第42話 ネルド/ドラゴンの厄災(3)
カレーが仕上がりごはんが炊き上がるころ、嵐がおさまり、星空が見えてきた。
ネルド国では変わらず大きな火柱があがり、城壁の内側が炎竜に最適化されていく。ここにいる人たちは厄災が起こる可能性を知りながらも一度も遭うこともなく生きてきて、突然家から放り出されたというのに、前向きに次に向かっている。
旧住居をキャンプファイヤーにしてカレー食べるなんてそうそうないだろう。いや、あってたまるか。
「これカレーっていうんですね!美味しい!」
「おかわりしていいですか?」
チーズさん食堂は大盛況。料理屋の諸君、この世界の食材で再現レシピを頼むよ。料理屋さんのつくった鶏スープもからだがあったまるので、列をなす。
結局避難民は,1,100人あまり、王城があったものの村程度の人口だ。
炊き出しは私たちの場所以外に4か所ほどで行われ、その間Cランクの冒険者さんたちが寄ってくるモンスターを露払いし、何とか被災した日の夜を過ごせそうだ。
向かう先まであと8キロ程度なので、先発隊が目的地に行き迎え入れる環境を整える準備をし、後発隊が1日遅れぐらいで到達するのが良いところだろう。
正直私は飯炊き要員以外では役に立ちそうにもなく、目的地まで送り届けたら、お役御免となるだろう。こんなときは、ビールが欲しいな!でもだれも飲酒してないから出せないぞ!
◇
夜も更け、各々が自分のテントに戻り、私とアオくんもテントへ向かう。テントを閉め、アオくんが結界と防音壁を張り、定期報告の準備を開始する。準備をしながらアオくんはどこか深刻だった。
「チーズさん、ちょっと僕の考えを言ってもいいですか。今回のドラゴンの厄災の原因はナットがネルドまでまとめてサービスで張っていた防御結界が凍結魔法の行使により弱まった。弱まった結果、城に住むことを好む赤竜種の居城替えにぶつかり、目標となりドラゴンの厄災を引き起こした。そもそもナットは、『ナット』の名すら本当の名かどうかわからないこと、それが引き起こす記憶の不安定さがネルドの人たちに対しても記憶障害を引き起こしてる気がするんです。今回はちょうどよくドラゴンの厄災で移転することになりましたが、生来住んでいた国や家への執着がなく、新しい国に希望があるわけでもなく、おそらくナットの凍結魔法に端を発した不安や隠匿による記憶障害、情報障害が思いのほか大きくネルドには出てしまっていて…さすがに結構まずいかも…■■様に報告が必要かも…」
魔力を通し、通信用のモニターが開く。そこには嬉しそうな顔をした魔女さんが見えた。
「さすがわが弟子、ちゃんと観察しておるな」
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