第192話 秘境イノハナ(5)
そこには転移の残り香があった。
「ここに来てたよな」
焼け野原となっている村の、もと社があった場所に立つ美しい男。
「異変を察知してきて見ればなんだい、完璧な呪詛返しが決まってるじゃないか。お前たちは一体何を…うわ、記憶が一部抜き取られて封じられてる。やっぱりこんな魔法使うのアイツしかいない…来るのが遅かった」
そこから顎に細く長い指を当て一考する。
「自業自得な部分を救済するのは趣味じゃないから、呪いはそのままに住める場所だけ再建の手伝いはしてやるか」
そう言うと杖を地面に向けこつんと当てる。
地面に這いつくばっていた村民が一斉に目を覚まし、起き上がりつつそれぞれに呻く。病気も、加齢も、怪我も皆んな全て本人に返っているがために、これが、この村の正しい姿だったのだろう。
実際、この村は滅びゆく村だった。若者は3人しかいなかったのだから。今の生にしがみつき、他者の犠牲を全く意に介することがない。
「やあ、私は『救国の魔法使い』の二つ名を持つ者。君たちは住むに困っているようだね。私に献じる金銭次第で家を再建してあげることはやぶさかではないよ。ただ、体の不調については専門外、他を当たってくれたまえ」
その美しい男の周りに呻きながら縋る人の姿が、そこにはあった。
◇
「気が付いたか?よく眠っていたようじゃけど」
3姉弟のうち、一番最初に目が覚めたのは、姉の
「ここはナット王国のはずれ、わたしが拠点としている家だ。お前に危害を与えるものはもうここにはいない。防御結界もしっかりはってあるから、安心して養生するといい」
種族の違いがわかる見た目の少女を何故かすんなり信じてしまったようだ。静かに頷き、両手を見つめる。あの大きく自分を蝕んでいた瘴気が、まったく見て取れない。この少女が治してくれたのだろうか、と顔をあげ目で訴えてみる。
「あ、お前の不調の原因じゃが、お前の弟がすべて引きはがし、元の持ち主にもれなく返していたぞ。なかなか見どころがあるな」
「あの、弟たちはどこに」
氷那は自分の声とは思えないほど声が枯れていて驚く。
「2人揃って魔力の完全放出なんて命知らずなことをやったために昏睡しとるよ。まあ、魔力が大体…7割ぐらいもどれば目を覚ます。見たところ兄が覚醒して弟の力も引き出して、怒りのせいで力の制御が効かず暴発して大放出してしまったんじゃろな~」
「昏睡って!」
そう言った先からせき込む。弟たちが独り立ちできる18歳まではなんとか、と村の中で自分たちの場所をつくることに躍起になっていた結果、弟たちに心配をかけ、事件をおこさせてしまったことに気が付き、真っ青になる。生きていくことに必死になりすぎて、独りよがりになり、周りが見えなくなっていたのだ。弟のためをおもってやっていたことが、弟を追い詰めていたことに、今更気がつくだなんて。
そして瘴気が体からぬけたせいで誰よりも先に目が醒めたというわけだ。
「大丈夫じゃよ、これからお前たちは私の弟子として庇護してやろう。眷属や使い魔はいるが、弟子ははじめてじゃよ?喜べ」
「あなた、わたしと同じ歳ぐらいなのに、変な話し方するのね」
氷那は疑問に思ったものを、声を出すのもつらい声帯を使い、尋ねる。
「あはははは!そう見えるか!ありがとな!」
完全にその少女は泣きながら笑っている。
「あのな、『凍結の魔女』って聞いたことがあるか?」
聞いたことはあった。莫大な魔力で国の行き先と祝福を司る、とか、国に取り入る悪い魔女、とか、プラスとマイナスの噂が同時に立つ、千歳を超える魔女。双璧として男性の魔法使いもいるとかなんとか。まさかこの女の子が?
「それがわたしじゃ。まあ、よろしくな。お前たちが千年以上生きてきて初の弟子とりじゃ。たっぷり祝福してやるぞ?」
その魔女、と名乗った少女はニカっと笑った。
◆
「なんでこんな昔の自分の映像を俯瞰で見せれなきゃいかんのだ。しかも視点もバッチバッチに変わるし、アイツも出てくるし。視聴者の事を考えて編集しろ!って文句言う先もないけど!あとどうも心筒抜け大暴露になっているのはそこに囚われてるアオとイオの時だけらしいな。ギャラリーがわたしだけでよかったな」
あまりのことに大きな独り言を言ってしまう。こんなものは自分で語ることはあっても、誰かに覗き見られて良いものではない。わたしだって本当はしらないところまでは見たくはない。
ただ、いまこのキノコにより精神干渉は過去のリバイバルと、その時おこったことの第三者視点の追想だ。それだけで済むならいい、このまま起きてくれればそれが一番いい。
ただ、ここまで精神の深いところに潜り込み再現することができるほどの囚われ方をしている時点で緊急事態がおこるまでは引きはがすべきではない。が、緊急事態には絶対て待機しておかねば、弟子に気を使った上に弟子を失うなんてことにれば凍結の魔女の名折れ。しかも、ナットの王城でずっと頑張ってくれている氷那に申し訳が立たない。
「頑張れ、弟子ども。突破口を探せ探せ」
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