第195話 秘境イノハナ(8)

 大体この世界に入り込んで3日目、巨大なキノコのベッドに弟子2人が寝ているファンシーともホラーとも言い難い見た目を眺める。正直いい加減飽きてきたので、ついでに横にチーズ嬢のリアルタイムカメラを設置。ワイナリーに戻り、作業確認を行ったうえである程度のところまできたのだろう、これからどうもシラタマ国へ行くようなので、確実にヤツに気が付かれて面倒が起きることが目に見えているため、転移魔法発動と同時にモニターを切る。

「何とか天ともうまくやっていたようで何より。アオが率先して面倒みてたからなあ。良くなついていたし」


 そういえばさっきの記憶のさかのぼりで、シラタマ国が母方のルーツとか言っていた気がするが、私にそんなこと一言も言ったことがなかったし、先日シラタマ国に行った時も正規ルートで普通に入っていっていたようだけど、特に自分の出自を探るようなことはしていなかったと思う。そんなことをしていたら、チーズから「アオくんのルーツってシラタマ国だったんですね」とか、報告が入るかと思うからだ。いや、チーズの口が堅い可能性もあるが。


 ◆


 凍結の魔女が持つナット王国の拠点は2階建ての一軒家だった。木造だけれども建付けは良く、メイン拠点として使用中であることから、使用人もいない。そもそもが魔力暴走を起こしたオレたちの魔法トレーニングということで、みんなで近くの平地に向かう。

 

「わたし独り暮らしじゃったし、身の回りの整理がつかなかったり予定を飛ばしちゃったりということはまあ、あるが、些細なことじゃろ?」

「些細ではありませんので、これからは私がしっかり確認しますね。あまり簡単に予定を忘れると、信用もなくしちゃいますよ」


 姉さんはいつの間にか凍結の魔女と本当に仲良くなっていた。どちらかというと警戒心の強そうな者同士、なにかが響きあったのだろうか。

「アオ、お前魔力暴走起こした時の事、覚えてるか?」

「なんか、姉さんの姿を見たら目の前が真っ赤になって、そのまま記憶がない。しかも姉さんの姿を見た覚えはあるけれどその姿の記憶はない」

「ヤバイな」

「やっぱりヤバイよね。しかも僕の怒りがイオにも伝わってまとめて暴走したっていうだろう?迷惑かけてごめんね」

「いや、姉さんもオレたちもあの村から出るか死ぬかみたいになっていたから、結果良かったんだと思うよ」


 そんなことを話しているうちに、目的地の平原に着く。


「さあて、お前たち。お前たちは魔法を今まで使ってきたことはないと聞いている。そして怒りを原因として火魔法を発動した、と聞いているが間違いないな。まあ、わたしも見たと言えば見たのじゃが」

「はい」

 素直に返事をする。

「魔法の使い方のレクチャーは誰かから受けた事はない、ということでいいな」

「本で読んだだけです」

「よし、それはなにより。変な癖がついていると矯正するのはめんどくさいからのう。やたら詠唱をするとか、俺の格好いい呪文を唱えるとか、気合の言葉とか、必要もないのに唱えているのを見ると、滑稽極まりないと思う訳じゃ。」

 確かに読んだ本には、詠唱は書いてあった。が、兄の魔力暴走に引きずられて魔法が引き出されたので、詠唱なんてことは全くしていないので、いらない、ということはわかる。

「お前たちに覚えて欲しいのは、『今の自分の魔力の限界』じゃな。それさえ覚えておけば、生命力まで魔力に変換して絞り出して昏睡することもなくなる。普通の魔法使いは数値化されている”MP”というリミッターを無意識に意識している。お前たちはそれを最初から意識しないで魔法を使い始めた。総魔力量は氷那の弟だけあってかなり大きいから普通に魔法を使っていくにあたっては全く問題はないはずじゃ。ただ、何か、窮することがおきたときどこまでも自分を削る可能性がある。それをわたしはつぶしておきたい。どうじゃ?わたしがお前たちを弟子にしようとした理由、わかるか?」

 そう言われて、オレとアオは、頷いた。頷きながら思い出した。今オレたちは15歳、記憶の中の姉はにこにこしている。


 そうだった。オレたちが弟子にしてもらったのは、双子だったから、とかいうしょうもない理由ではなかった。

 大魔女の気まぐれサービスかはわからないけれど、生きていく術をいちから教えてもらうために、弟子になったんだった。


 くだらないことでいじけて申し訳なかった。思い出した。もう、凍結魔法の影響もオレたちにはない、名前も取り返していたというのに、なんでこんな大切なことを忘れていたんだ。


 

『イオ、聞こえるか』

『聞こえてる』

『精神干渉を受けちゃったな。情けない』

『でもそのおかげで思い出したな』

『なんでこんな大切なことを忘れていたんだろう』

『師匠といることが日常になりすぎて、出会った頃のことを忘れていたとか、弟子の名折れだな』

『恩返ししてもし足りないというのに、さっきのあの顔、覚えてるか?』

『とりあえず、謝ろう。それから考えよう』

『どうやったら戻れるかな?』

『いっそ魔力暴走起こせば師匠止めてくれるんじゃないか』

『それだ!』


 過去の師匠に教えを受けながら、魔力のコントロールを学ぶふりをして思い切り、持つ魔力を、暴走させた。


 ◆


「ばかたれー!!!!」

 師匠の杖の物理攻撃で、目が醒めた。

「目覚めるために魔力暴走させるばかたれはどこにいる、ここだな?ここにいるのだな??」

 2人そろって思い切り頬を抓られた。意識がはっきりしてくる。

 

「う、うわ、なんですか、ここ」

「キノコだらけですね?!ファンシーかホラーかわからない!」

 

「そうか、そうだな。お前たち、わたしに言いたいことはあるか?」

 そこには、師匠が大人の姿をとったらこうなるんだなっていう、見た目の女性が立っていた。

 

「なんで師匠育ってるんですか」

「師匠、大きくなっても絶壁なんですね」


 そこまで喋って、まずい、と思った時点でもう遅かった。

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