第125話 王城の近況報告/王の記憶
ミアカを解放すると同時に、謁見の間の後ろには、王か王の許しを得て王と同行しないと入れない部屋があることを思い出した。
そこに何があるかまでは、覚えていることができてはいなかった。ただ、入り方だけは思い出したので、入ることができた。
そこにいたのは、時魔法ではない、凍結魔法時間を止められた、女性の姿だった。
背中までのストレートの黒髪、姿を失った今の私と揃いとしか思えない、ドレスを着たまま、ベッドに横たわる。私は魔力のエキスパートというわけではないが、そこそこにはわかる。
強大な魔力がその女性を中心に発生、その魔力は、凍結魔法の維持に使用されている。
凍結魔法はこの女性と、凍結の魔女の2人により維持されていたものだったんだ。
とても惹かれるが、近づけない。障壁があるわけではないが、魔力の密度が濃すぎて、近づけないのだ。
そこに魔女とイオが帰還したのだが、その動きに気づいた魔女はそれとなくイオを眠らせ、単身王座の後ろにある扉をあけっぴろげたまま、立ち止まっていた私の背中を叩いた。
「油断しとったわ。どこまで思い出した?」
そう問われたので、扉の開け方を思い出したので開けてみたら凍結魔法の維持をしているような魔力が立ち上る女性を見つけた、と答えた。
「こやつは私の弟子じゃ。今はここまで。そのうちほかの事も思い出すじゃろう。ただ、間違ってもアオとイオ、異世界の君兄妹には気づかれないように、気をつけるように。ただあれじゃ、救国の魔法使い、アイツはどう考えても判っているとはおもうが、くれぐれも表で話さないように。」
釘を刺されてしまった。
それから、基本的に凍結の魔女は私のところに来るときには、事前に連絡をよこすようになった。他の者たちが謁見を望む場合も、すべて魔女が窓口となってくれた。
「わたしはナットにいなければならないだけじゃからな!アオとイオが自力で思い出すまではそのぐらいはするから気にするな。」
と言ってくれている。魔女は、この女性を眺めていることを、どういうわけだか許容してくれている。ただ、誰だったかは、思い出せていない。
◇
西の離れを魔女が解放したことにより、もう少し記憶の揺り戻しがきた。
この女性は、凍結の魔女の弟子であり、アオとイオの姉だ。
でも、それだけじゃない気がする。ただこの先はもう一段階、いや、その先もかなり記憶も想いも取り戻さないとだめなんだろう。私は姿を失っているがために、実体が今はないに等しい。睡眠も必要がないし、肉体としての実感がない。時間にあわせ睡眠時間は取るようにはしているが、寝ているのか、意識がないのか、己が何か、わからなくなってきている。
「定期的にチーズとその兄が取り戻してくれているから心配には及ばんよ、突然意識が途切れることはないから本当に、安心して休め。隠し部屋の存在を思い出し、今はこの女性の事をある程度思い出したじゃろう?」
と、単独で私と話しをしにきてくれた凍結の魔女は言ってくれている。今は畑仕事に出ているイオくんも、自分の名前と、姉の存在は思い出したという。姉には会いたいが、その時はアオくんと一緒に訪れるということで、こちらには来てはいない。兄のアオくんも同様の記憶を取り戻したこと、先日の失神の原因が姉にあることは2人とも理解はしているということだった。
自分が15歳の時、こんなに理解の良い子どもだったかどうかは…絶対に違う。違うな。
「そうじゃ、王よ。先日話していた外交貿易に適した人材としてわたしの本邸の近くに越してきたあの事務官、そろそろ起こしてこようかとおもうんじゃがどうかの?」
「私のこの姿、怖がらないかな。」
「あの者は聡いから大丈夫かとおもうが、突然の重用はどう動くかはわからん。主にお主の使えない側近たちの処遇をどうするか考える前に、最前線でお主の側近を務める立場になるのだからな。ある程度この城に人間が戻ってきたら、嫉妬の対象にもなるだろうし、きちんと庇う覚悟もいるぞ。」
「この正体は何だといったような姿をとるようになった時点ですべての覚悟は決まっていた、と思う。あの隠し部屋の女性もきっとその覚悟の一部だろう?」
魔女は、あいまいに笑い、そうじゃな。と一言。
「きちんと信頼がおけるところまで関係性を気づけた後の、あの部屋の開示の有無はお主に任せる。」
◇
実は、モヤ状態となった人間、特殊なアイテムを使用をすることで再起動の位置を変更することができる。ただ、それをすると人格の一部を損壊する可能性が限りなくゼロではあるが、ないわけではない。
特に、頭脳労働者にとってはそのロスは致命傷にすらなりかねないので、面倒でも、事務官の家まで赴く。
王命に格好つけて、鍵を開ける。
「お邪魔しま~す、うわ、すご」
そこの床一面には、何かを書き散らかした、紙が、大量に散らかっていた。そして、魂の在処であるその、人であったもののモヤは、その中心のデスクにあった。
「これ、大丈夫ですか」
「近所におったし、生体反応もあったからあまり気にしてはいなかったが、結構まずいなこれは」
「とりあえず、凍結時点では生存していたようでよかったとはおもいますが、いきなり戻してもいいんですかこれは。オレ、ちょっと怖いんですが。」
「奇遇じゃな、わたしもじゃ!」
そういうと、魔女は解呪の霧で、この家全体を包んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます