第5章 アトル/南の国

第65話 アトル/南の国(1)

 私が案内された2階の部屋は二つ。

 

 シンプルな部屋と豪奢ごうしゃな部屋があって、どちらか好きな方をと言われた。

 金の斧とか大きなつづらとかをなんとなく思い出したがために、シンプルな部屋を選んでしまった。

 あとから魔女さんに聞いたらただのもらい物だから気にする必要なかったといわれた。でもちょっと落ち着かないというのもある。


 そして、真っ赤なつなぎは目立ちすぎると、アトルで目立たないという、平服を着せられた。

 具体的に言うと私はラグランカットソーとワイドパンツ、アオくんはTシャツと大きなポケットのついたショートパンツ。暑い国で祝い事でもないのにカチッとした服装を着ていたら、変な人と思われる、そうだ。確かにそうだ。


 着替えが済んだところで、永長えなががギルドまで案内してくれるというので、ついていくことに。


 扉をあけるとそこは、異国だった。

 カラフルな世界。街の真ん中にはピラミッドなのか祭壇なのか、石の建造物がそびえたつ。寺院っぽいものもいくつもあり、目を奪われる。そして暑い。

 日差しが強いのでおもむろにフリースペースからキャップを取り出そうとしたところ、永長にガチっと手首を掴まれた。

「それは、この国どころかこの世界どこにもありませんので、自粛してください」

 口調がきつい。


 あ、ハイ、スミマセンといい、そのまましまう。そしてこちらをお使いください、とほかのつば広の帽子を渡される。

 割とのんびりした人間とばかりこの世界にきてから触れてきたため、こう、コピペ前は理系よろしくものをはっきり言う人間がいままで周りに多かったせいか、友達になりたくなる。魔女さんの使い魔だけど。


 からっとした熱気のなか、市場を通り抜ける。亡国のナットと搾取のネルド(厄災により強制移転)しかこの世界に来てみていなかったので、活気のある国が見れて、なんだか楽しい。

 自分の世界から家ごと持ち込みした自家菜園以外の食に乏しい地域からきたせいか、フルーツも葉物も根菜もいろいろ売っている風景が、色鮮やかで目にまぶしい。あとで、うまく外貨を獲得したら、買って食べてみよう。そして兄にフリースペース経由で送り付けよう。


 ◆


 石造りの建物の中にある、アトルのギルド受付所に到着し、静脈認証でチェックイン。これで、アトル周辺で達成可能なクエストが私のステータスボードに追加される。そもそも、受けたところでギルドのランクをあげないと、上のランクのクエストは受けられないのだけれども。

 因みに受付にはネルドで見た軍服と同じ服装の受付の人が座っている。エポレットカラーは若草色。服装は万国共通でやっているのだなと。

 

 そのまま冒険者ギルドにいき、クエスト達成によるランクアップを行う。そこから流れ作業のように、ステータス画面の更新を確認した。

 

  《冒険者ギルド ランクE》

 ・次のランクへの条件 ランクEのクエストを50終了させること

 ・ランクEのクエストは同時に10まで受注できる

 

 確かにランクEにあがっている。クエスト内容としてはDからEになったときの倍以上の達成数が提示されている。

 さて次はDを狙おう。

「チーズ、やっとEだね。また次もがんばろー!」

「頑張りましょう、チーズ様」


 そして、次はに向かうは研究者ギルド。研究はお任せしてくれたまえ。と思うけれど、どのレベルが求められているかよくわからないことと、もともとやっていたようなレベルの研究を披露してしまうと絶対おかしいことになりそうなので、中高生の実験自由研究みたいなもので一回提出してもらうことにした。

 具体的にいうと、水素の燃焼実験だ。

 基本剣と魔法の世界なので、あまりそういうことやってないんじゃないかという、思いつきと懐かしさでやってみたのだけれど、実際レポートと同時の実演で割と好評を博すこととなり、あっさりと研究者ギルドランクは晴れて、Cランクになった。


 Cランクになったことで道中ポーション合成が可能となった。

 そして、CからBにあがる条件を確認するとCランク試験とかわらいことが判明。使用する題材と着眼点、実験の難易度で決定されるのだろう。

 

「Cランク合格っ」と言い、アオくんとハイタッチ。その後、今回の新規ギルドである医療ギルドへ足を向ける。

 私に医学の、というか医療スキルの素養があるかどうかはわからないが、今回の目的は完全に獣医である。


 乳牛を管理するうえで必要であるし、なにより、ういのためでもある。


 こちらの世界にきてしまったということは、混合ワクチンも狂犬病予防接種もフィラリア予防もダニ予防も受けられないということ。なので、代替え可能な試薬をさがすか、または成分分析により分解再構築を行うか、何かしらの手立てをとってういを護らなくてはいけない。未知の何かだっているかもしれないし、何にせよ安心はできないし護らなければ。


 異世界についてきてくれた(強制的だけど)、大事な相棒の健康と楽しいちゃん生活のために、私は努力を惜しまない。


 そんなことを考えながら、医療ギルドの門戸をくぐる。

 私の異世界ライフの心配事が減り、クオリティ高いお犬様生活ができるのであれば最高だ。

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