第127話 アトル/星の窟(6)

 魔女さんたちからの緊急通信を切った。次々といろいろなことが起こるもんだ、と思いつつ下層への歩みを進める。


「こないだ作った人間用の体力回復薬、無事に効いてくれるといいんだけど。」

「研究者ギルドのランクアップと、医療ギルドを通じた薬の販売を狙った薬っていってましたよね。」

「なんか、新薬作って良かったら、販売できるってマニュアルにあったんだよね。ただ問題がそんな衰弱した人間がそうそういないというだけで」

「ダンジョンで行き倒れとか、年に数件報告されてますよ」

「数件か~」

「私たちのためにもしっかり助かってくれるといいね。」


  ◆


 ダンジョン第6層。

 風景は第1層と一緒。ただ、モンスターがそこここにいること、星雲型モンスターはいないことが確認できる。ここの階層は今度は蝙蝠型モンスターのフロアになっている。

「やっと戦えるんじゃない?!これ。視力強化も今あげれるマックスまであげたし、新スキルもとったし、短銃試そうとおもってたんだよね。」

 新スキルというのは【跳弾防止】。

 これはパッシブスキルなのだけれど、オートのオンオフができるスキルであり、オンにすると目的として撃ったもの以外に当たる場合はその前に消滅する。洞窟等での跳弾防止に丁度いいのだけれど、的を外しそうになると消滅するので、ラッキーはない。

 どちらをとるかは腕次第というところなのだけど、短銃に慣れていないうちは恐ろしいのでスキルを頼らせていただいて、腕の上達を狙いたい。


 というわけで次々飛来する蝙蝠を、次々と撃ち落とす。

 こう、ここのモンスターは動きがわりと予測がつきやすい。


 今回は死霊系でもなく、私一人でもいけそうということで、ういは【無限フリースペース】内のハウスで待機。アオくんと志摩は後方支援に徹してくれている。

「ギミックないと特殊ドロップって出づらいんだね」

「まあ、ほとんど出ませんしね」

 

 最初に感じたとおり、6層から9層は、1層から4層までと同じ風景であった。敵は違うが通常ポップアップであり、普通に戦える。ドロップこそ渋いが、レベルもそこそこあがり、スキルポイントもそこそこ増えた。


 

「もう次10階層、あまりの苦戦のなさに拍子抜けするんだけど」

「だからチーズさんはちゃんと強いって言ったじゃないですか」

「相当支援してくれてるでしょ、それ抜いたらまずいんじゃないの」

「独りで戦わせたことなんてほとんどないんだから、実力のうちと思ってください」


 私一人で戦ったのって、あのウララさんを狙う竜撒いて帰って来た時だけ?あれを戦ったというのかどうかはわからないけれど。そういえばあの2匹の竜どうなったんだろう。無事、迷惑がどこにもかからない形に落ち着いていてくれればいいんだけど。


 そして、私たちは10階層に進み、無事レアモンスターを引くこととなるが、予定調和というか、死霊系であったがために一撃必殺エクソシスト犬がまたもや一撃で祓ってしまった。


 

 あっけなかった最下層。ダンジョンのボスフロアはパーティーごとに別となるため、他の冒険者は来ない。

「このダンジョン、うい、MVPだよね?」

「今回のレベル程度の死霊系だと無敵ですよね。この後レベルがもっと上がったら一体どうなるんでしょうね。」

「光・回復・神聖魔法特化ってすごいお犬様だよういは。」

「ほぼ何もすることがなかったですね…」

 

 抱っこしてなでてほめまくる。ういはブリーダーさん宅からうちに来た子で、現在3歳。性格は多分やんちゃ。ういの血統にはチャンピオン犬がいっぱいいて、被毛がすごく美しい。自慢のカニンヘンダックスフンドだ。


 そんなういが異世界まで一緒に来てくれて、なんかよくわからないけど巨大化したり、死霊モンスター祓ったりとこの世界を楽しんでいるようで、あと、いっぱい鍛えているので筋肉の鎧でいためやすい腰をガードしてくれていると信じている。


 もしかしたら強すぎて平気かもしれないんだけど、やっぱりダックスなので、段差とかそういうのは心配になるので抱っこしてしまうのだけど。これは、ういと遊んでくれる人に共有していて、みんなさっと抱っこしてくれていて、それもういも当たり前だと思っていて、本当に助かる。


「あ、イオからの通信です。ちょっと話しますね。」


 便利だな、双子通話。先ほどの栄養薬の結果だろうか。


「事務官さんに飲ませた後、一時深い睡眠に入った後、目を覚ましたそうです。血色は良くなったみたいなのですが、ドラゴンとはさすがに違って、回復に時間がかかるようで。あとなんか退職したときにとってもショックだったらしく、大量に、何かを書き散らかした紙が大量に家じゅうに広がっていたのですが、この世界の言語形態じゃなかったので、あとでチーズさんとあにさんに見て欲しいそうです。」


「あ、確かにあっちの世界の言語の可能性があるもんね。」


「そして事務官さんのリハビリ、永長があたるそうです。で、それを打診したところウララさんが快諾してくれて、ついでにノナさんもついて来て手伝ってくれるそうです。」


 背後の志摩から大きな舌打ちが聞こえたが、聞こえないふりをした。


 星の窟ダンジョンは、おおよそ6時間で攻略となった。

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