第96話 吉祥の白竜(3)

 ウララさんが落ち着き、不安にさせる言葉を吐いたあにさんが魔法使いさんにしこたま怒られたあと、この通話は切れた。実際にこの魔法を執り行う際は、通話を繋げておいてくれ、との話もあった。何かあったときどうやってかはわからないが介入してくれそうに思えて心強い。そういうトラブルがないのが一番なんだけど。


 「師匠と同郷だけあって、マジで魔法に対する解像度高いなあの魔法使い」

「勉強になるよね。正解が見えていて、それに対するプロセスがはっきりしてるというか」

 あとやっぱり、できて当たり前だと思っている。師匠の弟子だから、そのぐらいできて当然でしょ?という圧。昨日のチーズさんの期待値からの圧とは別物で、正直結構プレッシャーが強い。むしろ怖い。

「多分気づかれるかどうかの問題があるせいで、一発勝負なんだろうね。」

「アオが魔法を行使している間、魔力タンクとブレの回避をオレがする。今日から二人で魔力をチャージしつつ睡眠、明日のあにさんからの合図を待とう。」

 

 作戦としては、チーズさんと師匠の立会、救国コンビはリモートで立会のもと、ウララさんの願いを叶えるべく魔法を行使して、目的を発見・この国まで誘導すること。

 魔力をしっかり練るために、基礎魔力を増強しつつ、脳の一部をアクティブにしたまま、瞑想のように寝る。これは、師匠に師事してから最初に教わったことだ。


 ◇


 アオくんがイオくんと探索魔法を行使するプロセス確認をするというのでダンジョン攻略を中断し実家へ帰還、イオ君と一緒にきた魔女さんと家のリビングでくつろぎつつ、貰い物の白い恋人を食べつつお茶を飲んでいた。あっちから持ってきたお菓子、どんどん消化していてもうだいたいないので、今度は自分で作るかこの世界で買うしかない。いやもう、私も魅了耐性スキルを取得したので、兄に作ってもらってもいい。兄は職業柄料理、パン、菓子すべてを作れるかつどうもおいしいらしいので、本当に作ってほしい。売り物だから賄い程度ならいいとか賞味期限ぎりぎりならあげるとか言われそうではあるけれど。

「チーズ、ありがとうな」

「え、何がですか?」

「アオとついでにイオのこと、たきつけてくれたじゃないか。あやつらは幼いころ何がきっかけかは頑なに言わないのじゃが魔力暴走をおこして一族郎党を殲滅していてな、このままでは何をしでかすかわからなかったのと、処罰される可能性もあったために指導目的として拾ってきていまに至るわけなんじゃが、どうも、そのときの記憶からか自主的な行動を全くしなくなってしまったのじゃよ。」


 魔女さんは、ばつがわるそうに、言葉を紡ぎつつお茶を飲む。ちなみに今日は玄米茶だ。

「魔力暴走ってどんな規模だったんですか?」

「家も何もかもふきとばされ、あの集落の生き残りはあ奴らを含め3人じゃ。わたしもたまたま大きな魔力反応があったので単独で見学にいったところ、倒れているあやつらをみて、保護してきたんじゃ。幼かったしのう。かの国の人間に処罰されたり、利用されたりするのは忍びないとおもい痕跡を消してさっとこう…そんなかんじじゃ」

 

 ちょうど潜在能力の高い弟子も欲しかった、というのもあってじゃが。その頃はまだこの凍結魔法を行使するとは決まってはいなかったが、可能性は出てきていて、身の回りを世話してくれる人間が欲しかったのでな。ただ、念のためいっておくが、やつらがその理由や過去を話さないのであって、詳しく詮索もしてなければ、尋問もしていない。そして、私のように記憶を切り離して捨てるとかはしていないので誤解なきように、だそうだ。

「そんなかんじですか。で、あと1人はどうしてるんですか」

 そこで魔女さんは一息おき、より悲しそうな顔をする。

「そこは、追々。今は語れぬことなのじゃ。凍結にかけるリソースが減らないことには、復興がすすまないことには、そこは語ることができないのじゃ。すまない」

 現状、機密扱いなのじゃ。


 そう言ったあと、魔女さんはいやそうな顔をしつつ、こう続ける。

「今回の探索魔法、巧緻魔法ではあるので私よりもヤツのほうが指導に適任なのはわかるのじゃ。きっとアオが頼めば問題なく手伝ってくれるじゃろう。私もそれを止めはしないし、推奨はする。ヤツっていうのは私と同郷のアレのことじゃが。しかもどーーもアオとお前の兄とあやつがいつの間にか仲良くつながってるのが歯がゆいわ。こないだは千年ぶりぐらいに遭遇したせいで卒倒してしまったのじゃが、今は、遠目にくるぐらいなら耐えられる、とおもう。きっと。しかも恥ずかしいことにトラウマの原因の記憶を切り離して捨ててしまったために原因がわからないうえにトラウマに対する反射だけ残っている。昔の自分のせいではあるが厄介すぎる。」

「正直今回私ができることは殆どないですし、たきつけることと応援だけはできますので、頑張りますよ~」


 「あの子たちはこの世界において上位ランクにあたるほどには強いし、強力な魔法も持っている。じゃが、常に安全を気にしてしまうがために全力を出すことがない。わたしも暴走の可能性を考慮しフルパワー必要な課題は組んでこなかった。今回で一皮むけてくれるといいし、そのサポートは全力で、とはいっても凍結維持が最優先じゃがさせてもらおうと思うよ。明日になるが、絶対成功させてやろう」

「そうですね」

「自信をつけさせてやりたいな」


 そう言い魔女さんは何とも言えない表情をしている。

 それを見て私は、もう幼くもないですし、きっと私に対しては鬼教官ですし、大丈夫ですよ、と返した。

 

 

 

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