第126話 王城の近況報告/事務官シン
夢破れて、でも諦められなくて、なんとか進言したく、追放されたというのに、あきらめが悪いな私も。
でも、何か、突破口が、あの側近たちを闇魔法で葬りさって、大切な主を、お護りしたい。
方法がわからない。
大好きな、大切な、我が君。
◆
暫く意識が遠のいていたようだ。しかも、遠くで人の声が聞こえる。
「■■様、これ、思いのほかまずくないですか。栄養状態がまずもってよくない。ギリギリですよ。」
体が動かない。
「先日のドラゴンの輸液と比べれば人間だし、チーズの作った輸液があれば楽勝じゃろう。さて、どうするか。」
「ところで俺も■■様もどちらも先日薬剤を保管していた【無限フリースペース】、手、出せないですよ?」
「あ!そうじゃった!」
不穏な動揺。
「チーズ、今どこにいるじゃろうか。というか輸液はあまっておったかのう」
「万が一のために残った分を置いておくとはいってましたが、あれ、ドラゴン用ですよ?人間に使ったら危なくないですか」
「……注射程度なら……いや、危険か。」
「基本的に衰弱と無縁で、看病とかしたことないですからね、俺たち」
「ほんとにのう」
衰弱?誰が?私か。目があかない。
「あ!チーズ!通信に出てくれてありがとな。今どこに。ダンジョン攻略中?それは申し訳ない。中ボス倒した直後で休憩していると。それはよかった。」
「先日お話していた事務官さんのお宅に伺ったんですが、無茶な生活をされていたようで衰弱していて、俺たちの魔法じゃお手上げなんですよ。」
『それは大変!なんとか私たちの戦力になってもらわないと。見た感じ体重どのぐらいですか?』
「55キロぐらいかのう」
「おそらくは」
どこかと通信しているのだろうか。私の体重は、68キロだ!いや、計ったのはだいぶん前だけれど。
『実は、先日の注射があまりにもうまくいかなかったので、ちょっと実験で作った人間用の回復薬があるんですよ。せっかくギルドに加入しているから、成果があった方がいいと思って。治験になっちゃうし、あまり生乳のところに置きたくはないけれど仕方ない!一瞬で引き揚げてイオくん!』
「そういえば生乳のところ、俺パスもってましたね!失念してました。引き揚げます!いただきました!」
「おお、これか。小さい粒だのう。」
『薬瓶に入れて作ってみたんですよ。粉薬飲むのが嚥下咀嚼の都合できつい可能性が高いので、水に溶かして飲ませてあげてください。それでも結構いけるはずです』
「やってみます!」
水の音が聞こえる。続いて
そうしたら、口をがっとあけられて、なにか細長いものでのどの奥に直接流し込まれた。
むせそうになったら、なんだろうか、金縛り魔法みたいなものをかけられ、むせることさえ許されなかった。
一体だれが私の家に侵入し、私に対して一体なんの暴挙を。
などと考えているうちに、意識が遠のいた。
「■■様~、目が覚めたようですよ。」
「お、血色がよいな。私は近所に住んでる魔女じゃ。近所で人が死なれても嫌なので、ちょっと入らせてもらって、お主を回復させてもらった。お主の家から借りたものは水のみじゃ。」
この顔、知っている。見た目は銀髪の少女の魔女。この国の裏切り者として追放された、凍結の魔女ではないか。横にいる黒髪の少年は、よく知らない。
「そういえば、■■様が城に戻ったこと、知らないんじゃないんですか、この方」
「あ!ちとまずいかのう!まあ、説明するしかあるまい。一から。裏切り者の魔女だ~とか言われるのは勘弁だからの。」
意識が戻っても体が動かないことをいいことに、魔女とそのお付きとおぼしき少年は、追放から再召還までのあらまし、現在の状況、自分の力が欲しいということ、王の勅命であることを矢次早に語ってきた。王の勅命?にわかに信じがたいが、この者が王に近しいことは記録で知っている。
いつになったら話せるようになるのか。なんとか声が出せたり、頷くことが出来る程度で、まず、筋力が落ちすぎている。一体私は、何をして、ここまで、体力が落ちてしまったのか。
思い出せない。
「多分この方、回復された後この家のなかからいろいろ持ち出さなきゃいけないものあるんじゃないですか。いっそ王城の裏のあいてるところにこの家、移設しちゃいません?」
「わたしもそのぐらいに使えるリソースはあるぞ!最近チーズとその兄が頑張ってくれたおかげじゃ」
その場合、土地の所有権はどうなるのか。
「確かに王城いま、殺風景で人が暮らすような感じじゃないですからね」
「よし、やるか」
口をパクパクさせることしかできない。
「お主に再び王に仕える仕事を与えるためじゃ。家ごとひっこすからな。今後ともよろしく頼むぞ」
「外いって準備しましょうか~」
「善は急げというしな!」
バタバタと二人は外に出て、そこから、数分で感じる、体全体で感じる変な違和感。
魔女と少年が戻りドアをあけると空気の感じが変わった。これは、懐かしき王都の空気、匂い。なぜか頬を涙が伝う。
「ちょうどよく先日介護しっかりやってくれた永長がウララのところに残ってるから、お願いしてきてもらうか。さすがにドラゴンほどの急回復は見られないだろうからリハビリはいるじゃろう。」
「それ絶対ノナさんついてきちゃうやつじゃないですか」
「男性のリハビリに男性の力はいるじゃろ。むしろラッキーじゃろ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんじゃ」
そこから回復するのに、1か月近くかかった。
◆
「シンさん、支度、できました?これから王に謁見となりますが、本当に、倒れないでくださいね。心を強くもってくださいね」
事務官の制服は退職させられた時に返却をしていたこと、今この王城には制服はないということで、一番私のもつ、良いと思うスーツを着て向かうことに。王は王子だった時代、よく私に声をかけてくださり、よく一緒に時を過ごした。
ただ、いくら王子時代に仲良くしていたとしても、即位してからは年齢も足りず、権力もなかった私はお近くに登用していただくことは叶わなかった。
「王、お連れしました」
「おお、入れ」
よく知る王の声だ。私の最高の主君。
だが、扉が開き、目の前にいたのは、王の服装の何か。
隙間から黒いモヤが漏れ出る、王のような何か。卒倒しそうになる自分を奮い立たせる。
でも、足が震える。これは、ほんとうに、私の主君か?何の呪いだ?
その様子を見て王の服装をまとったモヤが言葉をくださる。
「あれ?お前はシンじゃないか!懐かしい!久しぶりだな。追放された事務官について誰も教えてくれなかったのだが、お前だったのか!申し訳ないことをしたな。こんな姿じゃわからないかな。」
言葉の使い方に覚えがあった。頭のてっぺんから血の気が引いた、背筋がぞわぞわした。両腕の皮膚もあわだつ感覚。
間違うわけがないじゃないか。我が主。
大の大人が、謁見の間であることを忘れ、人目もはばからず、大泣きした。
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