第224話 密室ノ会・祈(17)

 明らかにコウコさんの部屋がこの状態であることを王は把握している。

 眉一つ動かさず、炬燵に入り込む。

 ところでまだ冬じゃないんだけど、これ、年中出しっぱなしなのか?


 ただ、僕はちょっと、いや、かなり無理だった。

 

「コウコさん、この積み重なった本と、積み重なった衣類はどこに何かあるか、把握して積んでいてずらすとわからなくなる系ですか?」

「お!よくおわかりだね!そのとおりさ!さあ、碧生もこっちにおいで?」


 この惨劇の部屋で、いつ出したかわからない炬燵に人を招待するか。

 加えて本の日焼けを防止するためか、昼間なのにカーテンすらあけてない。


 意を決して「失礼します」と言い、僕のお気に入り第5位の翡翠で出来た小さな杖を取り出し、問答無用に掃除魔法を走らせる。あまり特殊な杖を出して、師匠の事を探られたくない、と言うのもあったりする。どうも師匠は美名と悪名が混在しすぎていて、師匠を知る相手以外に弟子と名乗るリスクが高すぎる。自分で自分の記憶をズタズタにしているからに他ならないが、とばっちりは浴びたくない。

 

「何をするんだ!碧生!!」

「はははは、コウコ、部屋が汚いって言われてるぞ!」


 まず、布製品、カーテンや炬燵布団を疑似的に洗浄する。そしてホコリやハウスダスト、そして当たり前のようにいるダニを一気に集塵。暗黒物質かとおもうがくらいに、圧縮し、一応なんかその辺にあったゴミ箱にシュートする。

 その埃と汚れの塊は、ガコン、とものすごい質量を感じる音をたてながらゴミ箱にシュートされた。


「一回窓開けますよ!ちゃんと本周りは日光も紫外線はカットするので本は焼けません!いいですね!」

 そう言い、カーテンを開け、窓を開けるとさっき歩いてきたシラタマ王宮の渡り廊下が見えた。しっかり換気をし、再び窓とカーテンを閉める。

「やっと環境がマシになりました。ではお邪魔しますね」

 

 炬燵に入りこむと、やっぱりと言うか温度は入ってない。なんだやっぱり出しっぱなしか。

 

「もしかして、碧生って怖い子だったのか?!どう思うよ王よ!」

「部屋環境良くなって良かったじゃないか。感謝だな」

 

 王はクスクス笑っている。

 ちょっとコウコさんが怯えている、かもしれない。

 でも、潔癖とは言わないけど、ただでも本が大量にあり湿気がたまりやすい、加えて住環境が良くないのは全くよろしくない。


「コウコさんって、仕事は整理整頓できるのに、プライベートだとこんな感じなんですね」

「……仕事はちゃんと普通以上にしっかりキレイにやっている」

「わかってますよ?……ではキッチン借りますね」


「キッチン……台所……」

 顔をそらすコウコさんの様子を見て、そう言えばさっきの掃除魔法は埃とかそういうものに限定しているから、きっと想像したとおりの状態なんだろうな、って思いつつ、立ち入ったらところ、洗い物が山のように放置されていた。

 筆舌に尽くしがたい、しいて言えば惨劇、だった。


 一瞬フリーズしたあと我に返り、こんな!不衛生な場所で!あにさんの作ったものとか出すことはできない!という妙な義務感にかられ、水を流し、洗剤をスポンジにつけようにもスポンジが黒カビにまみれている。しかもシンクが詰まっていてシンク内で水位があがる。

「あーーーーもう!!!なんなんですかこれは!!!!」

 人の家に来てやることでもないが、絶叫してしまった。

 

 僕たち兄弟、とりわけ弟のイオは日常生活のルーチンワークを魔法でオートメーションにすることに長けていた。今の畑のマエストロに通じるところではある。

 それにしたって、そもそものツールが汚染されていたら……。そうだ。


「すみません、少し通信させてもらってもいいですか?」

 僕がキレイにした炬燵で寛いでる2人に伺いを立ててみる。あの炬燵で普通に寝てそうだよなコウコさん。

 

「いいぞ~」

「許す」 

 軽く返事が返ってきたため会釈をし、取り出すはあにさん直通電話。

 時間的にそろそろ店の片づけも済んでいる頃かもしれないと思う。

 

あにさん、アオです。ちょっとお願いがあるんですが、食器洗い用のスポンジって僕に送ってもらえます?ちょっと使いたいことがあって。今成り行きでシラタマ王と司書さんと一緒です。……はい。そうです、ありがとうございます!きっと喜びます。では、よろしくお願いします」


 あっという間に通話は終わり、秒に近いスピードでチーズさん倉庫を経由してスポンジが届く。ついでに見たことがない除菌とかいてある洗剤、そしてゴム手袋も入れてくれていたので、それを使う。

 そこから大体15分、キッチンはとてもきれいになった。噴きこぼれとさびが目立つコンロと、なんかべとべとしている換気扇以外は。そこには洗浄魔法を走らせたまま放置、大体10分前後で綺麗になる、はず。

 第一ここは王宮の一部だというのに、なんでこんなに汚染されているんだ。治外法権か。そう思いつつ、キレイにした食器とグラスを2人の前に並べる。


「長らくお待たせしました。王にお出しするには問題のある食器しか見当たらなかったもので」

「うん、知っておる」

「この程度ではめげないほど王の胃腸は丈夫だぞ?」

 

 顔を見合わせて笑っている。完全に僕の反応を見て笑っている。

 正直胃腸が丈夫とかそう言う問題か?と呆れつつも、それよりもこの2人は汚部屋で女子会をずっとしてきた仲っぽい方が恐ろしかった。

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