第112話 ナット/食糧難からの脱出(8)

 「いままで掃除ばっかりやっていたから、新鮮だよなこういうの。結構楽しい。」

「土の上歩くのもなんか、運動になるよね、トマさんもその下っ腹も少しかへこむんじゃないの」

「違いねえ。そしてお前もな、サラ。」


 俺たちの記憶が1か月ぐらい飛んでいるのは、凍結の魔女の魔法のためらしい。そう、魔女から説明があった。俺たちは歴史として魔女の働きを知っていたがために、別に追放されていたとして協力してくれるのであれば、こちらも協力するつもりだ。

 国がおかしくなっていることに気づいていても、下っ端は何を言っても受け入れられることもないだろうし、正直反乱が成功するとおもえないし、命も惜しい。

 

 というわけで、地下資源食い潰し王国から、農業王国に至るべく舵を切った我が国ナット。いや、そもそもナットって国名だったか?という疑問もあるが、いまはとりあえずこの国名を受け入れる。

 

 そして今は、畑の畝に対して均一に苗をイオ様指導のもと、魔法により植え付け、水をたっぷり与えた状態だ。それが正しく植えられているかについて、みんなで畑の中を歩き回りながら確認する作業を実行中。


 チーズ様は、凍結の魔女が呼び寄せた異世界の住人らしい。主にこの国の立て直しをするために、その知識を惜しげなく与えてくれている、今日は桃色のつなぎを着ている、謎しかない女性だ。肉の在庫がないから、明日はみんなで狩猟だ!とか言っていたので、多分、明日は狩りをするんだろうな。


 ◇


 「魔女さん魔女さん、どうもこの20人、みんな、名前普通に取り戻してません?」

 数日前から疑問に思っていたことを、魔女さんにぶつけてみる。

 

 「そうなんじゃよ。なんでじゃろうか。ただ、名前が認識できている時点で力が全力で発揮できるようになっておるはずなので、役立ち度は高いかとおもうぞ。ちなみにアオとイオも魔力が高止まりで安定しているので、前より難しい魔法も使いこなせるはずじゃぞ。」

「皆さん、王城の管理清掃が主な業務だったんですよね。」

「そうじゃよ~。いずれもそこそこの魔力はあれど外で戦うには至らなかった者たちよ。この世界の人間は主に魔法があり、その適正にあわせて武具を扱うのが常、生え抜きの剣士とかはこう、滅多にいないというか、魔法の影響力が強すぎて魔法を持たぬと本当に戦い抜けない世界なのじゃ。主にモンスターが魔法を帯びていないと戦えないような強さがあるのがまずもっての原因ではあるのじゃが。」


 魔女さんにとっても疑問であったらしい。なんとなく、この国に紛れ込んだイレギュラーは兄とウララさんだと思うので、どちらかの影響ではありそうだけど、どちらかというと吉祥の白竜ウララ様のような気がしなくもない。


 そんなことを考えつつも、もう1つの疑問を解消するべく、そっと魔女さんの方を見、目を合わせる。魔女さんは目をぱちぱちさせる。かわいい。

「魔女さん、前からおもってたんですけど、そのじゃじゃ言葉無理してません?なんかあやしいんですよ。時々。」

「え、そうかのう~きのせいきのせい…というこで!」

「じゃあ、気のせいということで。ただ、無理してるならばいつでもやめてもいいですよ」

「そうか…そうかのう…」


 目が泳いでいる。ほんと前々から思ってはいたんだよね。救国の魔法使いさんの言葉遣いがあんなかんじだし、時々語尾が扱いきれてないし、もしかして千年生きていたことと、宮廷魔法使いであることから自分に箔つけようと無茶してるんじゃないのかって。どうも、やっぱりそうかという感じ。


 好奇心が勝って聞いちゃって申し訳なかったきがしてきた。ただ、これ以上突っ込むとかわいそうだからやめておこう。申し訳ない。

 

「■■様、何の話ですか?」

 私と魔女さんが話しているとみて、アオくんが駆け寄る。相変わらずアオくんが発声する、魔女さんの名前は聞き取れない。


「お前が名前を取り戻したから魔力が安定したという話じゃ」

「あ、やっぱりそうですよね。安定してますよね。それ、イオもですよね。なんか、[畑のマエストロ]魔法前より楽そうだし、磨き掛かってる気がするんですよあいつ。ああいうのは僕は真似できないなって思います。」


 遠目に営農魔法指導をしているイオくんを見て、そう言う。そして、アオくんの腕にはあたりまえのようにういが抱っこされている。いい加減抱っこ癖がつくんじゃないのかこれは。

 

 ちなみに、アオくんは今回、苗づくりのみの参加で、外仕事は作った苗を担当に渡す以外はほぼ何もしていない。ういと遊んでいるだけ。ただ、苗づくりのときは本当に積極的に参加してくれているので、本当に何も言えないし言わない。ただ、あまりにも明らかに遊んでいると不興を買うので適当にしてほしい。いや、魔女さんも何にもしていないのだが、私が植え方、見方などの指導、魔法方面の指導はイオくんが一人でなんでも担って指導にあたりすぎてるので、職員の信望が明らかに厚くなって来ている。


 ちなみに、今回はジャガイモ、人参、玉ねぎ、キャベツ、トマト、枝豆、さやえんどうの苗を植えたのであった。

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