第222話 密室ノ会・祈(15)

 そこから僕は特にになにもやることがなくなったけれど、コウコさんが何をしているかはじっくり観察することにした。まず、さっきリストアップされた本のリストを今度は黄色の記録魔石6つに吸い取った。多分記録魔石の屑っぽいものなのかな?そしてそれを司書カウンター内の端末で何かをする。多分書架の位置確認と貸し出し記録とかの書き込みかと勝手に思った。

「碧生、ちょっとこっちに来て。危ないから。」

 手元見えないなーと思っていたらカウンターの内側に招待されてしまった。そして何が危ないのだろうか。

「よく見てなー。今君のための本たちが一気に集まってくるぞ」

 そう言うと手元の実行キーのようなものを押す。そうすると、図書館内の本のうち、今回ピックアップされたものがカウンターめがけて飛来し、どんどん机に積みあがる。

「今から順にチェックして君のステータスボードに反映させる準備をするからさ、そこの椅子に座ってて。因みにこの本の取り出しは取り出す一方的な魔法でね、戻すのは閉館後バイトくんたちがやっている」

「そうなんですね」

 500冊あまりの本は、割とこれなら読めるぞ、と思う量だった。前の「まんがシラタマの歴史」はほぼノーチェックで見れるようにしてくれたのはごく普通の一般書だったからだろう。

 今回はリストと積み重なった本を照合させ、確認された先から1冊ずつ、僕のステータスボードにデータを流し込んでくれている。本当に手際が尋常じゃないためものすごいスピードでその作業は進んでいく。

「あれ?」

 大体400冊ぐらいに差し掛かろうとしたとき、コウコさんが声を出した。

「何かありました?」

「いや…うーん…とりあえず一通りおわってから検討する」

 そう言うとその本を横に避ける。その後も完了までの間にその要検討とされた本は増え、最終的には3冊になった。後半に集中した形になったけど一体何があったのか。



「本のリストはこの3冊をどうするか検討したあとで渡すよ。でだ、この3冊、リストと本の名前が違うんだよ」

 そう言われて見比べると、確かに違う。子どもの絵本のようなタイトルで抽出されているが、実際の本を見ると難しそうな魔術書のように見える。しかも、3冊ともに、作者は同一。これは、ものすごく心当たりがある。

「これ、複写しようとしたら、元の絵本になってたりしませんか?」

「そうだね、まず、私のステータスボードにコピーしてみようか……絵本に戻った。」

 もしかしなくても、僕の魔力の影響でパターンが書き換えられたのだろうか。


「とりあえず君のステータスボードに複写してみる前に、読んでみようか」

 そう言うと司書カウンター前の机に2人で並び、本を開いてみる。

「……これは、何も書いているようには見えない。碧生はどうだい?」

「いまここに私の研究した魔術の一部を書き記す、という文字が読めます」

「は?!これ、偽装した禁書だったのか?!まさか!!」

 コウコさんが見た感じわかりやすく焦る。これ以上読み進めると絶対に問題になると思い、そっと本をとじた。

「僕は何も見ませんでした、でいいですか?」

「外面的にはそうしよう。あとは王に報告させていただくよ。今日時間はあるかい?」

「いつもと同じ時間までは」

「よしよし、じゃあ、今から伺いをたててみよう!ってことで図書館は一時閉館だ」

「誰かきたらどうするんですか?!」

「諦めて帰る」

 そんな適当な、とは思ったけれど明らかにこの人1人、他はバイトでこの広大な図書館をまわしていることをかんがえると、記録と機密の量が膨大すぎて、王とコウコさん2人で管理することになったのだろう。ちゃんと7日間のうち2日間の休暇は保障されているようだから、過重労働というわけでもなさそう。


「ってその前に王に謁見の申し出だ。まあ、興味を抱けば他の仕事があっても放り出すだろうし……あ」


 その瞬間、図書館のドアが元気よく開いたと思ったら、古木の杖を持った、コウコさんと同じぐらいの歳ごろの女性が立っていた。

「コウコ!面白そうなことがおきておるな!そしてその少年はだれじゃ!」

「王!やっぱり気が付かれていましたか」

 そう言うと今までのコウコさんからは考えられないぐらい、恭しく頭を垂れた。

「私が即位してからお前はいつもそうじゃ。つまらん」

「周りの目もあります、弁えは必要なのですよ、我が君。私も不敬罪で死にたくはありません」

「実につまらん」

「コウコさんも敬った言葉遣い、出来るんですね」

 このうっかり失言、思い切りの肘鉄をくらったが、僕の体の強さがコウコさんの力をうわまったようで、肘を抑えて蹲ってしまった。そして涙目になりながら、コウコさんはこの方の事を紹介する。


「この御方はシラタマ王、この図書館の統括管理者だ」

 杖をぷらぷらふりながら、王と紹介された女性は本当に軽く言葉を発する。

「ほんとお前は固いのう、人目があるときになると言うなら閉館してから結界でもはってから語らうか?」

「従者に私が怒られるのでほんとうにやめてください」

 そう言われ、ニヤニヤ笑っていたと思うと突然僕の方に向き直り、顔をじっと見てくる。


「では、もう一度聞くぞ、その少年は誰じゃ?」 

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