第328話 バナクコート(7)

 前情報が前情報なだけに、ちょっとドアを開けるのにドキドキするというか冷汗がでてくる。そんなことはお構いなしに、ういが早く開けるように、促してくる。


「はいはい、ちょっと待ってね~」


 大きな両開きの扉がそこにあり、アオくんとイオくんが示しあわせ、左右同時に開けた。


 冷たい風、いや、吹雪?氷つぶてが吹き抜ける。さっきまでマグマ怪人と戦っていたことから考えても寒暖差が激しい。こちらはがっつりバフをもっていたので痛くも痒くもなかったわけだけど。軽く風圧は感じる。そして氷のつぶてが顔面目掛けて飛んでくる。そんな時間が3分ぐらい続き、止んだ。


『どうして効かないの……!』


 そんな声が前方から聞こえてくる。足元から禍々しいオーラを立ち上らせた、まるでモヤ王を彷彿とさせるモノがそこに居た。声は女性のようだけど、姿が全く見えない。それを見て真っ青になる双子。それはそうか。


『許さない……許さない……!絶対に許さない……!!!』


 主語がないから全く的を得ない。

 そして先ほどのはインターバルだったのか、再び吹雪のような攻撃が開始される。ただ、抱き上げたういはじっとそのモヤの方を見て、尻尾も振ってない。いつもみたいにひと吠えで除霊みたいなこともしていない。考えることがあるのかな?


紅鳶べにとびの残留思念とは別のパターンなことは確かですね……。うん。冷静に……」

「分析、すっか」

「そうだね」

 

「……なんだなんだ。黒いモヤの中にスケルトン。この人のおしゃれかなにかかな?ねえテミちゃん」

「私と同族ではなさそうだな。なんだろう、妖怪とも違うし、出会ったことのないものだな」

「意味不明な悪意向けられてるのもわけわからないけどね」


 冷気が飛んできては止み、飛んできては止み、を繰り返してる、もといそれに対し矢面に立って対峙しているうちに、天くんとテミスに新たな動きがあった。


「うわ!これ!お掃除に巻き込まれなくてよかったね」

「人間……人間だよな?このモヤの仕業かな?」


 明らかに振り返りたくない言葉が聞こえてくる。君たち1歳にもなっていないのにそういうものに耐性があるとかどこぞの名探偵なのかい?……そういえば閃閃と閃電と出会ったあのダンジョンでも埋葬沙汰があったなあ。いやいやいや、こんなスパンでそういう状況に何度もなってたまるか。


「なるほど。スケルトン化しているのは紅鳶の呪いの類似ではあるけれど、これは質の悪い呪い、ってことね」

「ほぼほぼ同じ結果はもたらしてはいるけれど、あっちは姉さんがかばってあの程度、だからなあ。レベルが違うかなあ」

「しかも条件発動だしなあ。どっかで劣化レシピでも手に入れた人に呪われたのかな、この人は。かわいそうに」


 そこでういがワン!となく。今回は特に力がこもっていない吠え方、アオくんの注意を引きたいがための声だった。


「え、うい、そうなんだ。わかった」

「何がわかったの?」

「……チーズさんの動物言語、一向に向上してきませんね。あんなにういに話しかけてるのに」

「痛いところつくなあ!それ、なんでかわからないんだよね!かなしい」

「この霊?といっていいのかな?やっぱり中身はモヤ王と同質みたいで、うい、祓っちゃだめだよって言われたことを覚えていて、祓わなかったそうですよ。ただ、モヤ部分はどちらかというと呪い成分なのでそこはモヤ王とは違うもの、だそうです」

「うちの子、なんて賢い」


 条件反射でういをなでたおす。ただ、ういは相手、というかモヤから視線を外していない。無言で威嚇しているようにも思える。


「ういからの情報ですけど、このモヤさん、先日葬儀が行われた王の母親らしいですよ」

「は?!ははおや」

「そうです、母親。もともとの魔力量が少なかったんでしょうね、月日が経ちすぎたためか言葉を言葉として伝達することはできなくなっているようです」

「……そう。これ、何とかできたりするのかな?」

「解呪?ですかね?」

「ういができるのは除霊だよね?」


 その言葉で顔を舐めてきたので、肯定の意を示してきたってこと。


「うい、いま解呪も勉強中なんだそうですけど、気を抜くと除霊をしてしまうらしいです」

「いつそんなこと試してたの」


 顔をそむける。都合が悪いので言いたくないらしい。

 要するに、呪いを受けてスケルトン化して、そこから自分自身が恨みの化身になってモヤオーラを纏ったと理解してよろしいか。


「……パターンは学びました。いったんリビングに戻って打ち合わせしましょう。失敗して祓っちゃいけなさそうですし、こんな禍々しいオーラをため込むような事件、昔あったってことですよね」

「確かに先王の急死とかに関連していたら……いやいやいや。考えすぎはよくないよくない」

「じゃあね、モヤさん。またあとでね」


 氷や雪の攻撃を浴びながら、扉を閉じるとそれは止んだ。どうもあのモヤさんはあの部屋から出ることはできないらしい。


 ◇


『ねえ、あの部屋で無防備に会話していたけど、大丈夫だったよね?』

『チーズさん、あの部屋に音声魔石はないですよ。だから、聞かれるリスクはありませんでした。おれたちだって聞かれているのであれば色々しゃべっていません』

『大丈夫です!心配いらないです』

 

 ぬかりない。


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お読みいただきありがとうございます。

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