第97話 吉祥の白竜(4)

 電話がコールする。あにさんからの通信、開始の合図だ。

「君たち準備は万端かね」

「できる準備はしました!」

「結構結構。」


 あにさんがまず、ウララさんのところに行き、昨日の非礼を改めて謝罪。追加でウララさん経由チーズさんの計らいで入室可能となった魔法使いさんと2人でフリースペースの中に入り、情報の抽出を開始する。

 今回チーズさんの家の畑にある休憩所という名の雨よけ小屋をこちらの起点として、情報を抽出したものをもとに、この世界中をくまなく検索し、目標物をヒットさせ、通信を試みるという作戦だ。

 僕たちの左側にウララさんの卵から繋がるゲートをチーズさんが設置してくれているので、あとは、兄さんがゴーサインがでたら魔法の開始の合図だ。ちなみにチーズさんと師匠は、集中力を欠くことを懸念し、自宅で待機してくれている。何かがあれば、手助けする距離にいるが、おそらくは救国の魔法使いの方でサポートが入るため、それでなお難しい場合参戦してくると聞いている。ちなみにそれはチーズさんと兄さんの間で話がついているということなので、大丈夫なのだろう。

 

 絶対できると言ってくれながら失敗できないプレッシャーもあり、魔法世界の最高の先駆者にサポートをしてもらっていることは本当に感謝しきりだ。

 魔法使いさんなんて実際「自分がやったほうが早い」なのだろうが、この経験をさせてもらえるのは大変ありがたいとおもって挑むしかない。


 「準備はいいかー?」

「よろしくお願いします!」

 ゲートが開いているせいか、無言のウララさんからの圧も感じられる。

 僕とイオ、揃いで前につくったダマスカス鋼でつくった杖、長さ180センチ。二人で同一魔法を行使するために師匠が作ってくれたものを取り出す。僕のほうは赤い魔石、イオのほうは青い魔石が埋め込まれていていずれも魔力増幅・コントロールができるものだ。なぜこの色かと師匠に尋ねたらメンバーカラー?とかよくわからないことを返してきたので気にしないことにした。


 そんなことを考えているうちに、兄さんが卵から抽出したデータがゲートを通じ流れ出してきたので、僕たちの杖で受ける。

「緊張しないでいいから、私のほうでユウの抽出した情報を増強しているから、情報を保ったままゆっくり、ゆっくりを魔力を増幅して。」

 ユウって誰?兄さんか?という雑念を振り払い、改めて集中する。


 今回、師匠は僕たちの魔法の起点を対象以外にはカモフラージュする魔法も組んでくれている。メインの仕事は僕たちに任されたが、強力なサポーターのおかげで、行使可能となっていることはわかっている。対象を見つけたら、ウララさんから語り掛けてもらう。ただ、その声は小さく強く聞こえるようにし、他者に傍受されないように。どこまでの精度を保ち行使できるか。そもそもこの魔法は近距離ではやったことがあるが、世界中くまなく行うことは目的物がない状態ではまず必要ないし、ありえない。

 ただ、今回はぶっつけ本番、やるしかない。


 練った魔力を空高く打ち上げ、薄く、薄く、伸ばしていく。

 僕の魔力を異変の一部とされないように、世界中の観測する力をもつ魔法使いにばれないように、広げていく。


 魔力量は十分だが、巧緻作業であるため神経をすり減らす。時間が結構かかっているため焦りがでると、あにさんから落ち着け、と声がかかる。全身汗がだらだらと流れる。横のイオをも同様だ。何もしなくても思考の共有ができるが、集中のため、行わない。

 その作業はおおよそ3時間に及んだ。


 世界をきれいに魔力で覆いつくしたところで、卵にある遺伝子情報を増幅させ、サーチの基礎を作る。

 天上を覆いつくした魔力をそのまま地上にゆっくり降ろし、近しいものをヒットさせる。ウララさんの遺伝情報は除外しているが、その伴侶さんに近しい遺伝情報は親兄弟などの親族ならばある程度近しいレベルであたってしまう。 そこを除外して正しいものを探っていかなければいけない。


 ◇


 「はらはらしますね、魔女さん」

「現状、順調。きちんと集中できている。さすがに時間はかかってしまってはいるものの及第点。この先は情報のすり合わせも加わるので、勝負が始まるな。お主の兄も、アイツもきっちりサポートに回ってくれてるから、今のところ全く心配はない。魔力量も双子のみで充分足りている。」

 魔女さんは紅茶を飲みつつ、兄さんがサンプルとして送ってきたクッキーを食べながら高見の見物スタイル。私も食べたがものすごくおいしい。

 兄が今いる国で開始した商売が結構当たっているらしく、毎日昼過ぎには完売閉店をしているということで、今月のミアカのみんなへ給金を払ってあげることができそうで胸をなでおろす。私はそういう商才と交渉術は持ち合わせていないので、というか経験がないので、頼り切りにはなってしまうと申し訳ない。でも兄は「報酬はお前が撃ったうまい肉で」とかいってくる始末だ。ほんと、腕をあげて本当においしい肉を納品してみせよう。


「ウララ殿、うまく伴侶が見つかるといいのう」

「魔女さんはその辺、どうなんです?」

「何が何も、わたしはずっと独りじゃよ?弟子はいるけど」

「魔法使いさんのこと卒倒するほど避けてるじゃないですか」

そういうと、ひどく苦い顔をする。

「記憶はもう捨ててしまったが、何か、とても、不快じゃったんだろうな。幼馴染としての付き合いを完全放棄して避けたくなるぐらいには」

「ホント一体なにされたんでしょうね」


 そんな無駄話をしていたら、アオくんとイオくんの魔法は次のセクションに移行していた。

 がんばれ、がんばれ。

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