第9章 アトル/星の窟

第120話 アトル/星の窟(1)

 久しぶりに戻ってきたアトルの拠点。魔女さんの使ったホコリ除去魔法は私たちは使えないので、とりあえず掃除をする。

 

「今日は市場にいってフルーツでもいっぱい買ってきて食べましょうか!ナットって果物に乏しいんですよね。今すごくマンゴをいっぱい食べたい気分ですよ。」

 志摩が何の気なくそんなことを言う、が、はっとした。フルーツないじゃん。というか、何があるのかすら知らない。

「ごめん、気が利かなくて…」

「僕も気がつきませんでした…あまり食べる習慣がなくて」 

 

「私もともとの食性から人型をとるようになったことで嗜好が変わって果物が好きなんですよね。口が過ぎました、聞かなかったことにしていただけると」

「いやいや、参考になったよ!ありがとう」


 掃除が終わったので、志摩はマンゴの買い出し、わたしとアオくんはアトルの街をギルドまわり以外あまりわかっていないので、散策しつつ少し慣れるための散歩をするということになった。アトルの地図は認識阻害の範囲外なので、地図を確認しながら歩くことに。

 正直治安はあまりよろしくないので、ういも含め、大事なものはすべて【無限フリースペース】に突っ込んでおく。

「うっかり人気ひとけのないところとか、路地裏とか行かないでくださいね」

「まあ、何かあればワープで帰ってくるから心配しなくて大丈夫!アオくんがいれば、まあ、なんとかなるだろうし」


 そう言うとアオくんはこっちをじっとみたうえでこんなことを言う。

「……チーズさんもすでに割と強い部類になってる自覚ないんですか。」

「え?」

「え?じゃないです。先日のレーザーは対処する術がスピードも含めなかったから僕が前線に出ましたが、この国のその辺のモンスターなら普通に戦えますよ。ダンジョンとか、明らかにレベルの違うドラゴン種とかなら話は変わりますが。」

「兄と比べたら…」

「あんなのと比べちゃだめですよ!救国の勇者とかいってますけれど、世界のバランスブレイカーにすらなれる、場所が変われば魔王にすらなれる逸材ですよあにさんは!本当に、チーズさんのお兄さんで、兄妹の仲が良くてよかったです。」

「まじでー…」

 

 しかしだよ、私より弱い人なんて、こないだ復活した西の離れの人たちぐらいで、私のこの世界での仲間と言われる人たちはアオくんも含め全体的にレベルの程度が知れないのばっかりで、ずっと下っ端だと思ってたので驚いた。いや、下っ端に変わりはないとはおもいますがね!!

 

 それに兄がどう考えても輪をかけて様子がおかしい。昔からキャラが強かったけれど、この世界に来てすらキャラが強すぎる。

 あれであの人、思慮深いイケメンスーパー料理人ぐらいに自分のこと認識してそうなんだよな。強者の余裕しか感じられないのでマジで一体なんなんだろうか。でも、出奔してくれたおかげで無理なく大学進学できたようなこともあるので、感謝も一部ある。間違いなくある。

 

「というわけで、問題だけは起こさないように気を付けつつ、散策に行きましょう。」

「では、私も果物をいっぱい買ってきます。好きなものを好きなだけ。」

「明日は次のダンジョンに挑むつもりだから、大体2時間ぐらいの散策で切り上げてくるね。」


 また地域にあった軽装に着替えて外に出たら陽気の圧に負けそうになる。紫外線除けの魔法以外に、キャップもかぶり、サングラスもかけた。

 この南国の暑さを体験すると、ナットってなんか、転写されてもそのまま大体が問題なく生活できる程度には北海道に似た気候なんだな、って思う。暑い日は暑いが、なんかこのカラっとした感がないところが。


「拠点があるから気にしてなかったけど、ここにも冒険者ギルドご用達の宿泊所ってあるんだね。」

 市場の隣の通りを散策しながら、アトルの宿を見かける。ネルドと同じように受付があり、シェアハウス型宿泊所が見た感じ10棟はある。もしかするともっとあるかもしれない。


 ピラミッド型祭壇を取り囲むように都市が形成されているが、さっき志摩に近づくな、と言われた一区画、大きな寺院の裏はスラムのようになっているらしい。実際スラムはテレビの映像でしか見たことがないが、とりあえず私がものすごく強くなるか、何か用事でもない限り行かない方がいいだろう。

 お店についても市場の露店で大体なんでも買えそうとか思っていたが、革製品のお店やブティック等、割と近代的な店も実店舗として存在している。びっくりしたけど、多分、ブティックで買い物できるほどの資金がない。どん底なナットのイメージでこの世界を歩いていたせいか結構裕福な国と認識するのに時間がかかった。別に謝ることじゃないかもしれないけどごめんなさいほぼほぼ知らないアトルの王様。

 

「あれ、あそこ手芸用品屋さん?えーこの世界でも手芸用品屋さんってあるんだ」

「あそこは世界のシェアの40%を担う手芸屋さん『イトマキグルマ』ですよ。全世界チェーン店で、旗艦店はおわかりかとおもいますが、アトルにあるこの店です。」

 手芸屋さんであれば、私の手持ちでもある程度太刀打ちできるだろうと思い、店内に入る。

 

 目に入ってきたのは各種多様な糸、ボタン、そして布、一般的な手芸用品。天然石も売っているようだ。本当に、テンションがあがる。

 これはまさに、ワンダーランドだ。


「いらっしゃいませ」

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