第58話 ミアカ/コーチング
「皆様、よくお集りいただきました。元々この村は牧畜と工芸品を生産するほかは、野菜を育てる、海で魚を捕る等、地産地消により生活してきたと存じています。そこで、新たな産業をこの村に定着させたく、準備を行いました。この動物は牛といいます。動物会話のスキルをお持ちの方はいますか?」
そう言うと、村人から3人ぐらいの手があがる。
私のレベル1は感情の色が見える程度だよ。
動物会話を持つ人、村のリーダーっぽい人をピックアップして、 実践メンバーとする。後の人は遠巻きに見ながら、モニターで様子を見れるようにしている。できる人が5人程度いれば、その後の指導も楽になろうものだ。
まず、マニュアルを提示し、VRよろしく表示させたまま、救国の魔法使いから「インストラクター」と紹介にあずかり、いちからレクチャーする。
「なんでこんなことを突然やらされているんだ?」という人もいて、まったくごもっともではあったのだが、「王からの指示です」というと、そこでその会話はおわる顛末だった。しかも、王からのギフトというか、牛舎にはお免状が飾られ、王家ご用達マークがなんとなくサイロに装飾されている。
『王からの指示』の強制力はどの程度かはわならないが、まあまあ力があるらしい。
今回代表となった村人たちは口々に感想を口にする。
「この牛という生き物、なんとも大きい」
「動物会話確かお前レベル3だったよな。どのぐらいの言葉がわかるんだ?」
「え、なんか今『眠い』とか言ってる。おそらくこの感じだと『飯』『眠い』とかの単語程度の意思疎通になりそう」
「そうか~。しかし会話を続けるとレベルあがるかもだぞ」
「そうだな」
全体の流れの指導が終わったところで、「搾乳は朝晩2回、日中に給餌がありますが、交代でやってもらえると良いかとおもいます。」ほかにも機械の使い方、糞の始末方法、たい肥の取り扱い方、フリースペースを分割した倉庫の使用方法などをレクチャー、マニュアル化したところで今日は終了。
倉庫は、今回生乳倉庫部分のみの分割提供となる。その後、この村で加工技術が備わってきたらあらたな分割もありえるところだ。
「私とその家族が大事に育ててきた牛ちゃんなので、みなさんの生活の一助となり、この村の産業となってくれるのであれば本当に幸いです。まだまだ随時行わなくてはならなく、教えたりないことが多々あるので、私も定期的に見に来ますので。あと、疑問点があればマニュアルに付随するQAから質問いただき、そこで足りなければ私に通信がつながりますので、よろしくお願いします。」
そう挨拶し、深くお辞儀をした。
そして、労働の対価、お賃金の話になる。王室御用達の名誉のみでする仕事ではなく、産業として根付かせるためだ。ただ、そこまでいくにしてはまだ販路も決まってはいないのだが、まず、私の時間がとれないことにはどうしようもない。
「お賃金は30日に一度、私たちのいずれかが届けにきます。念押しになりますが、急ぎの際は通信でのお答えになりますが、疑問点はぜひ遠慮せず、積極的に質問をしてください。」
そう伝えた。
賃金設定は先ほどミーティングで決め、給与の分配についても決まった。働き高、出来高を牛舎等一連のペーストした部分でプライベートを阻害しないレベルで自動的にカウント。働きに則り個人への分配を行う方式だ。まだ、産業としての移譲としては不安がいっぱいあるのだが、魔法の国であること、牛たちとスキルによりより高い意思疎通ができる人がいることから、 本当になんとかなってほしい。
では、これから、これからのナット王国を支えていただくにあたり、ご飯をふるまわせていただきます。と、救国の魔法使いが言う。
そこで颯爽と登場するのは兄。私がマニュアルを作成中に実は村人たちに向けたミルクを使った料理を作り、それこそフリースペースにあつあつのまま保管していたのであった。
作られた料理を大きなテーブルに乗せ、ビュッフェスタイルで提供する。
「うっかり魅了とかされると厄介ごとになるから、今は、お前たちは俺の料理を食うな」
とは兄談。魅了ってなんだ、魅了って。かわいい妹ちゃんに食べさせる飯はないのか。
作られた料理は、鶏っぽいモンスター肉のミルク煮、ミルクパスタ、グラタン、ミルクプリン、牛乳アイスだ。
私の家のキッチンは、オーブンが2台あり、調理場も広い。調理器具もそこそこ揃っているので、使い勝手が良かったらしい。
かつ、今、兄は「これから新しい仕事を始めていただくにあたり、お礼と感謝の気持ちを込めてつくります」と言ったうえで持ち出したガスコンロを使いミルクスープの実演を開始する。
さっと取り出すのは兄のマイ包丁。
手早くしめじをばらし、 ほうれん草をさっとゆで、玉ねぎを刻み、じゃがいもと人参、ベーコンを切る。
鍋にオリーブオイルを少量いれてから加熱。ほうれん草としめじ以外の食材をさっと炒め、軽く火が通ったら水としめじ、和風だし、鶏ガラスープを加え煮る。煮立ち、しっかり火がとおったら下茹でしたほうれんそうと牛乳と味噌を加え調味。
手早すぎて、本当にそのままなのか、他になにか隠し味があるかとか、魅了の魔法がかかっているかどうかとかはわからない。
「これからもたまに作りに来ます」とか言ってるし。
村の人たちは本当に美味しそうに食べているし、実際美味しいところもおいしいところも全部もっていった兄。
しかも私たちは兄の料理は食べさせてもらえない。アオくんが実際すごい顔をしている。
でもまあ、ミアカ村の方々がこの、賃金と料理を活力にして、この産業を支えてくれると嬉しい。
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