第75話 アトル/道化の窟(6)

 『チーズ!アオは大丈夫か?!』

 ダンジョンの5階層ボスフロアだというのに、急に魔女さんからの通信が、なんの障壁もなく入った。そしてこちらの状況を目視すると、あーだめじゃったか…とため息をつく。

『おそらくアオに連動したんじゃなてイオも倒れたわ。ちーといま理由について詳しくはいえないのじゃが、わたしの凍結魔法の弊害でアオとイオどちらも記憶を一部失っておるのじゃ。なにかをきっかけに思い出しそうになると、こうなる』

「アオくんは動かして大丈夫なんですか?!」

『脳が損傷を受けているわけではないので、動かす分には問題はない。5分もすれば目を覚ますが、同じことを考えさせないようにしたほうが良い、同じ症状は起きないように』


 アオくんが思い出しそうになったこと、といえばこの世界のギルドの成り立ち、その中核を担いのシステムを作っていたのは。

 とか言っていた。


 本人が思い出してはいけない、となっているのではれば十中八九ナット王国だろう。凍結の魔女がその魔力の大部分を消費したうえで国の凍結に踏み込まなくてはいけないほどの何かがあの国にはあり、そこについて


『ある程度、情報として頭に入ってきているとはおもうが、今は考えるだけにしておいてほしい。根本的な解決方法はナットの完全復興しかない、とだけ伝えておくよ』


 あ、目を覚ました。と志摩。

 モニターの向こうでもイオくんが上体を上げ、だるそうにしているのが見える。


 ◇

  

 『イオ、ごめん』

『問題ない。■■様は、オレたちが記憶を失っているって思っている、ってことがはっきりしたな』

『最初忘れていたことも徐々に思い出して共有していることバレてなさそうだね。ナットの真実に口に出そうとすると制約が発動するとかほんっと頭が痛。実際問題』

『まあでもうっかり口に出そうとしなければ、問題なく生活もできればすり合わせも続けられる。ただどうも、一番大きいことを忘れているきがしないか』

『わかる。絶対なんか抜けてる』

『しかもあきらかに大切なものだよな』

『思い出すにはナット復興が一番早いんだろうけど、うっかり何かがきっかけで思い出したら僕たち結構まずそうだよね』

『気を付けて生活しよう。こればかりはどんなに鍛えても対処できなさそうだよな』

『ほんとそれ!』


 ◇

 

 「アオくん、気が付いたあともなんかぼーっとしてたけど、無事?!心配して魔女さんも通信してきたよ」

「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

『オレもあわせて心配かけたようで、ありがとうございます」

『通信ついでじゃ。何か聞いておくこととかあればきくが?』

聞いておくことならば、ある。


「このダンジョンのボス、(変異種)という表記があったんですけど、確率的に結構あるようなものなんでしょうか」

『変異種!それはラッキーな。大体低ランクダンジョンとかだと100万分の1ぐらいの確立じゃ』

 ひゃくまん


 そのうち高ランクダンジョンとか、適性レベルの高い狩場にいけば、普通にでるぞ、とのこと。普通に出るのか。

『アオが心配かけてすまんな。とりあえずアオは戦闘中余計な事考えなければ大丈夫じゃとおもうから、きをつけるんだぞ」

「わかりました、■■様」

『じゃあ、通信きるぞ!ダンジョン攻略お疲れ様!』


 そう言うと、魔女さんは通信を切り、もともとのメンバーと、ワープの光だけが残された。


 ◆


 12時間が経過した。

 ボスモンスターたちの凍結が解除され、ドロップ物に変化する。

 [ポイズンリザード(変異種)]は、イエローレザー(毒無効付与)、毒牙のナイフ、毒液(黄)3リットルのドロップ。

 [オイルフロッグ(変異種)]は、オイルフロッグの油10リットル、油蛙の眼玉2個、オイルフロッグの心臓のドロップ。

 といった結果だった。正直良いのか悪いのかが全くわからない。しかしなんで眼だけが漢字表記なんだろう。そして、ドロップ物にならないで肉のままとなる条件ってなんなんだろう。

 

 確認ができたことから、次のステップに進むために冒険者ギルドに向かう。今回志摩と永長は留守番だ。

 まだEランクミッションのクエスト自体は2つ足りないはずなのだが、クエストボードに【実績解除:冒険者ギルドへお立ち寄りください】とある。

 通常のボス2体を倒して討伐実績をもってクエストクリア、ランクアップを狙っていたのだけれど、今回倒したレアモンスターはクエストボードに記載はなかったのでクリアはしていないと思われる。


 2度目の道であり、ほぼ一本道であることから迷うことなく目的地に到着。ギルド受付で認証をおこない、冒険者ギルドへ向かう。

冒険者ギルドでも認証を行った結果、認証プレートに【実績解除】の文字が浮かび上がる。

 

 職員さんは少し驚いた顔をした後マニュアルらしきものを確認。マニュアルに則ってか私とアオくんを別室の応接室まで案内し、少しお待ちくださいと言い、席をはずした。

「何かイレギュラーなんですよねきっと。僕ももうちょっとギルドのこと勉強しておけばよかったかなあ…」

「いや、あと3年で自分の番がくるんだからその時までに私と一緒にちゃんと知っておけば問題ないよ!普通を知るのは良いことだと思うよ」

といいつつ、普通じゃないから別室に呼び出されているわけなんだけどね。

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