第128話 アトル/星の窟(7)

 まさに拍子抜けだったアトル第2ダンジョン星の窟。前回以上に「過剰戦力です」の意味をかみしめる。

 

 ちなみに今回は【実績解除】は出なかった。それはそうか、とも思う。そんなにポンポンとランクが上がっていたら、冒険者ギルドというものの意味合いから考えなくてはならないものとなるのはわかる。わかるのだが、先日兄からドラゴン討伐により一発Sランク達成したという話を聞き、かなわないけど追いつきたいと思うのだった。2度目の異世界じゃないけれど、私だって兄さんの妹だし。


「今後の計画ですけど、アトルで何か、始めて見ます?」

「生乳はいま兄たちが頑張ってるし、野菜?そもそも商売の許可を受ける何かをまず、とってないよね。」

「その国にあるギルド全部取るとかいいつつ、まだ行ってなかったですよね。商業ギルドは大体どこの国にもあるので、明日いきましょうか」

 

 家に帰ってきたために、エゾシカ肉のジャーキーをういにあげる。時間停止でおいてあるからいいものの、買い置きがなくなったらこの好物もあげることができなくなる。まだストックがあるものの、代わりの何かを探さないと。

 元の世界の私、あの種置き場においてくれないだろうか。置いてくれないだろうなあ。


「ういって大型化は披露してくれたけど、もうすでに人型にもなれるんだよね。」

「なれるようにはなってるけど、今まだ言葉の練習中だから、まだ!っていってますよ。あ、そのまま言わないでって怒られました。ちなみに僕と練習しています。」

「え、もしかしてテレパシー通話なの?!」

「全部吠えていたら、かっこ悪いでしょっていってます。会話してる僕も大きい独り言みたいになっちゃうじゃないですか。」


 確かにういはここぞというときにしか吠えない。たまにうじゃうじゃ何か言ってることはあるけれど、基本的に、吠えない。しかし人間側の【動物言語】が高レベルだとテレパシーで会話できるのか。そういえばミアカの人たちも、普通に牛ちゃんとテレパシー会話、してた気がしてきた。


 

 翌朝、早速アトルにある登録していないギルドに登録しにいく。

 アトルで他に登録していなかったギルドは、商人ギルド・工芸ギルド・服飾ギルド・料理人ギルド。すでに登録済みの冒険者ギルド、医療ギルド、研究者ギルドとあわせて7つのギルドを擁する国であった。

 商人ギルドはやっぱりというか、エポレットカラーはイエロー、工芸ギルドは茶色、服飾ギルドは桃色、料理人ギルドは白色であった。過去見たものでいうと、登録所が若草色、冒険者がグリーン、研究者が赤、医療が水色。これからどんなカラーバリエーションがあるんだろう。


「さあ、どこから手をつけます?」

「研究者ギルドと料理人ギルドどっちももってたら酒つくっていいんだよね。……でもまだ、その基礎がな~~~。あと人員。」

「チーズはまだいいんですか?せっかく工房もあるのに」

「いや~兄が今生乳でフルに稼いでいるので、あまり生乳に手を出したくないんだよね。別の種類のちょうどいい、水牛だったり山羊だったり、似たような別の動物がいてくれるといいんだけど。」


「あ、ああいう動物がいればいいんですか?確かああいう、牧畜、でしたっけ?やってる村ありましたよ。師匠より多分そういうのは王ですね。王にあとから確認してみないと詳しくはわからないですが。」

「え、そこでチーズ作りしたいな!叶えば!」

「叶うといいですね。この世界に来ていなければ、もう取り掛かっていたってことですよね。」

「そうだね、うん。」


 きっとあっちの私は、作り出す準備をしているだろう。チーズやヨーグルトを。一歩一歩着実な方法で。


 ただ、こっちの私は違う。人手もあれば、スキルもあり、時間までいじれる。優秀でかわいい助手までいる。ういもいる。なんというチート、なんというゲーム感。


 ギルドの外のベンチで、今後について話し合ってはみているが、まとまらない。結論いま、無駄なこと、失敗することはできれば避けたい。人員と環境が確保でいていないのがわかっているのに見切り発車して、失敗するのもどうかと思う。


「うーん、もうちょっと、情報が必要ですよね。」

「あと、私ももうちょっと出来ること、増やしておきたい。」

「商売1つ始めるのも、大変だ~。一次産業やって出荷するのと、その後どうするか、となると違うよね。」


 アトル第2ダンジョン『星の窟』の次は、アトル第3ダンジョン『太陽の窟』だったはず。ものすごく暑そうな名前だけど、第3ダンジョンまで終わったら一度ナットへ帰って、産業になりそうな植物探しとかちょっと調査を行ったほうが良いのかもしれない。

 そしてせっかくだからチーズだけではなく酒も造りたい、とはおもっているけれど、アトルにはリュウゼツランのようなものがあるけれど、酒屋やバーには行っていないので、テキーラのようなものがあるのかはわからない。ナットの気候はどんな酒造りに向くのかも、わからない。いちから調査しなくては。


 私は、自分から商売をはじめるのは多分、経験がないので難しい。モノづくりにしても、商売にしても、一歩一歩どうしたらよいか考えながら進めていくしかない。

 そう考えると、王に早く貿易が得意な側近を育ててもらって、丸投げして指示に従っていたい。その環境が整うまで、産業の準備とか、できることをやっていきたい。

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