第123話 アトル/星の窟(4)

 アオくんは第1階層、もう面倒になったのか先頭に立ち、星雲型モンスターを殲滅する勢いで狩っている。自分以外が女性であるがために、標的は自分のみ。となると、もうやけくそのように潰している。

 

 ドロップは黄色い星屑のような魔石。そして星屑を模したネックレス。きれいだったので見せてもらったら「あげますよ」っていうので遠慮しようとしたら、すでに手に5本ぐらいもっていた。レア度は★★、どうぞといい、志摩にもあげている。

「あとでういの首輪に加工してあげたいですね。」

 確かに、このネックレス、微妙に発光しているので光る首輪になりそうではある。


 こんな星雲型モンスターが出るのであればういは雄なのでとてもじゃないが、出せない。すごい勢いで噛んだり叩いたりしそうではあるけれど、いかに神聖魔法が使えるとしてもカニンヘンダックスフンド、小さいのだ。

 前のアオくんじゃないけど、ういは結構強くなっている。スキルはういが好き勝手とっているのを、たまにステータスを覗くとなかなかすごいスキル構成になっている。問題は、上がるレベルを楽しんでいるだけのようで、ほぼ実戦経験がない。かつ、実戦をするにしても完全スポット支援職のようなので、ここのダンジョンで出るらしい死霊系モンスターとお目にかかるフロアじゃないと活躍の場が今のところ見込めない。

 実際、出してみると意外と強いがありそうではあるんだけど、飼い主は過保護なのだ。大目に見て欲しい。


 アオくん大活躍により1階層目はあっという間に抜けることになり、次のフロアへ。ただ、アオくんが居なかった場合はただの巨大な迷宮であったかと思うので、まあ、いいとしよう。

 

 2階層目は、1階層よりはわかりやすく、屋外巨大迷宮のような作りで、時間としては夜。ただし、空は赤く、星雲が広がっている。その薄い明りのみで踏破しろという構造らしい。光を灯す魔法などつかってしまうと、集まってきたモンスターを相手に大立ち回りをする羽目に陥り、ほぼほぼ全滅、焦って[出口戻りの魔石【星の窟】]で逃走を図るという、先人に感謝をする羽目に陥るとの志摩のありがたいお言葉。

 魔法を使いさえしなければ、このフロアは大丈夫ということで、ういを【無限フリースペース】のハウスから出す。ゴールまでの散歩を開始!


「明りを灯す魔法をつかったモンスター集合バトル、今の私たちであれば、入り口で過剰戦力と言われたぐらいですし、普通に戦えるとおもいますよ。やってみます?」

 そんなことも言い出しているが。

「面白そうですけど、そういうのは、次のフロアへの出口見つけてからやりましょう。退路確保してからやった方が思いっきりいけますからね」

「は?!なんでそんなやる気なの」


 志摩が困ったねっていうようなジェスチャーを交えながら続ける。

「ここのダンジョンの低層階って中ボスまでなんですが、ギミック踏まないと敵と戦えないんですよ。風景はものすごくきれいだから好きなんですけど、ただの大型迷宮ですよ。」

「あと、そのギミック踏んで戦った時だけのドロップもあります。さっきの1階層は男性を同行させるというギミックになるので、そこそこのレベルの男性だと危険なので、護衛レベルの男性冒険者を連れていくということで、パーティーメンバーが募集されていたりもするんですよ。冒険者ギルドにはそういう役割もあったりするのでその辺もあとでちゃんと冒険者ギルド、見てくるといいですよ?」


 正直言って冒険者ギルドはランク上げる場所としか思っていなかった。なんてこと。


「志摩さん、そんなこと僕に一言もいってないですよね?」

 ちょっとむっとした声を出している。わからなくもない。

 

「その年齢にしてその思考力とその強さを持っている人に、とりわけ伝えることでもないでしょう。私が見てきた間だけいっても、あなたが子どもっぽさを見せるのはチーズさんが出す異世界の面白乗り物とチーズさんのお犬様相手にしたときだけとしか言えません」

「そんな僕歳不相応なつまらなそうな人間ですか!」

「別にそんなこといってませんよ。全く。ええ」

 

 にこにこしながら、お互い見合ってる。これ、どっちにも声かけないほうがいいやつ。私はういの散歩に徹しよう。嬉しそうにしっぽをあげながら、散歩している。時々ダンジョン迷宮のあちこちで小さな虫のようなモンスターを見つけては踏みつぶしてはいるようではあるけれど、特段今の段階では何の影響もなさそうでよかった。

 

 迷うことなく、30分ぐらい歩いたところで、3階層への扉を見つけた。

「さて、やりますか、運動」

「光魔法、アオくん使えるの?」

「僕より適任が居ますよ。おいでうい」

 しっぽを振ってアオくんのところに駆け寄る。そして抱っこされると同時に、光の柱がアオくんの真後ろで上がった。

「good boy」

 

「え、うい、えええええ?!」

「僕、【動物言語】のレベル、実は高いんですよね。ういくんとの意志の疎通はばっちりです」

「ず…ずるい!」

「頑張ってレベル上げてください。」


 ぐうの音もでない。


 そして襲い掛かってくるのは、大量の、ゴースト。結構な数がこちらめがけて飛んでくる。私は銃に弾を込め、迎撃を試みる準備をする。志摩も同様に戦闘体制を整えて襲い来るゴーストを見据える。

 それれなのに気が抜けたようなアオくんとういの会話。

「え、なに、使ってみたい。いーよ」

 何が。しかし危険が迫るのであれば、ういをしまわないと。

「うい、しまった方がいいよね。」

「いえ、ちょっと待っててください。」


 襲い来るゴーストたちにめがけて飛び立つうい。おおよそ3キロぐらいしかない、ういの小さな体躯が、体重不明、その大きさ3メートルほどになり、中空で停止。ゴーストたちを見据えると、大きく一発吠える。というか吠えた。


 それと同時に、襲い掛かってきたゴーストは全部キレイに消し飛び、ドロップ品だけが私たちの手元に落ちてきた。その時間数秒。

 ういはういで仕事が終わったと言わんばかりに踵を返し、おそらく、【巨大化】スキルだったのだろう。その【巨大化】を解き、元のサイズに戻ったとおもえばアオくんの腕におさまり、べろんべろんに顔をなめている。

 アオくんはそんなういを思い切り撫でながら、「ご褒美の肉だよ~」と、干し肉を与えている。あれ、何の肉かな。


 貰った干し肉をほおばりながら、ういのしっぽはぶんぶんと振られている。


「ねえ、アオくん。なんでうい、こんなことできるの。いまのういの動き、【動物会話】を使った指示の域超えているでしょ。」

 そういうと、アオくんはういと一緒にこちらを向き直る。

「これは、ういくんのチーズさんを護り戦う意志に僕とあにさんが応えて、チーズさんの目を盗んでいろいろ教えてきた結果ですよ。お披露目できてよかったねうい~」

 

 ういは本当にうれしそうだ。

 ありがとう、うい。

 しかし強烈だなエクソシスト犬。

 

 志摩はその光景を、戦闘の肩透かしを食らった状況で、何とも言い難い顔で見ているのであった。

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