第110話 ナット/食糧難からの脱出(6)
種ラックに入っていた種と小麦、米についてそのまま【無限フリースペース】に格納した。魔女さんには魔力の漏れについて多めにみてもらうことにして、あと数日すると自動補給されるであろう種をまた待つことにする。
「魔力漏れの穴が大きくなる前にふさいでしまいたいところではあるのだが、まあ、3年ぐらいは大丈夫じゃろ。ただ、本当にまずいことになりそうになったら即塞ぐから、必要なものの回収は随時行っておくれ」
ということで、[畑のマエストロ]イオくんにまた回収が任命されるという話になってしまった。これ、私はどこまで甘やかしても許されるんだろう。鬼教官アオくんの目線が激痛になりそうな予感はするんだけど。
手に入った野菜の種は、自家採種で増やし、ほころびが大きくなる前にあそこの穴を魔女さんにふさいでもらえるように、本当に頑張って軌道にのせよう。
今、ウララさんの子どもたちのために木の実の採取を鳥竜種の3人が取りにいっているが、われらもそろそろ動物性たんぱく質をとりにいかなければならない。正直、低ランク帯は肉ドロップが少ないので、ストックが消える。
兄がどういうわけか自由に食べてと、初期的な始末をしたワイルドなドラゴン肉も実は【無限フリースペース】にあるにはあるが、敵対部族誘拐犯の肉とはいえ、同一種族のウララさんの前では試しに焼いて食べることすらはばかられる。
普通に人道的にアウトだよ!兄よ!
というか、前にアオくんが、過去数例ぐらいしか狩猟例はない。しかも、基本触らなければ大人しくしてるうえに殺傷能力も高いので触らないほうがいいと言っていたというのに、ウララさん誘拐犯とはいえあの兄は一体何匹討伐したのか。ほんとあの人はどれだけ強いんだかわけがわからない。
ただ、今日はたまたま食堂には戻らずに、たまたま4人でドラゴン肉を外で焼いて食べた。
とりあえずの味見で塩コショウの味付けをし、山椒オイルで食す。鳥竜種だけあって、鶏肉に近い味。でもなんか牛肉系の脂もしっかり感じる。未体験の味、なんだこれ。激しくおいしい。白飯がめちゃくちゃ進む。
「ドラゴン肉食したのなんて何百年ぶりじゃろうか。うまいのう」
「僕の人生で一番の肉です」
「ドラゴン自体が強くなければ、乱獲されてそうな味!」
「いや、ほんと美味しいですね。兄に感謝しなきゃ」
こんどはこっそり生姜焼きとかジェノベーセソースとか、他にもいろいろ仕込んでおいてまたこっそりどこかで食べたいかとおもうほどのおいしさだった。むしろ兄の調理で食べてみたい。
そして、お留守番のモヤ王にはお弁当を作って魔女さんとイオ君に西の離れを経由せずに持っていってもらうことに。魔女さん曰く、王は民が戻ってきたことにより、失った記憶の一部を思い出したということで、今は前ほど寂しさも孤独感もなく、ちゃんと城を守れている、とのこと。
本当に記憶だけなんだろうかという疑問はひとまず置いておく。
◇
魔女さんとイオ君と別れ、西の離れの自室に帰ってくる。相変わらず広い。
「なんか、昨日あんなに種でどうしようって悩んでたのがばかみたいだね。すごく種が増えた」
「あとは、畑をちゃんと作ることですね。予定分は多分、明日で終わりそうですけど。」
「やっぱり普通の生育時間で育てる畑と、緊急で育成できる畑分けて作っておいた方がいいよね。みんな私の【時魔法】育成についてはそういうスキルとして認識してくれたけど、やっぱり常時発動するのはキツイし。」
「イオがやっている[畑管理魔法]も、あれ、イオだから1人でできているだけであって、普通の人じゃ無理ですよアレ。分業しないと」
「それぞれ適性ある職員さんいたらいいけど。明日魔女さんに相談してみよっか」
話をしながらういの毛のお手入れを欠かさない。なんかほんと誰が飼い主。
「20人しかいないうえに8人はウララさん付きですからね。」
「あと、動物性たんぱく質も絶対いるから、狩猟チームも編成したいよね。弱い狩場以外になんかちょっと手頃な肉のとれる狩場ってあるのかな」
みんながどの程度の強さなのかはわからないけれど。あと、冒険者ギルドに付帯していた狩ってきた肉をどうにかできる人はいるのかな。
「人が増えたら食料が必要になる、栄養のバランスを考えると人材が必要になる。こう考えるとやっぱり一度凍結して建て直しを図ることを考えた魔女さんってすごいよね。ちょっとバランスが崩れるとあっというまに崩壊しそう」
「師匠全く弱みを見せないところが難点ですけど、実際この規模の魔法を行使し続けてるのはすごいので、この先魔力の効率化と補給が復興より上手くいけば別のところに魔力も割けるでしょうし、国外に出られる時間も長くなってくるはずです。」
「じゃあとりあえずこの畑づくりを軌道に乗せて、兄さんのルート以外にも輸出産業の手立てを作って、正しく貿易ができる環境を考えなきゃいけないってことか~。私も兄も職人だからこういうの得意な人いればいいんだけど、いないよね」
そうするとアオくんがちょっと考えて、「……王」と言う。
「いや、王が得意なんじゃないかと。今はモヤになってるせいで直接交渉はできませんけどね!」
「確かに!」
モヤ王には悪いがめちゃくちゃ笑った。
そして、その辺については今度謁見のタイミングをつくって相談しにいってみよう。給食は渡していても暫く会ってないし、その時は何か手土産を作っていこう。
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