第10章 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち

第129話 シラタマ/妖怪と怪異と魔物たち(1)

 ミルクスタンドホッカイドウは、とても順調であるものの、一日の販売量を決めているために売り上げは頭打ちではある。実家から一緒に転写されてきた牛たちの繁殖が、動物会話のおかげか繁殖の成功率が高く、なんだか順調に子牛が増えているということを、現地レポートで確認した。

 妹が危惧していた『獣医が居ない問題』は、当面の間先送りしてもよさそうな空気だ。


 ミアカの人たちは何気にマメで、生育レポートをステータスボードにあるメール機能で俺と妹に送ってくる。このステータスボード、誰が作っているのかはわからないが随時アップデートされているようで、妹が言っていたように表計算ソフトが欲しいとかどっかにかいておけばそのうち実装されそうでもあるぐらいの代物だ。

 前の世界ステータスボードにはこれほどの機能がなかったから、何気に便利だな。 


「そろそろ、次の展開何かかんがえてるんだよね?もうミルクスタンドもバイトでまわせるようになってきたし。労働時間は短く収入も良しで大人気!ってね~」

「やっぱりの展開は食堂とか?」

「予約困難店や行列店作ってもあんまりなあ。当初の予定通り、資金もそこそこあるしファストフード店の開業狙うかな。」

 

 生乳を飲めるようする仕込みは全部自分がやっているので、短時間販売のみ、毎週月曜日は休みでまわしている。なぜかこの世界も七曜が使われてるのかわからない。ただ、陰陽寮みたいな刻の庭とかいう施設があること、占星術があることから、勝手に翻訳されてそう読めるからまああるものなのだろう、そういう理解にしておこう。

 

 営業開始してそこそこ経ったからか、新しい仕事を興すとやはりというか、産業スパイ的な人間も現れないわけでもなかったが、相手が悪すぎるということを察することが出来ないとは残念なことだった。

 

 次の展開は間違いなくこの国で興すべきだし、お偉いさんのお墨付きで商売のとっかかりがつかめている都合上、ここで大きな基盤を作ってしまうことが望ましいだろう。


 ただ、ミアカの人たちに料理をふるまってほしいという依頼までの期間がもうすぐくるので、そこは、なんとかしていかなければ。料理だけを配達することはできなくもないが、それは非礼がすぎる。きちんと目の前で調理し、顔を見ながら提供しないと料理人の名がすたる。


「確かに入出国厳しいですよね。防疫、でしたっけ。私はこの国から出たことないんですけどね。」

 

 営業後、ゆっくりしている未明みあかが試作の新しいクッキーをつまんでいる。

 この国、出国する分には手段が船、というだけで待機期間がないという意味で問題ないんだけど、帰ってくるのにまた待機3日間を要してしまう。一番良いのは臨時休業。時間停止の作り置きは可能だけど、妹の倉庫のパス持ちはいない。ちなみにノリ一人を置いていってもそもそも倉庫のパスがない。

 

 この場合人員として一番いいのは…妹か?妹のところには俺たちとちょっとした縁のある、双子兄のアオがいる。妹の冒険は邪魔したくないとはいっていたが、この場合、義理と人情の話なので、頼んでのんでもらいたい。


未明みあか、頼みたいことがあるんだけど、ちょっと俺たちこの牛乳の生産地にお礼に言ってこなきゃいけないから、その間俺の妹を呼ぶから手伝ってもらってもいいか?」


 妹に打診するまえに、とりあえず聞いてみる。

 

「え!噂にきく妹さん!どんな感じなんですか?」

「頭はいいけど割と普通。」

「普通?」

「うん、普通。」 

「それ、ユウと比べたらだれでも普通だとおもうよ?」

「え、マジか。そうなのかノリ」

「私はそう思う」


  ◇


『今兄さんのいる国にいったらいいの?私たち凍結に伴う記憶障害で国の名前の認知が甘いけど大丈夫かな』

「じゃあ、この船着き場までの道のりは魔女に聞いてもらうことにして、この国までの船便のチケットと、ついた後の案内人の手配をこっちでしておくから。わかるように目印も倉庫経由で渡しとく。」

『わかった。ところで兄さんミアカにどうやっていくつもりなの?』

「ノリ、って救国の魔法使い。こいつが得意らしいからぶるさがってく」

「私、重いのはちょっと…」

「言葉のあや突っ込むなよ」

「えーひどいー」

「アオももちろん一緒によろしくな。」

『了解しましたっ』

 いい返事。

 

 俺とアオのホットライン電話、久しぶりにかけてみた。逆の方が多いけど、たまにはお願いをきいてもらおう。妹がこっちのやり取りを聞いて明らかにそれこそ「えー…」っという気配を醸し出しているが気にしない。


『で、いつそっちにいったらいいの?今いる国の第3ダンジョンまで攻略がおわって、これからナットに一度戻ってから次のミアカに行くまでの間、国の中に自生している植物マップでもつくるのに足で回ろうと思ってたんだよね。』


 その後日程のすり合わせをして、ミアカの働きに報いるための予定をしっかり立ててみた。妹が家庭菜園にちょっと色をつけたような畑をつくった話を聞き、ふるまいには【無限フリースペース】においてあるそこでとれた食材を使っていいということを確認した。


 何気に着々とやってるじゃないか、さすが我が妹。

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