第100話 吉祥の白竜(7)
チーズさんがまず、現地に動いた。案内板を確認したところ、メロウという国であった。今まで単独行動をしたことがなかったため、
『現着。対象目視できているので、いつでもどうぞ。いや、もうちょっと近づいたほうがいいかな。ウララさんの伴侶さんが出るかどうかはわからないから、この2人の持ち物から飛び出てきたものをとりあえず全部連れて、一度ネルドに飛ぼうと思う。』
竜の厄災真っただ中のネルドに飛べば、もし、足跡を追われたとしても赤竜がボコボコにしてくれるだろう。
『大丈夫じゃなさすぎるだろ、何かあったらどうすんだよ。お前Cランクになったばっかりなんだろ?』
『後を追われたときを考慮して一番効果的に罠を張るだけだよ。鳥竜は赤竜に勝つことは困難でしょ。私は単独で逃げることが出来ると思うし、救助対象も永長も万が一の時には簡単に匿えるし。』
『仕方ないな、ちゃんと気をつけろよ。』
『もちろん』
そんな会話中も、対象の2名はたどり着くことのない、逆探知に夢中になっている。師匠におちょくられていることに気づいてすらいない。
いつでもいいよ、というチーズさんからの通信を信じ、期待に応えるべく行動にうつす。
「行きますよ、3・2・1」
魔法式が増幅するよう僕たちの魔力を乗せた師匠特製目覚めと脱出のコードを対象に叩き込む。
魔法式は衝撃として2匹の人型に化けた竜の体に影響を及ぼし、それは人型に変化偽装を継続できなくなるほどのバランス破壊を伴い、たまらず、2匹は竜の形に戻り、本当に目覚めと脱出だけだったのか?と疑問に思う程度に叩き込んだ魔法の力が強かったのか、またはなにか別の何かが魔法式に組み込まれていたのか、体長3メートルの鳥竜が2体、路地裏に大きな音を立てながら倒れこんだ。
この2匹は一体なにをしていたものか、脱出のコードにより解放された生体は3体を数え、空中に放り出された。
永長とチーズさんは目線をあわせうなずき、ダッシュで対象に接近。その3体が原型を取り戻す前に投網のようなもので空中で確保、そのまま転移魔法を行使、ネルドに飛ぶ。
◇
ネルドの火柱は、ピーク時よりだいぶ落ち着いていた。転移した先で私と永長は身を隠す。赤竜は別に危害を加えなければ、特段襲ってくることはないとは思うが、万が一虫の居所がわるいと結構まずい。正直脱出パズルだ。
竜の視線を避け、建物の陰に隠れる。確保した3体はそのまま私のフリースペースに突っ込んだ。同じ場所にいようにもあそこは隣の倉庫とか、蔵とか、プレハブはそれぞれ干渉しない。例えばウララさんの住む場所の隣にプレハブを建てて今回の救出対象を突っ込んだとしても、出入り設定をするつもりはないため、干渉は起きない。この世界にきてそれなりに経ったが、このパッシブスキル1つで結構なんでもどうにかなっているきがする。
「永長はウララさんのところへ。私は単独で脱出するので、その間に人質の3人に変な盗聴器とかマーキングとかないか調べてもらってもいいかな、魔法使いさん。兄さんも一緒によろしく!」
『ご指名ですか!』
「ご指名です。エラーとかマーキング、しっかり探れそうなので」
『もちろんですよ。何か変なものがあれば外したうえで呪詛返ししときますよ』
「え、呪詛なんだ…」
◇
引き続き畑の真ん中、雨除け小屋で僕たちの魔法行使は続く。
「さて、この3人の中に、ウララさんの伴侶さんはいるんでしょうか。」
「あーなんというか、衰弱してんな」
救国コンビが目覚め魔法で強制的にたたき起こされた3体を確認してくれている。僕たちはその様子を目の前に繰り広げた魔石使用のモニターで見ている。なにかいかがわしいマーキングがないか確認したところ、まあまあのものがついていたため引きはがしてくれる。他にも変な洗脳、手引き、スパイがらみの過去がないか、人格に影響が出ない程度にスクリーニングする。スパイであった場合は、その身をもって償ってもらうことはもちろんだけれども。
1体は金色の肌を持つ個体、他2体はウララさんほどではないが、白に近い色の個体。
3体は目覚めていずれもぼーっとした感じになって頭を振っている。
そしてその、投射された映像をみて、ウララさんは涙ぐみ、泣き崩れた。救出されたのは伴侶のレイと、その側近の2人であると。無事でよかった、と。
「アオとイオ、お疲れ様。探索魔法を収束させるぞ。ただ、今日行ったマーキングは抜くなよ」
「これから、魔法の収束方法について順を追って説明するので、今はまず、マーキングへの維持したまま、余剰魔力を回収してください。しかし激しく伸びてますね。」
『それはじゃな、念には念をってやつよ』
珍しいことに会話の和に師匠があいってきた。師匠、さすがです。ただ、今は、タイミングがまずいのではないでしょうか。
「さすが我が愛しの君!仕込んでたんですか!!!」
予定調和のようにしゃしゃり出る、この魔法使い、暑苦しいことこの上ない。
その後、打ち込んだマーキング以外のすべての魔力を回収し、お互いの魔力の中に収束する。今回の行使にあたって結構魔力が余裕でもったのは、僕たちが成長したからだろうか。心なしか、力がみなぎっている。
汗だくな僕たちは、魔法を収束させ、杖をおろし、休憩所のベンチにへたりこむ。
「あーーー!大体2時間ぐらい?大変だったけど、なんとかできてよかったね!イオリ」
「僕たち思いのほか成長していたな、アオイ」
「あれ、イオリ…
「お前こそアオイ…
魔法行使の達成感もさながら、驚いたことに、僕たちの名前が、帰ってきた。
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