第103話 吉祥の白竜(10)

 そこから5日が経ち、5つの卵に動きがあった。軽く光を放ち、今日中に孵化する見込みとのこと。 


 ウララさんたちはそもそもが兄が拾ってきたようなもので、なんかお世話を押し付けられた感がないわけじゃないけれど、今現在外貨を獲得しているのが兄が筆頭で、私はまだ何もできていないことから、ぶっちゃけ本当に何にも言えない。

 

 ちなみにレイさんたちは、ウララさんの「卵たちが孵るまえに直接会ってしまうと感情がいろいろ抑えられなくなりそうだから直接会うのはもうちょっと待ってほしい」との要望により、人型をとれるようになっているため、看病部屋を撤廃したうえで私の家に住まわせている。あと、孵化した雛たちが食べる食事を、3人で収集しに近隣の森へ行ったりしている。

 王を一人王城に放置していまっている状態ではあるが、いたしかたなし。ただ、私の【無限フリースペース】経由で、給食の配達は行われている。

 

 『そろそろ産まれるぞ』

 白竜は体と尻尾でくるんと覆っていた卵に愛おしそうに声をかける。5日の卵のうち、兄がマーキングした、成長したら兄のところに行く子ということらしい。その卵は真っ先に大きな光を放ち、卵が内側から割れていく。そして、続いてほかの4つもどんどん割れていく。


 最初に割れた卵から出てきたのは、兄の子どものころにそっくりな黒髪の男の子。鳥竜種だけあって羽根が生えている。あと、小さな角も生えている。そして、兄の関わらない卵たちの中は、普通に赤ちゃんドラゴンが出てきた。兄の力のせいで、兄そっくりなちびが出てくることになったのだろうか。

『無事孵化してくれて本当によかった。』

 うれしそうに、うっとりとほほ笑むウララさん。

 あなた達の子どもだというのに、こんな、ビジュアルが兄そっくりに変わってても、そんな感想…というかご存じだったのですね、姿形が変わることを。


 それを見て、魔女さんが立ち上がる。

「チーズ、私をウララのところに行けるようにしてもらえるか、私の得意魔法、祝福を与えに行こうかとおもうのじゃが!私の与える祝福は、無事に成年まで成長するというものじゃ。」

「ウララさん、いいですか?」

「世界2大魔法使いのうちの1柱からの祝福、是非つつしんでお受けいたします。もしよろしければ、この子達の孵化も無事終わりましたので、レイたちもこちらに。」

 特段拒否することもないので、パスを繋ぐ。アオくんとイオくんにも行ってみるか聞いてみたが、映像も接続されれているし、特段用事もないのでいかないという。

 

 魔女さんがウララさんのところに到着した時点で、ウララさんは人型をとっていた。きれいな銀髪、目は真っ青。スレンダーな美女が、そこにいることがモニター越しに確認できた。子が孵化するまでは竜の形を保っておかなければならなかったのだけれども、孵化した今、人型をとっていても特段問題ないとのこと。竜種の中でも人と交流したいもの、知能の高い者は割と人間社会に紛れ込んでいるとのことであり、魔女さんのところの志摩しま永長えなが、私のところのうい(まだ見たことないけど)を考えると、人種以外のものが人に変化して生活していることは考えが及んでよかったはずなのに完全に失念していた。


 魔女さんは着くなり、でははじめるぞ~と言いつつ、きれいな水色の石がはめ込まれた銀色の杖を出し、口上を述べる。これは不要な詠唱ではない、言葉の力を使った祝福であることから、言葉化が必要である、ということらしい。

 杖で4拍子の指揮みたいな動きを刻みながら祝福が開始される。5ちび全部に対して一度にそれは行われる。


「この世に生を受たことに祝福を。健やかに健やかに。美しさと聡明さを、そして愛される個性と、丈夫な体を。」

 そう言うと杖からキラキラが部屋全体に広がり、5ちびに降り注ぐ。映像越しにみる魔女さんは何気に満足げである。

 

「しまいじゃ。わたしは帰るのであとはごゆっくり」

 踵を返し、ウララさんが人型をとったことにより広くなった育児空間を後にしようとすると、声がかかる。

「少しお待ちを。あなた達が拠点としているナットの、王城部分の機能回復の補助、私が請け負いましょう。城の職員のみの凍結解除を行うことは可能でしょうか。」

「あ~ちょっとそれは、どうじゃろう。今あそこの王城には職員に見られてはまずいものが…あ!今のはなしで!聞かなかったことに!」


 それを聞いたウララは美しい顔にに使わないにやり顔をする。

「実のところ、私たち家族のお世話係がほしいのですよ。レイからもらったものはすべて身に着けていたために取られてしましましたが、私だってそこそこの収納を持っています。レイからもらったもの以外、私をさらった奴とかの贈り物などいかに高額でも無価値なので売り飛ばして結構。これを元手にお世話係を雇いたい。あなたが隠したいものについては詮索しませんし、それが場所であれば凍結解除をした職員がそこに近づかないようにまじないをかけることも可能です。」

 

 魔女さんはちょっと考え、こう切り出す。

「やはり主城の開放ははばかられる。西の離れだけを解放するとかであれば、可能かもしれぬが…どう思う、イオよ」

 突然通信越しに話を振られたイオくんがビクっとする。

「西の離れは居室の数も庭の広さも十分、職員も地方から出仕している者ばかりであり、すべて住み込みなので、可能かと。ただ、王城事態に近づかないような制限は必要でしょうが」

「お主、私の凍結魔法を正しく理解していないな。まあ、説明したことはなかったのじゃが。凍結を解除していない場所は認識阻害が継続的に実施されるので、視界に城が入っていても見えないこととなる。近づかないまじないどころか、ナットは集団記憶障害を利用すればなんとかなる。しかも懸案事項がすべて解決し、全面復旧さえしてしまえば記憶障害は解除されるのじゃがな~」

「まずは西の離れのみで結構ですので育児を行うばしょとしての提供をいただきたい。そして、我が子にいただいた祝福のお返しとは言いませんが、この受けた御恩に対する返礼、しっかり吉祥、国に、人に、授けますよ」

 

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