いさんが目を見開いて口元をおさえている。どんだけウケても子どもを傷つけるような行動は慎んでくれる人だ。そこで、ウララさんが登場する。

「この子がお礼にそなたのところにそのうち向かう、そちの力をもらった仔竜よ」

 兄は眼を見開いて、まじでかー!といっている。

「そして、この仔の権利はそちにある。名前を付けてたもれ。愛情いっぱいに育てているから、大きくなったらここに迎えにきておくれ。ところで、この仔に名前をつけてくれ。より、そちとの縁が強くなり、確定する。」

 確定ってなんだろうか。と思っていたら、兄はこういう。

 

 「名前ね、『大黒天だいこくてん』にするわ。しっかし本当に俺に似てるな。結婚もしてないのに子どもができたみたいだ。数奇だなほんとに。」

 

 即答だった。仔竜には、いみじくもめでたい五穀豊穣、農業の神のなまえがつけられた。

 

 ◇

 

 後から聞いた話だと、通常であれば生前からの主従関係を結ぶ程度になること、どこか一部が似ることはあったという。

 今回はその前例を覆し、兄のパワーが強すぎて遺伝情報を書き換え、ほぼ、『鳥竜種』兄が誕生したぐらいの勢いがあるらしい。要するにそれは、手に負えないと言わないか?

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