第194話 秘境イノハナ(7)
その甘い液体はすごかった。声が出るようになったのはいいが、3日ほど1オクターブ声が高くなった。それを聞いて笑う姉を見て、笑うなよ!!と思いつつも、こう、笑える世界に来たんだな、という安心感もあった。
「よし、私の自己紹介でもするか。私はお前たちをお前たちの住んでいた村から弟子にスカウトするために誘拐してきた魔女。名前を■■という。今後、良く励め」
「誘拐?!」
アオの顔が真っ青になった。
「アオ、真に受けちゃだめ。この魔女さんが私たちを救ってくれたんだよ。魔女さん信じやすい子に適当なこと言わないでください」
「だって師匠の威厳…弟子とりとかしたことがないからこう、ちょっと脅せばいいものかと…」
「そんな脅しはいりません」
「ええ~…」
この魔女とか言う人は不器用なのだろうか。大体この世界で魔法が使える人間は多いが、『魔女』まで名乗っている人は数えるほどしかいないはず。有名なのは世界の双璧の1柱、『凍結の魔女』。噂によると「気分屋でつめたい、力はあるが人の心がわからないと」言う人もいれば、「義理堅く、優しさにあふれてはいるがまあまあ適当」と言う人もいる。つかみどころのない噂だけはあの村でも聞いたことがあった。まさか姉さんと同じ歳ぐらいでそれではないだろう。きっと別の魔女なのかもしれない。
「アオ、イオ、この方が私たちを助けてくれた『凍結の魔女』さん。千年以上生きてきている大魔女さんで、私たち3人を救出したうえで、お弟子さんにしてくれるんだって」
頭の中でちがうということにしたというのに、まさかのまさかか!もう1柱の『救国の魔法使』いもそうだけど、すがたかたちのがまったく伝わってこないから、わからなかった。こんな見た目が姉と同じぐらいの少女だったとは。びっくりすぎてまじまじと見てしまう。
「そんなに見つめるな。見つめるほど美少女か?」
何を言っているんだこの人は。突っ込みがとまらない。
「凍結の魔女ってもっとなんか…ええ…イメージと違う…」
アオが口走る。オレだって我慢してるんだからこれ以上何もいうな。
「それではそのイメージ、あとで聞くこととしよう。まあ、これから共同生活が始まるわけだからそんなに警戒するな。暫く使い魔としか生活していなかったからな、人と生活するのは本当に久しぶりじゃ。まあ、最初はストレスがかかるかとおもうが適度に気晴らししつつ生活しよう!よろしくな!」
この魔女、にこにこと笑っているが、ほんとうに笑っているのかはわからない。
「ただ、これだけは言っておこう。氷那のやっていたあの瘴気吸収、私の元にいる間は間違いなくさせる気はない。むしろやったら怒ってやる。これで、わたしへの信用にならんか?双子」
この言葉については「ありがとうございます」としか言えなかった。アオも同じだった。
◇
それから1日、凍結の魔女は僕たちに魔法の基礎を教えると言ってリビングに集めた。姉はいいのか?と聞いてみたら、思いがけない回答が返ってきた。
「お前たちの姉はな、普通の魔法とは違う才能を持っているからな、魔力のコントロールを教える、であれば一緒に教えてもいいのじゃが、魔法を教える、となると対象ではないんだよ。言い方は悪いが『巨大な魔力タンクそしてそこからの安定供給が可能みたいな魔力のダムみたいなことが得意な特殊タイプ』でな、それ魔力の貯めこみ以外でできるのが『瘴気を魔力として取り込む力』なので、属性魔法の才能は皆無じゃ。だから今から行う勉強会、受けてもいいがそれを活かす才能はない。代わりと言ってはなんだが、お前たちは得意だとおもうぞ、属性魔法」
「というわけで、お姉ちゃんはアシスタントです」
魔女の横には楽しそうに姉が立っている。
「お前たちは魔力暴走を起こして通常”MP”という形で数値化されている部分を越えて生命力まで魔力に変換して暴走して死にかけた。だから、初心者に魔法を教えるのとは違う、コントロール重視でいける教え方をする。一度はずしてしまったリミッターはきっかけがあれば簡単にはずれるからな。あとな、私は言葉をかみ砕いて教えるのが苦手だからまあ、言葉ではなく内容が頭で理解できるようにしてるからまあ、わかるだろ」
そうなんですね!と兄は能天気に返事している。オレたちは魔力はきっとあるだろうけれど、それを出すことも使うこともなく今まで生きてきたけれど、息を潜めるように生きてきたオレとアオにとっては本が唯一の娯楽で、魔術書から歴史書、研究書から物語までもれなくなんでも読んでいた。わからない言葉があれば【ステータスボード】も併用して辞書で調べ、両親が残した血族の収納に入っていた本はほぼ全部読みつくした。だから、凍結の魔女が心配する『言葉が難しく理解が難しい』ということは、実はほとんどない。よっぽどの専門用語が出てこない限り、概ね理解することができる。
ここでは大人の言葉を理解していないフリをすることもなく、正しく言葉を言葉として受け止め、教えを受けることができるらしい。
しかしもって『凍結の魔女』とはどんな人なのか、まったくつかめていない。
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