第316話 ハリギリの風(5)
わたしが観測していることは、アオは知っている、はず。
あとアイツも知っているはず。
わかりやすくもパワーアップをしようとする厄災。ある一定の力があれば今この段階で叩き潰せているだろう。いや、その力があればこの段階に至るまでにこの戦いは終結しているのかも、しれない。
アオとイオ、あいつらが戦い方の経験値を積めば今の力のレベルでももうカタがついているはず。そんなに不器用なわけでもなければ、力がないわけでもない。
結論ないのは経験のみ。
「王よ、わたしの弟子はまだ未熟なだけだからな!仕事ができないわけではないぞ」
「経験値がたりない、というのはわかりますよ?」
「それがわかっているのであれば結構」
「魔女様、映像ばかりみているとごはんがさめますよ?今日は肉のせガーリックピラフですし冷める前に食べてください」
「確かにこれは冷めるともったいないな」
「そうだね」
別添えのソースもある。これはこの世界の食べ物としては見たことがなかった形態のもの、結論から言うとチーズ兄のもたらしたレシピだ。
たまに自らの世界で作っていた料理をこの世界の食材に適合できたとき、ナット近郊で入手可能な食材であった場合、レシピと模範食材をもって西の離れのシェフにミアカへの給料払いのタイミングで伝授しているようで、バリエーションの増加により食生活が豊かになっている。
前にチーズがレシピで再現するとその料理人のニュアンスまでは再現できないから給食みたいになる、と謎なことを言っていた。料理人の腕があがるほどにそれは顕著になってしまうとも。そもそも給食とはなんだと聞いたところ、大衆食堂みたいなものと言っていた。
チーズたちの持つ言葉に該当する言葉が私の語彙にないとき、説明がまわりくどくなる傾向があるようだ。
そのチーズが言う「給食の味」は結構このナット城、西の離れでは人気料理となり、2週間に1度は登場する。
「こんどチーズ兄が作ったこれ、食べてみたいものだね」
「いや、王。再現でここまでのアベレージが出ているのですよ?正直本物食べたらこの味に帰れなくなる可能性がありますよ?!」
「……ああ、確かにそうかもしれんな。王よ、最近ユウの作るものを食べてから、食経験値、味のレベルといった意味がとても分かるようになった、そう思わないか?」
スプーンを魔法の杖のように振り、様子をうかがう。
「確かに。ユウはお抱え料理人にしたくないかといえば、したいな」
「チーズも料理上手ではあるんだけれど系統が違うのよな。チーズは家庭料理というか、大量料理というか、兄とは別ベクトルの料理がうまい」
「食に貪欲な兄妹、面白い異世界の君たちだな」
「確かに」
そんなとりとめのない話をしながら食事を終える。臭いの面でもみんなでガーリック食べれば怖くない。
「そうだ、魔女よ。聞きたいことがあるのだが」
「なんだ?」
「お前の弟子の双子、シラタマ王がやたらと気にかけてる気がするのだが?」
その言葉に思い切り食後に飲んでいたお茶を、飲み込み、むせる。ただ、王のモヤ越しの眼窩かがこっちをしっかり見据えていることは、わかる。
「ああ、確かにそうだな。で、なんだ?」
「心当たりがあるのかと思って」
「ないわけではないが、確証はない」
「そうか」
「魔女様、自主的記憶障害ですしね、仕方なしですね」
目線もあわせずシンが言ってくる。これはあれか?凍結の魔女の威厳が落ちているのかこいつが度胸があるのか。まあ、釘は一応刺しておくか。
「シン、お前には言われたくはないな。まあ、確証を得た時に話すこととするよ。その時すでに救国のアイツが全部話してしまっている可能性はなくもないけどな」
無理にではない、自然な笑いがこみ上げる。実際そうなる可能性の方がたかい。シラタマ王が一体どういうつもりなのかはわからないが。そんなことを考えているうちに中継モニターに動きがあった。
「お、アルティメットライムドラゴンが溶岩に沈んだぞ?どんな強さになるだろうなあ」
チーズたちは追うスピードが間に合わなかったのか、火山とマガキとの間、迎え撃つ形で準備を開始している。しくじらなければ多少パワーアップしたところであの子たちの敵ではない。
石灰質だったボディは溶岩に成り代わる、弱点も変わる。
わたしと王は、頑張ってるその姿を楽し気に眺める。
やっぱりどう考えても、チーズはレアモンスターを呼び込むことはもとより、それ以外にも大きな運気を持っている、気がする。
今考えても正直初動からとんでもなかったな。今回の転写魔法に巻き込まれたチーズ兄とうい、いずれもキャラも力も強い。巻き込まれたこと自体うれしい誤算というか、あの凍結魔法直後のリソースも何もスッカラカンのタイミングで他の世界で勇者と言われた男と、神聖魔法特化のお犬さまが異世界の君の一派としてこの世界に転写されたわけだ。
元の世界ではこんなに戦ったり、いや、狩猟はしているだろうけど、穏やかな生活を送っているだろうに、この世界の維持のために転写したチーズは、成長速度はとても著しいものの周りの実力が高いがため力不足、ジレンマを感じているようであるものの、まあ楽しそうに毎日を送っている。
シンが食器を片づけている間、王とわたしは心から応援しつつ、戦況を見守る。
お菓子の1つでも準備しておけばよかった。
これが終わればもう一段階、リソースがたまる。この国の復興、次あいつらが帰ってきたときに方向性を決めて進めよう。
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