第155話 ミソノ山/偵察隊・増(6)

 兄が【無限フリースペース】に突っ込んでいてくれている小菓子をつまみながらコーヒーブレイク。兄の店、ミルクスタンドホッカイドウで提供されている「俺の味クッキーしかない」とぼやいていたクッキーなんだけど、正直ものすごくおいしい。

 もう原材料もこの世界のものにすべて置き換え完了しているというので、味の一定感はなんとなく保たれているんだろう。まだ私はこの世界の食材をあまりにも知らなくて、その「置き換え」にまで至っていない。そもそも料理人ではないんだけど。

 

「チーズはこう、細かいところに食のこだわりが見て取れるよな」

「食品の原材料を作る、一次産業の民ですから!美味しいものを届けたいじゃないですか。そしてやっぱり、こだわったものを加工して美味しい加工品も届けたいっていうのはありますよ!やっぱり。コーヒーだって、焙煎方法、温度管理、豆の挽き方ひとつで引き立つ味がかわったり、淹れ方ひとつで美味しくなったりそうではなくなったりするので、最大のポテンシャル、出す努力だけは常にしていたいと思ってますよ」

「そしてそれを僕がいただく、と」

 横でカフェオレとは名ばかりのコーヒー牛乳を飲むアオくんが言う。

 

 ◇


 休憩が終わったのでイオくんの探索勉強時間になる。今の位置から探ってみた結果、次の目的モンスターはいつの間にかこのフィールドの中央部に移動してきている、むしろこちらの位置を確認し、近づいてきているよう。

 

「これは、オレたちの場所が特定されているのか、またはさっきの『翠魔』?の消滅を感じて様子を見に来ているのかどっちなんだろう。このままでいくと、あと30分ぐらいでここに到達するとおもうんですが」

「こちらから攻撃を仕掛けるか、準備万端で待ちうけるか、どっちがよいとおもうか?」

「え、待ち伏せ奇襲一択じゃないんですか?」

 

 ついそう、言ってしまった。この、戦闘民族が、みたいな視線を感じたが気にしない。

「弱点や戦略があれば漫然と待つ必要ないじゃないですか。」

 めげない。だってこちらには探索練習中のイオくんがいるんだから。


「位置情報以上の情報は引き出せているのか?」

「反応が粘度が高そうではあるんですよ。ドロドロというか、やわらかいというか」

 

 魔女さんの質問は続く。

「戦闘に直結しそうな情報はあるか。こちらから探索していることは気づかれた時点で2度目はないと思え。全部1回で決めるんじゃ」

「毒を持っている反応は出ています。あと、凍結無効」

「それな。まあ、標準的な凍結魔法に限るものであるから、わたしには関係がないが。で、弱点は」

「【火】と【地】属性かとはおもいますが、確証はないですね」

「90点、合格ラインじゃな。ではその情報をもとにチーズ、アオ、イオで戦略を立てて戦ってみよ。ういは今回は不参加で大丈夫じゃ」

 余裕をたたえた表情でクッキーをつまみ、コーヒーのお代わりを要求してくる魔女さんが、そう言う。監督気どりか。


 そこから作戦会議を経て、30分。よく目を凝らすと、森の木を渡ってくる、粘菌のようなものが目に入る。その粘菌が通ったあとは草のかわりに滑ったなにかがすべてをこそげて走った後が見て取れる。草を食べながら動いているのか。

 囮にでもなりたいのか、魔女さんはキャンプを続けていて、今度はアールグレイティーを飲みだした。

 

 そもそもそれほどのスピードは出ていなさそうに思えるいでたちだが、四方八方に粘液の触手を伸ばし一気に距離を詰めるがために割と早い。立てた作戦に従い、配置につく。これはもしかして『魔女さん防衛戦!魔女さんに敵が到達するとゲームオーバー』とかそんな演出なんだろうか。怖すぎる。


 私は今回は【地】属性魔法特化で支援、近づいてきた一帯の木に泥や砂を塗り固め、敵の侵入を遅らせる。おそらくは草は分解可能ではあるが、土はあのスライム状の体には異物なんだろう。さあ、どんどん異物を取り込め。

 土や砂、泥は作り出せる。泥団子からイシツブテまである程度の戦闘はできるようになってはいる。が、決めてになるような必殺技がない。今回は支援に徹して近づいてきたら時魔法でもつかってしまおう。


 そういえば私の魔法は相変わらず???が多く、当初から属性魔法として出ていたもの以外は、使えるようになっていない。あと、ラストエリクサー症候群を罹患しているので、スキルポイントも結構たまっていて汎用スキルは取ろうと思えばとれる状態にはなっているものの、ほとんどと言っていいほど、全くとっていない。「そのうち必要に迫られたときに一気にとる」といったゲームスタイルをこの異世界でも踏襲してしまう。

 まあ、こういうプレイスタイルが可能なのは、アオくんの意味不明なほど強いバフのおかげなんだけど。


 といったよそ事を考えているうちに土をはらんだ黄土色のスライムは速度が落下、このスライム、眼が全身についている。魔女さんめがけてずるずると進行するそれに、砂埃をかける。より、動きが遅くなる。

「ところで、火属性魔法って、誰か仕えた?」

「実は僕たち使えますよ。普通程度には。この程度のモンスター、僕たちにとっては瞬殺なんですよ」

「チーズさんの戦闘経験になれるように頑張ってるので!あとは索敵とか細かい経験の蓄積ですよ。そのうちに雷魔法から派生した火魔法がでてくるとおもうので、それまでは僕たちがいたらやるんで」


 そういうと2人はバーナーのような火を手から噴出、あっというまに第3の大きなモンスターは黄土色の魔石と、ドロップ品になってしまった。 


「なんだこれ、『飴魔あめまのイヤーカフ(レア度:★★★★★)』だって。」

「効果は…状態異常無効、洗脳無効。他にもなんか裏効果あるっぽいな。うん、これイオでいいよ、持ってって。どっちかというと支援特化だし、繊細なのすきなんだろ?」

「いいのか?」

「どうぞ、どうぞ」 


 魔女さんは関知してこないので満場一致で決定。これでのこりは最後の1体、アオくんに適合するドロップであったらいいな。

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