第102話 吉祥の白竜(9)
救助から3日が経過した。
それがどうだ、この大きな鳥竜種3体を相手取り孤軍奮闘している現状だ。相方の志摩はウララさんの方を頑張って看ているので、それぞれといえばそれぞれなのだが、上位種族の面倒を看るのはやっぱり、怖いといえば怖い。
今まで鍛えてきた自分を信じるのみ、しかもなんだか姫っぽいウララさんの伴侶とその側近、危害は加えてこないはずなのは、わかってはいるのだけれど。
チーズさんの兄が作ったという料理を少しずつ三者に与える。塩分濃度や、栄養素などしっかり考えて体に障らないようなものを作っているというが、この体躯に対して必要な量だ、どこから出したのか巨大な寸胴鍋で調理を施したものを差し入れしてくれる。本当にどうしてこんなに衰弱してしまっているのか。人質にしたとしてもひどすぎる。ただ、気力の差なのか、愛の力なのか、レイ様が一番回復が早い。
魔女様曰く、体力さえある程度戻れば一気に強い薬を使って回復させることが可能である、ということらしいのでもう一歩のところまできている。側近の名はキイとノナだということはレイ様に聞いた。
そこからまた2日。
レイ様とキイ様は持ち直し、魔女様の薬の適用範囲となり、それを飲むことで一気に回復し、ふくふくのぱんぱんになった。薬の強さに耐えられる状態の心臓が必要となり、ある程度の体力がないと逆に死の淵に落ちる劇薬だそうな。
元気になった2人は人型をとれるようになり、コンパクトになったことで、チーズさん宅へ移動していった。
そこで残されたのは、私と、ノナ様。
ノナ様が持ち直せるかどうか。もう5日も経っている。ギリギリ生命を保ってる状態、この回復の差は一体なにかとおもったところ、レイ様から聞くに、3人同時につかまった際、率先して抵抗することによりヘイトを集め、他の2人をかばうべくより酷い扱いを先から受けていたことによるとのこと。誘拐犯はレイ様の身内であったことを考えると、その後封印されていたことも鑑みると、一体何をされていたのか想像したくもない。
レイ様とキイ様からは半分あきらめの気持ちが漏れ出ている。
微弱な回復魔法じゃなくて強い回復魔法をいちかばちか流し込んでみてはどうかといったら怒られた。そう思いたいくらい、衰弱しているんだ。一番近くで見ている私が一番、まずさを感じている。
こんな、5日も看病してきて、そんな結末私がいやだ。
必要なのは生きたいという気力、生命力。この竜に、どうしたらそれを与えられる?私は看護師ではない。ただのしがない、給仕ができるちょっと戦える小鳥だ。死なせたくないだけなのに。
主人に殉じるは臣下の定め。
………チーズさんの家の時間帯は夜になる。私は仮眠から目覚める。
私が寿命を回復資源として分け与える禁呪を使えることを知るのは魔女様と、志摩のみ。を使う義理なんてものは全くない。そもそも我々の基本的な寿命は3年から5年。魔女様の力により、20年程度に伸びているようなものだ。もういっそ使ってしまおうか。私の身はどうなるかはわからないが、大好きな主人に殉じたんだよね、と思うと、なんかすごく、愛おしいんだ。助けてあげたい。そう思いノナ様の手に触れた。
『永長、起きてる?』
そのタイミングで声がかかる。ものすごくびっくりした。正直飛びあがった。
「チーズ様!どうされました?」
『ここまできたら完全に点滴で栄養突っ込むしかないと思って、兄に協力を仰いで竜の皮の厚さを突破する針と点滴つくってた。私ここ数日おとなしかったでしょ?』
確かに。
『血管注射、突っ込むよ、兄に頼んでオートメーションでいける魔法式組んでもらったから。兄の元居た世界の魔法なんかやたら便利だよね。ちなみに輸液は私のお手製。今、志摩もそちらに向かってもらうから。いくら衰弱してても急な痛みで暴れる可能性あるうえに、抑えなきゃいけない可能性も出てくるから、歴戦のめっちゃ強いペアに頑張ってもらえたらな、と。魔女さんには許可得てるよ』
そこから数分、点滴器具を手に持ち、背中に輸液リュックを背負った志摩が登場した。
「永長、あんたのことだからそろそろ禁呪に手、出そうとしていたでしょ。」
「ばれた?」
「どれだけ長い付き合いだとおもってんのよ。」
そういったとたん、志摩はグラスをかけ、腕を消毒、袋から針を出しセッティング。そこからはノータイム、無言でぶすっと針が刺さった。抵抗はない。
「よっしゃ!輸液入れるよ。多分これもう、ぎりぎりだよ」
「ありがとう志摩、私も全力サポートする!」
◇
さらに1日後。ここからはのっぴきならない事情により
衰弱していた鳥竜ノナは、まだ点滴は続いているが、座って会話ができる程度に回復した。
チーズ様の尽力により死の淵からよみがえり、ある程度の回復は、した。もう少しよくなれば魔女様の薬も使えるだろう。
「ずっと聞こえてきたよ、永長ちゃんの声。僕を助けてくれてありがとう」
「従者としてあなたがとても立派だったからですよ」
「君の声、素敵だね」
「あなたこそ」
この竜、目覚めた後ずっとこの調子である。永長もなんかまんざらじゃなさそうなのがむかつく。誰が4メートルの竜と人型メイド小鳥がイチャイチャしているところなんてものを見せつけられなきゃいけないのだ。もう少し回復したらあの竜、人型を取り出したらもう終わりだ。
人型をとっている間は、種族の壁を、超える。超えちゃうんだ。
この先の展開を考えるに、めまいがする。さらば、私の平穏な日々よ。
とはいえ、生き延びたようで、本当によかった。
どっと疲れたので、私はとっととウララ様のお世話に戻ろう。
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