第332話 バナクコート(11)

『シアラ』


 そう、意識を取り戻した、と言っていいのか、意識がはっきりしたと言っていいのかはわからないけれど、魔力でできた繭が剥離し、現れた女性が、ガラガラの声で名乗った。霊核増強魔法の都合、マスター、今回の場合僕にまず名乗ることとなっている、と教本には書いてあった。逆らえなくなるように、とのことだけど、死してなお、というのがなんというか、結構申し訳なく思うけれど、情報が圧倒的に足りない今、一方的とはいえるけれど、「シアラ」から得る情報は何物にも代えがたい。

 

 実のところ、この一件が解決したら本人が望めばしっかりういが成仏?昇天?させてくれる、ということはういと約束している。家に憑く霊、しかもノータイムで攻撃してきたことから、攻撃性が強く残っていることから、どのみち放置はできないという見解。このことはまだチーズさんには言っていない。

 

 この部屋から「シアラ」は出ることができない、という事もわかった。そしてこの部屋、先ほどは見て見ぬふりをしていたけれど、殺風景な部屋の中、シアラの背後に大きな、高価なのがわかる、とても豪奢なドールハウスが置いてある。おそらく、この宿で行方不明になった「ヒト」であったものが、ドールハウスの中に無造作に置いてある。これ、絶対、もともとヒトだろう。発するオーラというか禍々しさが尋常じゃない。

 

 ドールハウスから発せられる思念は強いけれど、言葉としては伝わらない。しかもドールハウスの奥の方は作りこまれているけれど、手前になればなるほど無造作、おおよそ30体ぐらいのドールが無造作に置いてあるどころか、一部積み重なっている。


 エクソシスト犬ういが居て本当によかった。いや、僕たち5人と1匹でこの程度の相手にどうこうされることはまずない、一番経験値の低いチーズさんだって不覚は取らないレベル、ではあるけれど、あまり気持ちがいいものではない。


「シアラ、あなたは何故ここにいるのですか」

『う……うああああ……』

「なんかまだダメそう……」

「ねえ、アオくん。確かナット王とオイスター前王、友達だったんだよね?ナット王何か知ってないかな?」


 それだ。チーズさん、ナイス。

 

「そうですね、師匠からもうちょっと探ってもらいますか。ナット王秘密主義なのか機密を抱えすぎているのかいつも歯切れが悪いんですよね……見てますよね、師匠」

「アオ、あれ、持ってきてるよな?」

「常に持ってるよ。この部屋に防音壁は張ってはあるし、盗聴先には傍受されない波長で、師匠とつなごうか」


 通信用の魔石を久しぶりに取り出す。これ、チーズさんの育成に付き合い始めた当初使っていたなあ、なんか遠い昔のように懐かしい。


 ◇


「ははは、やっぱり見ていることバレていたか。で、用事があるのは王に、だな?」

「ですね。王はオイスター前王の母に会ったことは?」

「あるよ。今そこにいる女性だね。見えるよ。でもね、なんかそこに居る人の方が、若いよ?全盛期に戻るというのは本当なんだね。10年以上前に攫われて行方をくらましたっきり、とは聞いていた。国じゅう大騒ぎにもなったし、友もあらゆる探査を試したが見つけることができなかったと聞き及んでいる」


 探したが見つからなかった、結構な悲劇なのでは。しかも王の友は先日身罷っている。

 

「人探しって、師匠と救国さんは探す協力はしなかったんですか?」

「だって、わたしはやらかしてナットから追放されてたし。アイツは面倒ごとには基本頭をつっこまないからな。今ならばおぬしらが居るから協力をするどころかお前たちの経験になるから積極的に受けるだろうけど」


 クククと笑う師匠を見て、こう、人間長生きすると淡白になるんだな、と思ってしまった。


「シアラ様、いくら霊体とはいえ今のこの国の状態を知って取り乱さなければいいけど。シアラ様は見ての通り人形魔法が得意でね、国賊や不忠臣を人形に変えてね、ドールハウスの住人にする能力を持っていてね、ドールハウスの聖女と呼ばれていたよ」

「魔女ではなく」

「うん、魔女ではなく、聖女。見ての通り美しくてね、ストロベリーブロンドの綺麗な髪、大きな青い瞳でよくシアラ様の人形になりたいとか言っている変わった人が結構いてね、友とともによく笑ったものだよ」


 思い出話をするナット王。姉の想い人。僕はこの人のことを姉ほどには理解していない。本当に立場からなのか秘密が多すぎて、よくわからない。

 ただ、この人、もといナット自体がこの世界になにか影響を及ぼすナニカではあるんだろうな、ということはこの短そうで長い付き合いでわかってきてはいる。ほかの国に対する態度とナットに対しての態度が師匠もノリさんも違いすぎるんだ。


『愛する国……護るはずだったのに……う……あ………』


 こちらが好き勝手無駄話をしている間にシアラはそう呟き、頭を抱え、その後天を仰ぐ。すると、先ほど剥離した魔力をまとった繭が発光、魔力が広がる。僕たちが使う探査魔法とは別のアプローチをする探査魔法に似た何かの魔法の魔法式が走る。皮膚がピリピリする、ただ、害はなく、見守っているうちにドールハウスの聖女の目に強い光が戻る。


 復活したかな。気配が変わった。


『仔細理解した。息子のことは残念だった、とは言わない。フフ、我がドールハウス、よくも意識が混濁していたというのにここまでよく集めたものよ。これは存分に戦える』


 魔力不足で言語がおぼつかなくなっていたことが嘘のように強い魔力が聖女の足元から立ち上る。衣装も水色のドレスから真っ赤な炎のようなドレスにいつの間にか着替えている。

 

「はい!マスターからシアラへ質問!シアラは何と戦うんですか?」

『ククク……それはもちろん、私の大事な息子に仇なした連中よ。我がマスターよ、協力してくれるよな?』

「え??!めんどくさい」

「タダとは言わない。お前たちの欲する情報を与えよう」


 後ろを振り返ると、チーズさん、イオ。そして天とテミスが噴き出しそうな顔でこっちを見ていた。


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