第154話 ミソノ山/偵察隊・増(5)

 索敵が成功し、姿を消している大型モンスターについて、あたりがついたものの、攻撃手段までは決め手に欠いていた。

「オレより高ランクなのかな…弱点らしい弱点が見当たらない」

 

 そう言うイオくんに、魔女さんからの回答が。

 

「正解じゃ。稀におるんじゃよ、全ての攻撃に対して耐性を持つ奴は。魔法の効きも半分ぐらいになる。そういうのは、とりあえず力業でつぶすしかない」

「えっ正解?!」

 イオくんは素で驚いているところを見ると、初遭遇だったよう。ゲームでたまにいるんだよなあ、そういうめんどくさい敵。でも物理反射よりましだよな、ってちょっと思ったりもした。この世界に物理反射っていないでほしい。

 

「じゃあ早速私が貰ったハンマーでたたき落としていいの?!」

「むしろチーズさん、見えてるんですか」

「うん」


 驚いたようにアオくんが言ってきたが、実は視力強化のおかげか、木の上に姿が見える。今回は光学迷彩ではなく、草木を纏って偽装しているので、よく見れば、かなりわかる。眼とかが特にわかりやすい。私もそれなりに成長しているみたいだ。

 というわけで、そのモンスターが木の葉になりすましている木を思い切り、ハンマーで叩いた。振動で葉っぱが振るえる。ついでに、モンスターも転落してきた。今回は1メートルぐらいの丸い球体のようなボディに長い手、短い脚のついたモンスター。そんなかんじなのに大きな眼が2つある。トータルアンバランスすぎて面白すぎる。


「微妙なフォルム…」

 アオくんが真顔で言いつつ、一番持っている中で打撃力が高いということでさっきのウォーハンマーを手にとっている。一体どこでどんな戦い方をしてこんな武器を持っているんだろう。

「とりあえず、殴る感じ?」

「効きはわるそうですが、デバフの魔法だけはかけといたほうがいいかもしれないですね」

「じゃあ遅くなる魔法だけ、協力できそう!」


 時間干渉魔法で動きを遅くする。同時にアオくんとイオくんがデバフ魔法をかける。

 そして魔女さんはなにもしない。


 繊細な武器しか持たないというイオくんは魔法支援の身に徹し、私とアオくんに攻撃力アップのバフをもりもりにかけてくれたので、思いっきり、丸いモンスター殴ってみたら、大きくひしゃげた。

「これ、うっかりするとどっか飛んでいきそう」

「さすがの硬さですね、一撃で落ちなかった!」

 その後私とアオくんによる打撃が続き、反撃はすべてイオくんの魔法によりいなされ、全て無効となる。却って全耐性により苦痛が長引いているまであるというかなり酷い状況となり、それが10分続いたぐらいで、やっと消滅した。

 今回残されたのは紫色の魔石と、【翠魔のネック(レア度:★★★★★)】という物理魔法問わずすべての防御力を爆上げするきれいな緑色のグラデーションの織物で作られたチョーカー?だった。

「これ、ういにいいんじゃないですか。しかしこの4つの大型モンスター、レア5のアイテム落とすんですね」

「確かにういの首輪にしたら、何者にも負けないういになりそう」

「イオ君、ういにあげてもいい?」

「いいですよ。僕には不要ですので、ういくんを強くしてあげください」

「じゃあ、遠慮なく。ありがとう!」


 そう言うと、ういを【無限フリースペース】から出して、首輪の付け替えをする。付け替えをすると同時にジャストフィットサイズに縮まるという優れものだ。ういは新しいギアがうれしいらしく、私の顔をぺろぺろと舐めてくる。


「大型モンスターを2体倒したということで、ここらで休憩にしようか」

 先のバトルで本当に何もしなかった魔女さんがそう提案し、私は再びキャンピンググッズを取り出し、組み立てた。いや、魔女さんが参戦した時点で私たちの経験値になることはなくなるので、手に余らない限りは傍観していてくれるらしい。

 アオくんもイオくんも「もう簡単にレベル、上がらないんで」と言い、一番私とういに利があるようなパーティの組み方をしてくれている。おかげ様でこのダンジョンに入ってから、わけがわからないほどレベルは上がっている。でもきっとこのダンジョンを踏破した時点でもそれほどこの人たちに追い付けていることはないんだろうな、とも思う。

「チーズ、何かお勧めの飲み物をおくれ」

「じゃあ、コーヒーとかいれます?」

 コーヒー豆をキャニスターから出し、ハンドミルで粗引きに挽く。その間にお湯を沸かしておく。お気に入りで使っている浸潤型ドリップ機器のクレバードリッパーに計った豆を入れ、お湯を注ぎ30秒蒸らし、続けてお湯を注ぎそこから3分。デキャンタに乗せドリップし、出切ったところでカップに注ぐ。

 

「まろやかじゃの!旨い!」

「ですよね!」

 魔女さんにはブラックで淹れ、アオくんとイオくんにはその半量に兄が殺菌して作った牛乳のおすそ分けを温めて注ぎ、加糖しカフェオレを作る。

「ありがとうございます」

「どうも、ありがとう」

 自分の分のコーヒー、2ドリップ目、1人分を淹れながら2人にカフェオレを渡した。

 魔女さんの張りなおした結界は健在で弱い敵は突っ込んでは消えていく。これもまた、経験値にしてくれている。

 キャンプ地には大型テントも張り、うっかりすると寝てしまいそうな空間にしてしまった。

 

 実際のところはこの最強魔法使いたちがいなければ命の保障はない、綱渡りキャンプなんだけどね。

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