第193話 秘境イノハナ(6)

 氷那は、治癒魔法の名手ではない。悪い環境、病気、傷害を瘴気として取り込み、自分の中で浄化をすることができる。そんな力だと思って今まで生きてきた。それを千年生きてきたという”凍結の魔女”があっという間に解析して答えを教えてくれる。

 

「お前の魔力の貯蓄可能量はすごいな。魔力タンクのようだ。この世界の一般的な人の魔力総量が1だとするとお前の魔力総量は100に相当する、そして平時はその10~20ぐらいで運用しているのが一番調子がいい感じじゃな。そしてあの村の人間の瘴気を魔力と置換してその魔力タンク限界を超え貯めこんでしまったって、120ぐらいになってしまったがために瘴気が漏れ出した。それを目撃したがために、弟クンがキレてお前さんから引きはがし当の原因となった村人たちに戻したってわけじゃ。因みにお前が1日で浄化できるのは5ぐらいだからな、ずいぶん無茶したもんだ。命を落とす寸前じゃ」


 弟たちの独り立ちを見送るどころか、先に倒れて迷惑をよりかける寸前だったということを教えられ、真っ青になる。無知は怖い。なんとかなる、がなんともならない、という酷い状況だったんだ。


「ちなみにお前の弟な、初めて使った【火魔法】に魔力暴走が相まって魔力切れを起こしたために、あの村での犠牲者はゼロじゃから、その点は安心せい。家は燃えたが。まあ、本人は全部等しく燃えてしまえぐらいに思っていたっぽいんじゃがな~!!」

 この魔女、そんなこと言いながら破顔だ。これは、燃やし尽くせなくて残念ぐらいに思っていそうな顔だ。


「さて、ここで弟が起きたら、お前は何をする?」

「いっぱい頭をなでてあげます!」

「よし、そうするがいい。というわけで朗報じゃ、目覚めの兆候がある。2階にあがるぞ」


 

 そこにいたのは、上体を起こし、青白い顔をした双子の弟の姿だった。栄養だけは補給できるようにしていたので、痩せてはいなかったが、生気がかなりない感じがする。

「魔力は生命力、じゃからな。すっからかんになるほど怒りに任せて放出したわけじゃ、こうもなる」

「私は一体、どうしたら…」

「まあ、こうなっても大体すぐにどうにかなるからな。若ければ特に」

 凍結の魔女はこの状態の弟たちをみても、なんとくなるよ問題ない、といった感じだ。私は、心配で心配で仕方がない。無意識とはいえ先に逝きそうだった私はほんとうに、弟たちに救われていたんだ。

 

「おい、チビたち、お前たちの姉はもう元気いっぱいだ。お前たちの手柄だ、良かったな」

 弟たちは一転、生気のない顔から手負いの獣みたい顔にかわる。気が付いた時の私と一緒で、声がきっと、のどの都合で出ないのだろう。そしてさっき、凍結の魔女と約束したとおり、近づき、二人を抱きしめる。そして、頭を寄せ、いっぱいなでてあげる。弟たちの腕に力が戻っていく、頭を撫でる手に力が入る。こんなに大事で、かわいい弟たち。心配かけてごめんね、もう大丈夫だからね。自分を粗末にしないからね。そういう祈りと誓いをこめて弟たちの頭を撫でる。

「ストップストップ、そろそろまた寝ちゃうぞこいつら。お前が元気で気が抜けたっぽいぞ」

 そう言われたので引きはがしてみると、本当に寝ていた。ものすごく幸せそうな顔をして寝ている。


 そこから半日、アオとイオは目を覚まし、ちゃんと起きた。すごい介護なのかケアなのか、昏睡していたのは10日間。それなのに筋力も落ちてはいない。しいて言えば喋っていなかったために声がかすれているぐらいだ。


 ◇


 そこでみた姉は見違えていた。髪の毛も本人もなんだかキラキラしているし、ほんとうに元気なのが見ていてわかる。こんな姉は見たことがないので戸惑う。しかも、隣には姉と同じぐらいの歳背格好のの銀髪で耳のとがった女の子がいて仲がよさそうにお喋りをしている。姉が同じ年ごろの人となかよく話しているのはみたことがないので新鮮すぎて眩しい。

『すごい、姉さんが楽しそうだ』

『ほんとだね、こんな顔、見た事がないね。僕のやったことはすこしかよかったのかな?』

『さっき10日昏睡してたとかいってたぞ?まあまあオレたち、迷惑かけてるんじゃないか』

『ところでさ、これ、僕たち声出してないよね』

『確かに…なんか内緒話し放題だな』


 2人で顔を見合わせたところで、氷那は2人の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「もう心配いらないよ、もうお姉ちゃんも無茶はしないから。あ、喋らなさ過ぎて声でない?もしかして」

「そうか、お前もそうだったしな。これを飲むといいか」


 そういうと銀髪の子は何もなかった虚空からはちみつ色の小瓶を二つ取り出しこちらに差し出す。

「これを飲むといい。一気に美声になるぞ」

 知らない人間からもらうものは警戒しろ、というけど、姉がにこにこしている時点で危害はないのだろう。小瓶を受け取り、一気にいく。横にいるアオはこっちを見ている…と思うと同時にものすごい甘みが口の中に広がり、喉の違和感がなくなる。

「度胸があるの~!!」

「さあ、アオも飲んじゃえ飲んじゃえ!」

 オレがはちみつフレーバーのものすごい甘さで悶絶している間に横で兄の応援が始まる。


 オレの立場は一体。

 


 

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