第228話 密室ノ会・祈(21)

 実際紅鳶は天才だったとしか思えない。自分の実力に胡坐をかいて油断していたとはいえ『救国の魔法使い』のしっぽを掴んだわけだから。王からは紅鳶に若いうちに触れると「くらう」可能性が高いので、もうちょっと成熟するまで気にしない方がいい、と言われた。

 それだというのに、今『救国の魔法使い』から当の本人の話を聞いている。


「あの子は名前の通り朱い服着た黒い長髪の女の子だった。私の本拠地を見つけた後、どこに出かけようとしても勝手に私の後をついてきてね、私の魔法を見て分析して学ぶんだ。いい加減怖いから『国に帰れ』といっても、それは愛ですね!私の事そんなに心配ですか?心配いりません!私強いので、ってやっぱりどうやっても帰ってくれない。そこであの子を撒く魔法を開発して撒くことに成功したんだ」

 

「そもそも家与えといてなにを言ってるんだ」

 

 あにさんが呆れ声で突っ込む。僕もそう思う。

 

「私の家に入られるよりましだろう!まあ、みなもご存知のとおり、私の家や部屋は愛の姿に溢れているからね」

 それ、多分チーズさんは知らないけど、知らない方がいいこともあるので、疑問を持たずに行ってほしい。とおもったらチーズさんは「男のコの部屋ってそういうのあるよねー」とか言ってスルーしてくれたけど、一体どういう意味でいってるんだろうか。

 

「私が撒くことに成功してからは100%撒けていたんだけど、そこから紅鳶の姿は見かけないし、与えていた離れがどんどん瘴気に満ち溢れていくからさ、もう嫌になっちゃって『国にお帰り』と頭に直接話かけて問答無用に、家ごとシラタマに強制送還、私はそこから暫く拠点を【神代】ダンジョンに移して生活していたのさ。魔力が濃くて、踏破者以外は入れない。最高の隠れ家だったな!そこで大体紅鳶の寿命が尽きるのを確認するまで逃げてた」


 割と理解していたつもりだったけど、師匠とどっちもどっちだ。嫌なことからの逃げ方が全力かつ魔力全振りだ。そしてシラタマ王が心配していたような「くらう」ようなことは全くなかった。


「ノリ、お前それ『紅鳶』のこと、姿形と魔法の特性以外まったくわからないんだけど」

「なんでアレが私を追っかけてかもよくわからないし、なんか怖いから理解することを放棄していただけだよ」

 

 語ってすっきりした、といった満面の笑みである。師匠といいこの人と言い、家ごと移転させるのはなんなんだろうか。


「そういえばシラタマに紅鳶の家っていうのがあって、禁足地になって祀られているそうですよ」

 そう言うと、ものすごく食いついてきた兄妹。

 

「マジで!!!」

「うわ!日本みたいだね兄さん!土地が似ると気質が似るのかな!」

「興味はあるけど近寄りたくない!エクソシスト犬だといってもういも近寄らせたくないレベル!」

「そうそう!それ!」


「で、明日から僕と2日間くらい付き合ってくださいね、ノリさん。その間……」

「任せといて、しっかり労働するから」

 チーズさんがありがたい言葉をくれる。僕のことは年齢のこともあってか比較的自由にすることを大人のみんなは許してくれている、甘えさせてくれている。これはその内恩返ししよう。

 いや、ついてきてくれるというノリさんにはさっそく恩返ししよう。そう思い、保留にしていた例のファイルを結構大量に黄色の記録魔石に放り込んで、にっこり笑いながら「今回の報酬です」と言い、渡してみる。

「いや~未成年が報酬とかってそういうのはちょっと……!!!!!」

 

 目の前で救国の魔法使いが過呼吸気味になり悶絶している。どうだ!必殺技『師匠詰め合わせスペシャル!!!変身もあるよ』は。キノコダンジョンの前後、あとで把握できるよう周辺の記録をとっていた。

 超解像度で見れる少女から大人への変身、そしてその逆。滅多にみない動き、スタイル。


 とか思ってノリさんを見ていたら泣き出した。「この美しさ、僕とやっぱりお似合いじゃないか」とか言ってたようなきがするが、聞かなかったことにする。


「アオ、コイツに一体なにやったの」

「秘密です、といっても大体バレてると思いますが、師匠の記録映像です」

 そう言うと、あにさんは仕方ないな、と言わんばかりに苦笑する。

「コイツの弱点筒抜けだけど、あまり利用してやるなよ。適度にな、適度」

「明日からお付き合いいただくので、その報酬と思えばやすいものです。姉の命がかかっていますので!あと師匠を売るような映像ではないのでそこはご安心を」

「そこはわかってるけどさ、千年も生きてきてコイツまじで友達いないからさ、人付き合いもへたくそすぎるんだよ」

「それたぶん、師匠もです」

 

 そんなことをいて笑っていた僕たちを見ていたノリさんが仕方ないな、ぐらいのテンションで口を開く。

 

「二人ともわかってないですね。友達なんて出来たところですぐ死んじゃうんですよ?あっというまですよ人の人生なんて。今はユウが面白すぎて親友になりたいっておもっただけ。私の人生で初だよ」

 

「そういえば俺と妹、転写魔法で転写されてるけどさ、寿命ってどうなんだ?あとなんかういは延びたんだっけ?」

「私とアオくんが寂しくないぐらい延ばしたって閃閃と閃電が言ってたような」


「……それって……僕とイオだけ先に寿命がきたらやだな……天も長命種だよね」


 駄目だ、まだ15歳、先は長いと言うのに先に老いて寿命を迎えることを想像しただけで涙がでてきた。その様子を見たあにさんはノリさんの肩をおもいきりつねった。

 それがおかしくて、涙目のままつい笑ってしまった。

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