第4章 ミアカ/営農指導

第56話 ミアカ/ティーチング(1)

 山に囲まれた海がほど近い村に、魔女さん、アオくんイオくんと訪れた。


 魔法使いさんの指導のもとこの世界に適合させたおかげで、時間が止まらなくなった我が家に兄さんと魔法使いさんとういが待機中だ。これから行うべくは、牛舎と牧草地のカット+ペーストと、モヤになっているここの村民の復活と、産業とするための営農指導だ。

 

 カット+ペーストとモヤの解除は魔女さんの分担、その後は魔法使いさんの助力を得ることで理解を得ている。


 都市部から離れていたとはいえ、『凍結の魔法使い』の悪名が届いていた可能性があるため、魔女さんは担当する仕事が終わったら即イオくんと王城へ退避、その後牧場部分と一緒にペーストされた『救国の魔法使い』と兄が、私とアオくんとともに営農チュートリアルをする算段だ。


 「うおー出張!■■様と一緒であれば出張ができる!海だよ海!アオ、見たか海だよ!!」


 イオくんがはしゃいでいる。結局今のところアオくんはついてきてくれているけど、イオ君との接点はあまりない。

 海は、村からまあまあ遠くに見える。北国の海くらいな重い色をしている海が。


 ステータス画面には国の紹介も見ることができるために見てみるとざっくりした文字を見ることができた。


 《ミアカ村。ナット王国内の北方に位置していて、村の産業は主に山羊の牧畜。現在の人口は30人。》


「30人とは本当に少ないですね…」

「村の中が全部親戚なかんじじゃなきっと」


 奴に言われて悔しいが、矢張りわたしの力が少し安定しておるわ。観測による的確なアドバイスは昔から得意だったからなあ。

 そんなことを言っているが、そんなにギリギリだったんかい。


「チーズ、お前の家を分譲するような形になってしまっているが、申し訳ないのう」

「いや、私もこの世界冒険してみたいし、ちゃんと牛ちゃんたちを見に来れる環境があって、新たな担い手さんに任せられるのであれば、それはそれで。」


 むしろ、見ていてもらってありがたい。従業員を抱えるようなものだから、ちゃんと収益とか考えてあげないと。そして、どんどん増える生乳をどうにかすることも産業として考えなくてはいけない。

 

 今はバルクーラーから排出したうえで時間停止冷蔵でおいてはあるから劣化はしていないが、これからどんどん増えていくうえに、産業として安定させなくてはならない。


 考えてみたものの、牛乳の販売は現状だと手探りすぎて賞味期限からしても見送り。バターをつくったり、スキムミルクを作ったりするにしてもそれなりの機械があるか、工場の機械と同等の魔法の使い手がいるかが重要となる。また、こっちの世界に某社の工場も転写してくれないかな~とも考えたが、工場が転写できたとしても、機械のメンテをする人材も、オペレーターもいなければ使えないので、結局はこの世界に適したかたちで再構築していかなければならない。

 

 そして、一つの大問題。生乳の生産を継続的に行うために必要な技術。私は農学部であって獣医学部ではなかった。要するに、家畜人工授精師の資は持ってはいない。

 しかも、私が見てきた中でいうと、医療ギルドでは人間の治療特化であり、動物たちを診て医療行為を行うという考えがあまりないように思われる。こんなことならば、卒業後獣医学部へ行って獣医師資格もってから帰郷すればよかったか…とも思ったけれど、もう遅い。


 そもそも、こんな異世界に転写されるようなことになろうとは思ってもみなかったし。


「問題がいっぱいあるけど、とりあえず、始めてみるしかないよね」

 元の世界にあった技術とは別の、こちらの世界での技術があるかもしれないし。

 

 そしてもう一つ、これは兄の助言で解決済みではあるのだけれど、倉庫問題。

 生産した生乳をいかにして保存、出荷を行うかについてだ。結論、私のフリースペースを活用する、とのことになったわけなのだけれども、

 ①無限フリースペース内には私は立ち入れないが、私が許可をすることで他人も立ち入ることができる。

 ②フリースペースの中にイマジネーションのみで倉庫を作成することができる。

 ③その倉庫の中に設置した棚に置いた時点で時間停止する。

 ④他人が立ち入る位置について、その一部のみに権限を付与するだけであって、全体に立ち入れるわけではない。

 要するにストレージの分割と共有みたいなものらしい。

 

 ちなみに私のフリースペースへのアクセスチェックをしたのは兄とアオくん、魔女さんだったのだけれども、どういうわけか兄は防壁が作用せず全域立ち入り・使用可能。遺伝子のせいか、何なのかは全くわからない。

 アオくんと魔女さんは正しく、必要とし割与えられた分のみ使用可能であったので、村の倉庫としてゴーサインを出すことになった。

 

 兄は兄で、「お前が生産した農畜産物で旨い料理つくってやるよ!」とかいっている。実のところ勿体ぶってなのか何なのか、再会して以降一度も、兄の料理を食べていない。それなのに、俺のために狩猟免許とってくれたんだ!とかのたまっている。

 

 ほんとうに、この感覚久しぶりである。でも割と嫌いじゃないのはこれも遺伝子のなせる業かもしれない。

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