第48話 ナット/凍結の魔女の憂鬱(3)

「王、突然の来訪失礼します。初めまして。人からは『救国の魔法使い』と呼ばれています。」


 長身の美しい男は、それまた美しいボウ・アンド・スクレープを見せた。


 その存在感だけここの場が浄化されるようだった。なにが原因でこのイケメンから逃げ回ってるんだ魔女さん。

 

「■■が何代にもわたりお世話になっているようで。軽く千年ぶりぐらいですよ直接会うのは。」


 なんか謎にいい匂いする。なんだこの存在は。


 うちは兄も顔面偏差値が高いせいかまあまあイケメン耐性はあるとはおもうんだけど、これは、別枠と考えてしまう。


「あなたが『救国』の。お噂はかねがね。いまこの国は貧困に沈んだ結果、『凍結の魔女』の力と『異世界の君』の助力を受けながら復興を試み始めたという段階なのです。『凍結の魔女』に『凍結魔法』をお願いしてでも再建を試みなくてはならなかった理由としては…」


 言いかかったところで、魔法使いが制止する。


「その先は言ってはいけません。貴方と貴方の子孫以外の方が聞いてもいけないし察することはあっても知ってはいけないことです」


 モヤ王から救国の魔法使いに、「よくご存じですね」と言葉がかけられ、それに対し魔法使いさんは「長生きですから」、と返していた。

 

「■■には些細なことで避けられて逃げられていたんです。この国が『凍結の魔女』の魔力で凍結され、姿を隠したことはわかってはいたのですが、外からは招待もしくは何かしらのきっかけをつかまないと潜入できない仕組みは見て取れてもいました。 私の趣味で困った国で人助け、というのがあったのですが、さすがの『魔女の防壁』、手も足も出ず、半ばあきらめていたのですよ。」


 些細な事って何だろう。


「たまたま、ネルドのドラゴンの厄災に気づき、支援プランを考えようと改めて移転先とキャラバンをスキャン中、『”凍結の魔女”に近しい魔力の流れを持つ少年のパターン』と、『”異世界の君”の転写パターン』に気づいたときに、やっと巡ってきた千載一遇のチャンス!と思い、失礼ながら『異世界の君』の影に私の影を忍ばせ、国に潜入させていただきました。まだ『異世界の君』この世界に貼り付けられてから日が浅いがために出来た隙です。』

 

 アオくんが原因ではなく、ナットに潜入許した原因私というか、私の転写パターンが若かったせいかい。

 

「”凍結の魔女”は魔力量と思い切りの良さは最高なんですが、こう、後先を考えないというか。この国とこの世界を考えるに、凍結に踏み切ったのは最善で最良な判断だったと思います。が、大きな魔法であったがために綻びやすく、修復を常時擁し、他にも…うん、世界のためにも復興頑張りましょう。僕も手伝いますよ、この世界がなくなっても困りますし。」


 何か、意味深なことを言っているこの魔法使い。


「心強いですが、『凍結の魔女』がこの様子では貴方様に助力を求めるのは…」

「ご心配には及びません!この魔女はいまこの国からほぼ出れない身、捨てた記憶を思い出すまで追い回します。王国復興への支援、助力は惜しみませんので滞在させてください」


 すごく、いい笑顔だ。ものすごく、いい笑顔だ。微妙になにかが漏れ出ているが。そしてこの魔法使いものすごく有能そうで断る意味がない。


「がんばりたまえ…」

 王は困ったような曖昧なモヤっぷりで返事をしていた。

 

 そしてその、救国の魔法使いは突然私の方に振り返り、かがんで視線をあわせてきた。きれいな顔が近い!近い!!!まつ毛が長い!あといい匂い。


「異世界の君、あなたはこの国から失われていたものを再び持ち込んでいるね」


 そういえば、フリースペースに置いてある。かなりな量のこの国特産の調度品が。

 

「あ、はい。隣国でドラゴンの厄災に巻き込まれ、そのまま打ち捨てられそうになっていたので」

「さすがだね、それのすべてをこの国のしかるべきところに配置しよう。それで少しだけ、”凍結の魔女”の消耗も減るし、状況が『少しだけ』好転する。」


 そして、持ち出してきたものが結構な量であると伝えると、外に出てすべてを出してみようという話になった。

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