第288話 ボレイリョウ(7)

 もうちょっとここで話を聞いてから温泉地に向かおう、という話になり、チーズさんと天くんはさっそくナットの調度品の入手交渉に入っている。流石というか逞しい。


 僕は集落の真ん中に立ち、住んでいる人数と、敵意等を読み取る探査をそっとする。中に入った時点から思ってはいたけれど、この集落からできることなら一刻も早く離れた方がいい。若者が先鋒隊、それ以外は様子を窺ったり、不自然に通りかかったりしている。

 

 みんな何で気が付かないんだろう。この集落の人たちのおかしさに。

 まず、匂いがヒトのそれではない。水産加工をしているだけではこんな匂いにならない。イオが気が付いていないとなると、僕の経験してきた何かがこの人たちの偽装を見破るる要因になっているんだろう。


 昔、本で読んだことがある。想像するに、多分この人たち、99%陸にあがった魚人だ。

 そもそも自分たちは危険がないよ、安全だよっていう安全な生き物がいるとは思えない。正直こちら側には手を出したら返り討ちにしそうなメンツしかいないのは確かだけれど。ぶっちゃけチーズさんでさえこの魚人たちより強い、とは思う。

 変な魔法にひっかかりさえしなければ、勝機しかないのは間違いない。


 実力を測って行動を決するのであればテミスというおそらく魔族である女性がいた時点で危害を加える行動はできなかった、かもしれないけれど。あれは、なんというか、救国の魔法使いのおかげで制御が効いていること、温泉好きでチーズさんを風呂友だと思っていることがこちらの味方に近しいことになっていて、現状の味方に近しいというだけなので、リスクは完全に綱渡りなことに違いはない。

 ここは先制攻撃、してみてもいいか。


「ところでさ、風雲たちってもしかして魚人だったりするの?昔文献で読んだんだ。海近くに住む赤毛の秘匿された雲の一族と酷似しているきがするんだけど」


 こっそり先ほどから無言に徹している風雲に聞こえるように、耳打ちする。僕から耳打ちされたかはわかるかな?声を耳元に飛ばしているだけだから、近くにいる人も耳さえよければ聞こえてしまうだろうけど、実のところ、わざとだ。

 チーズさんの護衛担当であることは忘れてはいない。なにかあれば師匠にもあにさんにも申し訳がたたない。リスクがあれば僕が受け、引き受ける、それだけだ。


「おまえ、どこまで知っている?」


 風雲は僕の歩調にあわせて来てすごみながらそう言ってきた。ごまかしもせずストレートに。それに僕は驚く素振りも見せず、普通に笑顔をつくる。瑞雲と雲霞は無反応。これ、雲の一族は耳の聞こえがいい、というより音の聞き分けに優れている、というやつだな。ろくに喋ってもいない僕の声を記憶するとは。


「別にあなたたちを食そうという訳ではありませんよ。そういう趣味はありません……と考えるぐらいは、あなた達のことを知っていますよ?」

「そうなのか。半ば手遅れかもしれないが、口外しないでいてくれると嬉しい。しかし文献に載っているのか、そうか……」


 なんかちょっと落ち込んでいるきがするが?

 本に載っていた内容としては魚人の肉を食べたら寿命が延びるとか不老不死になるといったような内容。そういう迷信は魚人、特に雌には付きまとう。しかも燃えるような赤毛、特徴だけで知ってる相手には種族の公表のようになってしまう。


「お前……」

「アオっていいます」

「……アオ。この集落にギルドシステムを使った売買システムがあることは確かだ。だが、人の往来がある、これについては虚偽だ。一部とはいえ騙すようなことを言って申し訳なかった」

「我々に危害さえ及ぼさないのであればこちらは気にしませんよ。及んだときは覚悟をしてほしいところですが?」


 明るく答えてみる。


「このまま集落を抜けてまっすぐ向かえば火山帯にたどり着くということですよね?」

「6時間はかかる、普通に歩けば」

「道程のリスクはどのぐらい?」

「むしろお前たちほどの実力があって受けるリスクとはなんだろうか」

「……いろいろあるよ、色々ね」


 なんかこの風雲、言葉遣いは固いけど話しやすいな。


「この集落は我が一族の陸上拠点。テミスは倒れていたから連れて来てしまったが、お前たちはなぜこの集落が認知できたのだ?」

「それは企業秘密、ただ、僕たちも僕たち以外にこの集落の存在を言いふらしたりはしないよ、そこは安心してほしい」


 ここを見つけた原因がチーズさんの新スキル【オートマッピング(精密):レベル100】で完全に発見できる状態で認知することができるせい、なんだけれど、確かにこれは相当に危険なスキルで間違いないらしい。隠れ里だろうが何だろうがつまびらかになってしまう。救国の魔法使いがそうそうに忠告してくれた理由はこういうところにあるんだな。


「ところで魚人ってさ、海に入ったら魚になるの?」

「……?なぜそんなことを聞く」

「興味がある。女子はやっぱり人魚になるんだろうか」

「……お前が期待しているような変身はないぞ?」

「今度見せてよ」

「その機会があればな」

「それ来ないやつじゃないの?!」


 そう言い顔を見合わせて笑ってしまった。そのタイミングで丁度散り散りになっていたメンバーが僕の周りに集まってきた。


 これから日が暮れるというのに出発とは、元気な皆様だ。

 道すがらチーズさんのキャンプセットが活躍してしまうな。誰よりも華麗に組み立てよう。


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