第60話 救国の『勇者』と『魔法使い』と『魔女の弟子』

 時は少し遡る。


 「救国の魔法使い」と呼ばれて久しい私に並び立つものは、それこそ「凍結の魔女」だけだと思っていた。

 

 それがどうだ、このついでのように現れた「異世界の君その2(調理人)」、二つ名「救国の勇者」は。

 

 チーズさんのフリースペース同様アイテム収納を自分として持ち、かつ、どうも、固有結界としての「自室」も持っている。海へ行った時着替えを貸すといわれ招かれ、漁が終わった後も、シャワーいくぞシャワーと言われついていかれたことで、知った。

 この世界の魔法やスキルにそのような性能はない。

 

 彼曰く「前いた世界で得た力で、なんでか転写される前の世界に戻っても使えたし、こう、転写されても使えるから便利だよな」とのこと。チーズはこの世界に慣らされた異物ではあるけれど、俺は最たる異物だから、この世界で力のありそうなお前といるわ、と言われた。

 アオくんに至っては、チーズさんは僕に任せてくださいっとか言っている。

 

 私は、■■をやっと見つけた今、彼女はナットから出られないということらしいから、千年逃げ回れられたけど、今、なんとか彼女の記憶を取り戻して昔に戻りたいのに。

 

 海で魚を獲り、〔鑑定〕を行った結果、毒はないようだ。しかもあにさんの鑑定はちょっと変わっているらしく、もともといた世界の何の魚に類似したもので、どのような調理方法が適合するかまでが、表示されるということだ。山菜からキノコに至るあらゆる食材についてその鑑定は可能であり、しかも、音声アンサー機能まで備わっているらしく、至れり尽くせりだ。

 何度もいうが、そんな機能はこちらの世界にはない。


 海の砂を流し、リビングに通される。元々着ていた布の多いひらひらした服は置いておいて、男3人、Tシャツとハーフパンツといういで立ちになる。アオくんのサイズは少し小さかったが、拡縮の魔法でサイズをちょうどよく調整した。

 そのリビングは、リビングというより巨大な劇場型キッチンだ。オーブンやグリル、炭火までなんでもあるのだが、「ここは前の異世界由来の空間だから、世界のバランスを崩す可能性があるから基本持ち出さない」という。ただ、武器と装備、魔法、マイ包丁だけはその限りじゃない認識でいく、らしい。

 「この国って生魚食べるの~?」と聞いてくるので、「食べれないこともない」と答えると、鮮魚のカルパッチョというものを作ってくれた。

 本人が結構けたたましいのだが、料理中のあにさんは集中力も相成り、ものすごく手際がよく、美しい。


 ほかにも、ジャンルばらばらと言いつつ、これは俺の母国のポピュラーな食べ方、塩焼き。といって炭火で焼いた魚を出してくれた。あと、土鍋で炊いた、ご飯だ。

 ちょっと寝かしたほうがいい魚もあるからそれはまた後で食べさせてあげるね~とのこと。期待する自分が悔しい。


 私はとても、せっかくアオくんがいるのだから、ここ最近の■■のことを聞きたい。とても聞きたい。だというのに、まるでこの男のせいで時間が取れない。ただ、食べ物は旨い。軽度魅了なんて効かない私とアオくんだからこそ、思い切り料理をふるまってくれているのだろう。

 もうなんというか、料理は旨いから余計に腹が立つ。


 そしてあろうことか、食事が終わった後、リビングルームでくつろぎながら、あにさんは一番痛いところを聞くべく、口を開く。

 「で、お前なんで千年も逃げられてるの。一体なにしたんだよ」

 いじわるそうな笑顔を浮かべ、また、アオくんはわくわくしたような、興味津々な笑顔を作り、こっちを見てくる。

「ここで何を言っても外に漏れないし、俺たちも外で口外しないように誓約するからさ~!!」


 ヤバイ、ここはこの人間の固有結界。逃げ場がない。観念するしかない。

 

 大きく深呼吸をする。タイミングを計るように何度も、何度も。

 その間にあにさんは食後のほうじ茶を出してくれた。しかも熱い。


 そして、魔法使いは、意を決したように語りだす。

 あれは私が、まだ、15歳だったころ、学校の卒業式の2日前に、その事件は起きたんだ。

「僕と一緒ですね」

「そういえば魔女クンもそのぐらいの見た目年齢だね」


 この世に生を受けた時から一緒で、この先の長い人生もずっと一緒で、やがて家庭を持ち、子孫を残すところまで、私の中ではシミュレーションしていたんだ。

「仲良く冒険していたみたいだしね」

「まあ、自然の流れだよね」


 あまりの■■のかわいさに、ビッグスノーという山の山頂で、キスをしたんだ。

「おお~!!」

「俺の故郷の北海道にもある!ビッグスノー!大雪山」


 そうしたら、顔を真っ赤にして転移逃亡、完全無視を決め込まれ、かつ、そのあたりの記憶を封じて千年もの間逃げられたんだ。

「ぶ…ははははは!!!■■様、そういうところありますよ!!!!!やりそーーーー!!!」

「自分の心に正直になったら逃げられたんだね…かわい…かわいそ…はははははは!!!!!!しかも成長まで自分で止めたのかあの見た目!すげえ頑固!めちゃくちゃすごい女に惚れたな!がんばれ!応援団長に俺はなる!」

 

 笑われすぎて、恥ずかしいやら、今までの間誰にも言ったことがなかったがためになんか妙にすっきりしたやら、いろんな感情が渦巻くなか、出されたほうじ茶をぐっと飲んだら、その熱さで舌を火傷した。

 「こればかりは、僕も応援します。面白いから。」

 「千年もたったわけだし、順をおって頑張って。応援してるから。」


 その後、男3人作戦会議がはじまった。

 

 ◆

 

 ところ変わって王城。

 アオが聞いた話は全て、イオに共有される。筒抜けである。ちなみに誓約すら、共有される。

「なんじゃイオ」

 突然向けられた視線に主が訝しむ。

 なんでもありません、としか答えることができなかった。表情筋よ、頑張れ

 

 吹き出すのをこらえるのも、つらいんだ。

 

 

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