第338話 バナクコート(17)

 結論、潜入担当はチーズさん。

 

 リスクは高いけれど、シラタマ王が紹介した商人、というていをとる。潜入班はチーズさんと天とテミス。心配だからついていきたい、といったところ僕とイオは別にやることがあるとかいうことで、対象外になってしまった。

 今までなんだかんだ半年ぐらい、ほぼずっとチーズさんに随行していたから変な感じだ。


「魔族があの城で産まれていたとして、おそらく制圧または配下におけるのはテミスのみになる、と思うよ」

「なんでだ?まあ、同族というのは私以外にいないから、現れることはうれしいと言えばうれしいのだが?」

「そもそも知性を持つ魔族がなぜ産まれたか、だけどおそらくはユウがこの世界に転写されたから、なんだよね。ただ、そのタイミングで天が生を受けていることについての因果関係は今の段階では明確ではないね」


 そもそもあそこの王子はテミスより先に産まれている。ただ、年齢的な見た目を考えるとテミスが先を行く形、天と似たような成長をみせている。

 要するに、霊格が上、ってことなのかな。


「潜入中はチーズが主となってやっている牛乳とブドウ、ユウが代わりにやっとくから心置きなく潜入するようにって。ただ、チーズに何か危険があれば乗り込むからそこんとこよろしく、って言ってたよ。ユウが」

「はははは……お世話にならないように頑張ろう……」

「チーズは最近慎重すぎる動きをするからね?何があったかはわからないけれどこの世界に来たときぐらい自由に振舞って。みんなカバーができるから、心置きなく行って。まあ、王城から追い出されない程度に」

「安心しろチーズ。私がついているからな、といいつつお前も結構強いからな?よっぽどのことがない限りやられることはないだろうし」

「で。ぼくまでついていくことになっているけど、何をしたらいいの?」

「そんなのはもちろん狂言回し」


 ノリさんが目を細めながら天を見ながら、そう言う。この人はいったいどこからどこまで知っているんだろう。むしろ知らないというか見ないことにしているのは師匠の気持ちだけ、なのではないだろうか。

 

「きょうげんまわし」

「君は1年後また厄災をおこすことができるといってたわけじゃないか」

「うん」

「まだその意思、というか、指示してきた何かとはつながっているんだろう?」

「そうだね。たぶん、ユウ兄ちゃんから力を貰って意識が芽生えた時点からずっと」

 

 そんな卵の時代から意識があるとか、竜種の長子というのは生きやすいのか生きづらいのか。僕もなんとなく幼少期の記憶はあるけれど、そこまで明確なものではないし。


 ◇


 潜入にあたり商人を騙るわけで、取り扱う商品も慎重にしたほうがいいという話となり、確認することに。ナット王は自国の利益になるからアレコレ出さないで欲しいとかいっていたけれど、どうするんだろう。

 

「売り物にするのはうちの倉庫から持ってきたようなものでいいんだよね?ファットバイクとかキックボードとかは人にあげたらめんどくさいことになるし……ママチャリ?とか?」

「ままちゃり?」

「動力のついてないやつね。この国石畳が多いから、オンロードといえばオンロード。あとは……何がいいと思う?アオくん。今まで使ったもので思い当たるものある?」

「ええ?僕は……うーん。いろいろチーズさんに使わせてもらいましたけど、行商人として渡してしまうとなくなっちゃうじゃないですか」

「そうだね」

「それがちょっと残念というか……寂しいかも……しれないです」


 そう、口を伝って出た言葉に自分でびっくりする。この欲は何なのかな?腕がヒリヒリするというか、不安になるような感覚が全身を巡っている。なんとなく血の気まで引いているきがする。 我欲を出している場合ではないのに。この気持ち、悟られないようにしないと……。

 と思ったものの時すでに遅し、イオにはバレバレで『なんでそんな感じになってるんだ?』と頭に響く。

 あまりにもバレバレすぎてより一層恥ずかしくなってきた。


「じゃあ、アオくんが使ったことがあるものはやめて、この世界ではめずらしい、でもそこまで高価ではないものを商品にしてみる?」

「どんな??」

「ちょっとしたおもちゃとか。ヨーヨーとかハンドスピナーとか?昔なんとなく買って遊んだけど、今となっては……ああ、手持無沙汰なときちょうどいいよ。じゃああとは……何がいいだろう?」


 何かを指折り数えているけど、まあまあ一緒にいるにはいるけれど、チーズさんが持っているものの全容が全然わからない。でも、次々謎なものが出てくる、ということはわかる。


「もういっそ兄さんの作ってる商品を売り込む、とか?いや、売り込むというほど生産体制もなっていないか」

「え、ユウのつくったものというと、食品?」

「うん。牛乳とかクッキーとか、あ、でも消費期限から考えると牛乳はやめて加工品にしたほうがいいかな?私がチーズ工房を稼働させてさえいれば、もっと加工品があったんだな、とも思うけどそれはそれ。後回しにしないで稼働させるのもアリだったかもしれないけど、せっかく親が建ててくれた工房だし、最初から人任せにするのも、ね」


 両親の話をしているのに、懐かしむとか、ホームシックとかそういう感情が全く見られないのは凍結魔法の弊害だ、と、師匠が言っていたけれど、こういう時のチーズさんの表情を見ると本当にそうなんだ、って思う。


 そこについてはノリさんも理解しているらしく、深くツッコんだりしないのは優しさなどではなく、きっと興味がないんだろうな。そして、明らかにチーズさんに気を使われてしまった僕は、より一層恥ずかしくなった。


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