第275話 ユガミガハラ(10)

 体長3メートルぐらいの茶色の竜が2体、そこに現れた。


「思いのほか小さいのう」

「これだけ部屋が広くしたわけだから、10メートル超のドラゴンが出るかと思ったら肩透かしじゃな」

「人型になれるといっても息子と息子の嫁に逃げられているわけだし、こんなものなんだな」


 ぐるぐると肩を回し、齧歯の刃を構える。目の前の竜2体は小さいと言われたのが逆鱗に触れたのか、結構な勢いで怒りの様相を呈している。


「我らが小さい、と。小回りが利くと言え」

「竜種の強さを知らないものとみえる。度胸と無鉄砲は違うことを思い知るがいい。老い先短いというのに、それを縮めるとはよっぽどの阿呆と見える」


 種族の優位性だけでここまで偉そうになれるんだな。

 まあ、齧歯の刃が出る程度の狩り場が適性であれば、確かにドラゴンに傷1つつけられないどころか吹っ飛ばされて命も危ないだろう。ただこちらは元のレベルを隠蔽しているうえにノリのバフ、俺の武器への闘気纏い、攻撃魔法等いくらでも手立てはある。

 火魔法、水魔法が得意という通常相反するがために相互習得が不能といわれるものが異世界チートで使える俺の戦い方は自ずと水蒸気爆発とかそっちに向く。

 この属性習得については料理人は火と水が大事だからそうなったのかな、としか思っていない。

 

 あともう1つ、得意な固有魔法はあるけれどこの世界に来てからはなんでもありになるため使っていない。今後もよっぽど困る時が来ない限り使うことはないだろう。幸い表示する文字がバグっているおかげで人に知られることもない。


「そろそろいくか、ジョナス」

 

 その言葉と同時にノリから強烈なバフが届く。俺たちが全開で魔法を使ったところで協力な気配消しの魔法の影響で周りの人には何をしたのか理解されるような揺らぎすらない。

 ただ、効果だけはしっかり乗ってるのでめちゃくちゃ元気なジジイが出来上がった。


 その場でステップを踏むだけで1メートル近く飛べる。足腰が見た目に反して丈夫すぎる。


「おうよ、テレンス。ありがとさん」


 軽くステップを踏み跳躍する。油断している息子竜の首に一発武器ではなく蹴りをお見舞いするとバランスを崩し躰が半回転する。


「まだ弱かったかな」

「手加減することは失礼じゃよ、全力で行かないと」

「そうじゃな」


 そう言うと齧歯の刃に思い切り闘気を籠める。するとどうだ、刃としてついている歯ががたがたいいだした。ちょっと怖いぞこれ。横でノリは向日葵の花束となった杖のうちメインの杖を残し部屋の外周に投擲し、楔のように刺している。

 

 そして今度は威圧しながら迫ってくる父竜が至近距離まできたので下に潜り込み首めがけて刃を突きつけるとどうだ。歯のような刃が伸び、父竜の首回りに突き刺ささると同時にどんどん剣から抜け落ちる。マジで入歯か?!

 とか考えながら剣を振り切ったところ、歯が抜け落ちた後に直刃の剣が現れた。


 あまりにびっくりしたので鑑定してみると【刹那刀 一撃】とある。しかも齧歯の刃の攻撃力と桁が違う。


「その辺で拾ったこれ、こんなことがあるんじゃのう」

 

『これ、うっかり殺傷能力高かったら天の親族を大きく傷つける可能性あるよな。どうする?』

『そこは安心して。さっき撒いた向日葵の杖にダメージは気絶まで、というリミット魔法を持続させるように指示しておいたので全力で暴れても竜たちは気絶で済みます。好きにやっていいですよ』

『マジで?!助かる!』

 

「あそこの竜で試し切りしてみたらどうじゃろう」

「良い案じゃな」


 打合せも終わったので再び刃を構える。まるで特撮の悪役のごとくこっちのミーティング待っているのは一体どういうことなんだろう?と思ったらどうもひっくりがえされたことと齧歯の刃の歯が首に刺さったことで動揺して焦っていただけだった。

 なんかこの、天と血が繋がっているとはおもえないくらいの小者感は一体なんなんだろうか。ただ、誘拐の成功率が高すぎることを考えるとなにかそれ用のスキルみたいなものを持っているとしたほうが納得がいく。


「父上、あのジジイどもガチで往年の冒険者みたいです」

「どれどれ……不調なのか?ステータスが見えぬな奴らは。まあ、ブレスで一蹴すれば、一発だろう」


 それはレベル差のせいだよ、オッサン。それに気が付かないほどに自分以外を下にみて生活してきたんだろうな。それはそうとして、俺とノリの今のミッションは「突然人を攫うことができるスキルの特定と停止」に向く。

 ギリギリまで追い詰められたら何かしらアクションをおこすのだろうか。要人相手にすらそのスキルが使えるということはとても厄介だ。止めないとの連鎖は続いてしまう。


「ああ、なんかごちゃごちゃ話すのはずるいぞ、儂は勝負を挑むぞ勝負を!逃げることは許さんぞ」


 竜の親子に向けわざと声をあげる。あっちもあっちで矮小な人間がごそごそ何かをやっている、ぐらいにしか思っていないんだろうとは思うが、意識をこっちに向かせることに成功する。


「お前たち相手に逃げる?勝負?片腹痛い!」

 

 完全に仕切り直しとなった今、こっちは新しく手にした剣を振り、応戦の構えをとる。その視線の先には表情もよくわからない竜の顔、ウララさんや天とは同種だと言うのにこんなに違うものなのか。

 

 さて、そろそろもうちょっと追い詰めて拘束スキルを使わせようか。


「では我々も本気を出させていただきますかね、テレンス?」

「いつでも戦う準備はできておる。我が魔法の威力、身をもって味わってみるかい?そこなる竜よ」

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