第217話 密室ノ会・祈(10)
銭湯『松の湯』は女性の番頭さんがいて、中は脱衣所と貴重品入れがあったりする、なんか懐かしい感じの銭湯だった。銭湯の存在に気が付いたため、一日数量限定で風呂上りの牛乳を冷蔵庫ごと提供、好評を博している。
「あら、今日はてみちゃんはいないけど、新顔の少年がいるわね。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
天くんはすかさず真似をする。
相変わらずの男子率を誇る我がチーム、当然のように風呂はぼっちだ。まあ、1人の時間が作りづらい現状、突然テミスに襲撃されたようなああいう事件さえなければ、リラックスタイムに充てられる。
ちなみにシラタマには富士山はないらしく、何か別の山がお風呂の壁画となっている。お風呂以外にもサウナも併設、好きな人は喜んで入っている。
大体待ち合わせをしなくても同じぐらいの時間にお風呂から出て、合流して帰るのだけれど、まあまあタイミングがずれた時には番頭のおばちゃんがタイミングを教えてくれる。
◇
すっきりしたところで、銭湯から徒歩数分でミルクスタンドホッカイドウに帰宅、ミーティングルームに5人で集まる。ホワイトボードも完備しているので本当にこの国の進み具合がよくわからない。
「先日はご迷惑をおかけしました。この部屋には僕が出来る限りの防音壁と盗聴防止をかけてみましたが、不安が残るので
「いいよ~」
「もちろん」
二人で何をおもったか、ハイタッチ。そうするとただでも緊張した空間だったこの場が、音1つ聞こえない、閉じた空間となった感覚を得た。
「で、相談事とは」
兄が進行を担った。
「ナット王のことです。師匠が凍結魔法を行使する隙をついて強烈な呪いを受けてました。今モヤの姿を払拭すると、白骨の姿となります。隙をつかれたことについて、師匠は名を失った反動で3割程度の力を失ったことから気が付けていなかったようです。どうやってか、タイミングを計って魔法行使したんでしょうね。」
「いきなりちょっと重たい話はじまるのこれ?」
「はい、軽くはないですね」
そう言うと、アオくんはホワイトボードに登場人物の名を書き出す。
「師匠は立場にも誇りをもっていますので、虚を突かれたことがなかなか悔しかったみたいで、相手を見つけたら何かしらの制裁を加えそうな勢いでした。ただ、凍結魔法が完成してしまっている今、内部にその魔法を行使した主がいても名と姿を失ったことにより無力化していますし、外部にいたとしてもそこの救国の魔法使いさんレベルのではないと潜入は不可能となっているので、今は手出しができないでしょうね」
一番この中で真っ青な顔をしているのは魔法使いさんだった。
「それで、今、気落ちしていないかな?大丈夫かな……??」
「あまり、大丈夫ではないです。そこで、まだ伝えていないことがあるのですが、僕の姉のことです」
そう言えばなんか前に聞いたことがあるような、ないような。詳しいことはよくわかっていないけれど。
「魔法使いさんともしかすると
初耳、というか、魔力タンクみたいなんだ、お姉さん。
「続けて」
兄さんが興味深いのか相槌をいれた。面白いデザインの椅子に座り、足と腕を組み、説明に聞き入っている。なんかものすごく珍しい。天くんはアオくんの横でわかったような顔をして頷いてるし、魔法使いさんは椅子に座ったまま、項垂れている。少なからずショックを受けていそう。
「続けます。当たり前ですが、師匠の保有している魔力はその上をいくのですが、師匠の魔力はナット全体に循環していて、それの補助にあたるのでしょうか。姉の貯めた魔力は師匠がナット全体に浸透させるためのコントロールに使われ、維持するようにこの魔法は設計されています。で、ここからが本題。凍結魔法をコントロールするにあたり、姉は色々思うところはあったというか、王が記憶を取り戻した時にきっとわかることなんですが、自ら凍結魔法を維持するための機関となることを進んで受け入れ、時間停止魔法により今、意思疎通は出来ない状態になりました。人から見ると呼吸も止まっていますし、生きていないように見えるかもしれません。その凍結魔法行使時点で姉の髪の色が茶から黒に変化したのですが、魔法の弊害によるものかとおもったんです」
ここまで話をして、アオくんは水を飲む。
なんかどんどんアオくんの語り口調がホラーみたいになってきたんだけど、さっきも王様が白骨とかもいっていたし、これからホラートークになるんだろうか……。可能性はありそう。
もうなんかここで「キャーー」とか「背後からドーン」とかいわれても、納得しちゃいそうなんだけど。って茶化したら場の空気ぶち壊しになるので、黙っていようそうしよう。
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