第69話 アトル/道化の窟(1)
その日、まさかの事件が起きた。
メキシコ料理でできそうなもの、と思い、何の気なしに、こちらの世界に来てから使わないからと【無限フリースペース】の棚に放置していたスマホを手にとってしまった。食べたことがあるが、作ったことがない。そういう感じなので。
因みに、もったいなくて飲んではいないが、一目ぼれして奮発して買ったライフル型のテキーラは実家に大事にしまってある。
話は戻るが、スマホを手にして何気にレシピを検索しようとしたら、地球のネットワークでの検索ができてしまったのだ。
代表的な料理、ワカモーレ 的な……
とおもいきや、肩のあたりから右手にかけて魔力が走り、自動的に雷魔法が発動し暴発、うっかりスマホから手を離してしまったと同時にスマホが消滅。
自動的に開く【ステータスボード】、どういう仕組みか電子化され取り込まれ、検索画面のインターフェースのみ、生えてきた。
通話機能とそれに類するアプリはゲームを含め消滅、時事ネタNG、SNSや掲示板、リアルタイムで誰かと意見交換をしたり、意見を言ったりするような機能も消滅、ものすごく制限されたネットサーフィンのみが可能となった。料理とか歴史とかそういうのだけは、問題なく検索可能。
あとラッキーといっていいのか、元の世界で私が課金して買っている本や漫画は連動して読むことができるようだ。
いや、これラッキーでしょ。
「これ、どういうことだとおもう?」
念のためアオくんに【ステータスボード】を共有し、見てもらう。
「転写前の世界のギアですよね。転写物なのに前の世界とつながってしまううえに転写前の世界にも干渉しかねない異物ではあるものの、料理とかはいるから大目に見よう、的な?」
「もしかしなくても魔女さんの魔法の一部の影響だよね…」
「ですよね…なんというか、乱暴というか中途半端というか。」
ただ、レシピが見れたり、料理動画は見れるようなので、兄みたいなプロじゃない自分にとっては最高かもしれない。とりあえず検索して作る、が出来るということは、この食材、何を作ろうができる!そして、充電が落ちないことも便利だ。
そして何よりあっちの私に頼るしかないが、雑誌そして漫画や小説の続きが読める。
スマホの成れの果て、大事に使わせていただこう。
◇
見よう見まねレシピなメキシコ料理は、食材の良さと新鮮さのおかげか、なんとなく美味しくできた。サンキュー私のスマホの一部。
「チーズ様がつくられたこの料理、この辺りで見かける料理と似ているきがします。美味しいです」
永長に聞いたところ、人型をとっている間は消化器官もそのまま人のそれとなり、もともとアルコールの分解が難しい種族であっても、人型をとっている間に消化してしまえば問題ないとのこと。
うっかり深酒して酔いつぶれて寝て元の姿に戻るとかしたら危険極まりないってことかもしれない。
「そういえば、■■様……師匠から今回からダンジョン国なのと、リソースの節約のために、用事があるときのみの通信で良いとお話しがありました。多分、信用度が上がったというよりは、チーズさんのお兄さんが例の魔法使いさんとつるんでるから、接触を避けたいんでしょうね……わかりやすすぎる。ちなみに、僕とイオの通信はいつでも良好ですので」
タコスっぽいものをほおばりがら、アオくんがそう、教えてくれる。そういえばいつもみたいに通信しようと今日はいってこなかった!なるほど……
「異国からチーズさんをコピペしといて無責任ですよね、師匠。でもこれ以上言い過ぎると弟子破門になりそうだから適当にしておきます」
そういえば、アオくんが一体何が得意なのか聞いたことがなかった。聞いてもいいのかな?と言ってみる。
「僕が得意なのはイオ曰く繊細じゃない武器と炎、そして重力魔法ですよ。他もまあまあなんでも扱えますが、明日は長剣の熟練度上げに終始しようかとおもってます。洞窟の中なので」
こないだ魔女さんの魔法開示とめてなかったっけ。自分はいいんだ。いや、全部言ってるとは限らないけれど。
しかしアオくんは完全に見た目は少年なのに、いろいろ博識だし、どんどん私が教えることに順応はするし、覚えるしで吸収力がまじめにまぶしい。聡いうえに脳が若い。そのうち私がやっていた研究とか、夢だったチーズ造りとか一緒にやってくれることが勝手ならがらに容易に想像できるので、すくすくと逞しく育ってほしい。
そして寝る前、デブリーフィングをする。全体の流れをまず、アオくんが説明。
「明日はまずチーズさんの武器を調達、準備が終わったら4人と一匹で『道化の窟』に入って、踏破とアイテム集めをします。目標日数は2日間、最下層のボスまで倒してもどります。もしアイテムが足りなければ周回も視野にいれます。」
次は志摩。
「道化の窟は5階層として浅いダンジョン、基本レベル100前後の冒険者が入る場所であるので、場を荒らさないように気を付け、基本的なところではチーズさんに活躍、アイテム収集してもらいます。」
最後に永長。
「アトルとしても踏破されて一番長いダンジョンであり、洞窟ガイド、エネミーリスト等も先人がすべて洞窟の入り口にダウンロードできるよう、先人が準備してくれています。情報共有はこの国の在り方としてあるのですが、情報を隠したり、開示しないことは次の冒険者の命を縮めることがあるということで王命により、整備がなされています。何か新しい事象に遭遇したときは、ステータス画面上に入窟中に表示される随時情報ボードに書き込み報告します。私たちがついているので、安心して冒険してください。護衛は護衛然たる動きをしっかりしますので」
あ、やっぱり経験値を吸わないためにパーティは組まないってことね。しかし護られっぱなしも残念すぎるので、早く自分を育てなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます