第59話 ミアカ/兄の料理

「魅了耐性がない人が俺の料理食べると、なんか、すごくがっついて怖いんだよ」

 そう、事前に兄が言っていたが、それがどういうことか、今目の当たりにしている。

 どうにも普通に作っているだけなのだが、一度食べたら最後。また、食べたい欲がむくむくと湧いてきて、おかわり、をしてしまうようで、あっという間に平らげられたそれをみていっそ恐怖を感じる。

 兄の料理もあいまって、王命の仕事、がんばるぞ!オー!ぐらいなテンションとなっている。


 ◇

 

 「兄さん、なんで魅了耐性とかいってるの。なんというかこう、異世界に明るくない?」

 今度は転写か、と言ってみたり、異世界に対するアプローチも、驚き方も、何もかも、上からというか、ちょっと達観しているというか、指導者のような目線でくるので、ちょっとした違和感があった。

 

 じゃあ、ちょっとパーティ組むよ~というので、組んでもらった結果、兄のステータスが 全部 見え ない。


 NAME:兄

 となっているので、あ、名を失っているんだ。って思った。

 ただ、そのあとがひどい。

 レベル、スキル、パッシブスキル、全部、ジャミングがかかっていて何一つまともに見れない。


 「多分、この世界で新たに取得したスキルしか表記されないと思うんだよね。俺には読むことができるんだけど、チーズには無理だろ?」

 「うん、何一つ読めない」

 「ちょっと日本を離れている間に、意識を失うような事故に巻き込まれたんだけど、その時ちょっと行ってたんだよね、異世界。」

 そもそも事故って初耳なんですが。

「あの、よくみる交通事故系…?」

「いや、山滑落系。山に食材探しに行っていて落ちた。たまたま見つけてもらえてよかったよ。」

 意識一カ月くらい失ってたけど!とげらげら笑っている。

「いまとなっては常人の身体では測れない感じになってるから、その程度じゃ怪我もしないんじゃないかな。しかし入院してるのに、退院のときめちゃくちゃ筋肉ついてて医者も怖かったと思う!」

 こっちは本当に真っ青な気持ちになる。知らないでよかった。平和に学生してたわ。

 あっちの世界ではなんか25年ぐらいいた計算になるんだけど、戻ってみれば元のままだった、と。

 

 それ、人生ほぼ2周しているのでは。

 

 「だから、ちょっと今お前の使ってる魔法とか、学んでいる最中の内容にとっては、俺は阻害にしかならないんだよね。突然ラスボスと渡り合えるような兄なんて邪魔でしかないだろ。この世界にラスボスや魔王とかがいるのか知らないけど。」

 

 ラスボスや魔王って。

 要するに、ちょっくら世界を救ってきたんですか。

 

 「とりあえず、お前が魅了耐性とるまでは、俺の料理禁止な!がっついてるところなんて見たくないから!でも別に『また、食べたい』ぐらいでおわるから、中毒性はないから安心してな」

 それは人によるのでは。通常そのうちまた食べたいが毎日食べたいの層はいたりするんだよ、兄よ。


 ◇


 あれから3日後、作業とルーティーンにみんなが慣れたぐらいで、最初に営農指導をした村のリーダーと動物会話のできる村人に任せ、村から一度離れることとなった。牛ちゃんたちは結構ご機嫌で、私の動物会話レベルでも良い感情なのがわかる感じだ。

 村人たちはモヤから解放されたものの、私たちと同じくもれなく名を失っているので、早く復興をすすめて、名を取り戻してあげなくては。


 動物会話のできる村人に至っては、本当に楽しく意思疎通できているようで、「わかる言葉が増えてきたんですよ~」などと言っている。もしかすると次来たときは、動物会話のスキルが上がりすぎて完全に会話による意思疎通をしているのかもしれない。


 その、私が営農指導をし、村人たちと時間を共にしているあいだ、兄と救国の魔法使い、アオくんは自由だった。たまに手伝ってはいくのだが、山に入っては食材をとり、海に入っては魚を捕り、そりゃあ、山からも落ちようもんよと思う申し分のない鉄砲玉ぶりをみせていた。出て行ったらほんと、夜までかえって来ない。


「いや~驚いたよな~救国の魔法使い。俺なんて前の世界で『救国の勇者』とか呼ばれてたから、二つ名の前半が一緒とか、親近感しかないわ~」

 海に行ったくせに日焼けの一つもしていない兄がそんなことを言っている。ついでに魔法使いもアオくんもどっちも日焼けしていない。ちなみに私はしている。

 

「日焼けっていうのは体力を奪うんだよ。チーズも紫外線軽減魔法ちゃんと早く覚えたほうがいいぞ~。範囲魔法ならばなおよし!」

「僕もそれ、知らなかったので勉強になりましたし、とっても楽でした!」

「千年以上も生きてきて、あにさんから学ぶことがとても多くて、私もなんか、脳が活性化してますよ」

 兄さんの陽の気にあてられたのか、魔法使いまでニコニコしている。


 とはいえ、私もできることからコツコツと、空き時間で冒険者ギルドのクエストを受注し解消しを繰り返し、とりあえず次どこかの国のギルドに行った時点でランクをあげよう。研究者ギルドのほうも、レポートは仕上げてある。


 医療ギルドはまあ、次いったときに、門戸をたたいてみることにする。医療ギルドでも獣医系のカテゴリーはないようだけど、どうせ哺乳類だし、なんとかなるだろう。

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