第81話 シラタマ/刻の庭(5)
「ちょっと俺寝るわ。何かあったらすぐ起きるから」
寝られるときに寝る、活動できるときに活動する。そうしないと、生き残れなかったことによる習慣だ。
「ユウは本当に警戒を途切れさせないですよね。疲れませんか?」
「慣れだよ慣れ」
そこから幸いなことになにかが起きることもなく、あと30分余りで入港するという放送が船内に入るまで寝ることができた。ここで初めて到着地が「シラタマ/白魂」ということが頭で理解できるようになり、やはり文化は日本に近いらしく、漢字として普通に認識できるようになる。
「シラタマかあ。カナで見ると美味しそうな名前だな。漢字にするとなんかちょっとひっかかるけど」
「国の名前の由来は国家秘密らしいですよ。知っているのは王かつ一子相伝とか。神罰がくだるとかなんとかで、解明しようとする人も特段いないらしいですが」
「神罰かあ。あるだろうなあ、この国なら」
近づいてくるだけで神域の多さを肌で感じるし。
「シラタマに到着したら、2日間は防疫のために到着した街、『サンショウ』に留め置かれる、魔法由来の医療技術では対応できない疫病が流行したことがあるためにずっと行われている措置である、っと。でも街自体はにぎわってるみたいだな」
「交易の街といったかんじですよ。実際にはここ何十年も疫病の報告はないような」
「それ、規制緩和しろって外圧くらって開放したらあっというまに防疫体制崩れて起こるやつ」
「魔法でどうにもできないっていうのが、厄介厄介」
確か妹は大学で何かの基礎研究してはずだけど、べつに新薬つくるとかではなかったはずだから、そこについては門外漢か。
「前回は研究者ギルドが解明して一時はおさめたはずです。」
「やっぱり魔法とはアプローチが違うんだな」
「結構この世界も柔軟性があるでしょ」
なぜだかちょっと誇らしげだ。
再びナレーションが流れ、まもなく着くから準備してください、と。
下船準備とかいっても、手には何も持っていないので特段なにもすることはない。
そこで突然、アオに渡した端末と対の端末がコールする。
『
「ずいぶん早く達成できたな」
『なんか、口外しちゃいけない裏ルートがありましたよ。きっと
「どうもありがとう!じゃあ、また何かあったら連絡して」
『了解しましたっ!では!』
なかなか電話が簡潔でよろしい。
「だそうだよ」
「私も冒険者ギルドに登録してみようかな。ユウと行動を共にするなら、あったほうが便利かもしれないですよね」
「ビビられるんじゃないのか?」
「それはユウもでしょう」
「かもな」
汽笛がなり、船着き場についた衝撃を感じる。
錨がおろされ、降船が促される。
◆
船を降りたら快晴、ムワっと感じる湿度と、ギラギラと焼けるような暑さ。これはまるで日本の夏か。
船の空調、働いていたんだ。 いや、まだカレンダーでいうと5月末ぐらいか?季節が一致しているかというと気候のは観測したわけではないからよくわからないが、まあまああるか…とおもった矢先すっと涼しくなる。
何を言うわけでもないのにノリは紫外線を浴びすぎないように、あと体の熱を一定に保つような魔法をかけてくれる。有能か。
「シラタマの初夏は久しぶりですけど、ほんと蒸し暑いですね」
「支援サンキュー!これで日光に負けないですむわ」
「前に教わりましたしね!」
周りの人たちが汗ばむなか、涼しい顔をした我ら。
指定された宿に案内され、明後日の朝開放される。指定宿は3棟あり、到着した日により案内される棟がかわる。なんというか、本館新館別館がある温泉宿だこれ。
今回案内されたのはちょうど真ん中にある2棟目、ここにはありがたいことに温泉文化も根付いているらしく部屋風呂も温泉、宿の中に大浴場もある。しかも防疫による逗留であることから宿代も船台込みかつ安価。旅行客に対する福利厚生が厚い。予算としては国の貿易費から出ているらしい。
ただ、サンショウのみに来て防期間が終わってすぐ帰るというような、完全にこの隔離された街以外に出ない人にはそれなりの料金が適用されるそうだ。確かにそういうのには別に国益に影響しないからサービスする必要はないよな。
宿のロビーについたところで宿と、歴史と、禁止事項について説明される。禁止事項といっても俺にはなじみ深い日本の温泉宿でやっちゃいけない先に体洗えとか水着で入るなとかお湯にタオルつけるなとかそういうことぐらい。しかも希望者を募ってガイドツアーまでやってくれるというのだ。なんだこの観光地。さすがにこのレベルのものは前の異世界にもなかった。
しかもごはんつきかつ部屋食。至れり尽くせりじゃないか?
ノリにも聞いてみたところ、たまに建て替えはされているけど平時は昔から大体こんな感じで、のんびりしてる、だそうだ。
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