第216話 密室ノ会・祈(9)
アオくん合流の知らせに、天くんのテンションが爆上げした。今すぐ帰ると言い、背中の羽根を出して飛ぼうとする始末、これをなんとか止めて再び絨毯に乗る。
「あおあお、寂しがってるから今すぐ帰ってあげないと!」
「よーし、天のために超特急で帰っちゃうぞ~!」
魔法使いさんは本当にやる気過ぎて、帰りの飛行のアトラクションぶりに不安要素がマシマシとなるが、この、個人で転移をすることに微妙に制限のある国であるから、とりあえずおとなしく乗るしかない。
「みんな、乗りましたね?行きますよ~!!!」
その掛け声とともに、またもやぐんっと浮き上がり、行きよりも速い速度で首都・サクラへ出発した。
◇
ミルクスタンドホッカイドウの下で手を振る影がある。
アオくんだ。
なんだかすっきりした顔をしているような気がするけど、何かあったのかな?魔女さんと上手く仲直り出来たなら何よりなんだけど。とりあえずアオくんに飛びつく天くん。頭を撫でられてうれしそうだ。
「チーズさんもすみませんでした。もう心配いりません」
そう言い、にこっと笑う。近くで見てもやっぱりちょっと吹っ切れたような、いい顔をしている。
「今日午前中には着いていたんですが、皆さんお出かけされていたので散策してました」
「何かいい収穫あった?」
「1週間の間、サクラ王宮の図書館利用していい権利をいただきました!せっかくなので期限いっぱい通って勉強しようかと思います」
「すごいね。王宮図書館って簡単に入れなさそう」
そう言うとにこにこしながら「歴史まんがの貸し出しをしてもらいました!」とも言う。どうみてもごちゃまぜジャパンとしかおもえないシラタマってどんな歴史だったんだろう。やっぱり埴輪とか遮光器土偶とかもあったのかな?あとで教えてもらおう。
「そしてちょっと問題というか、相談したいことがあるのであとでお時間いただけますか?僕自身のことはあらかた片付いたんですが、別の問題が発生しまして」
「じゃあ、みんなで銭湯でもいって汗流してからミーティングするかー」
「銭湯といっても温泉なんですよ~アオくん前回来た時にはまだ発見してなかったんですが、この店の裏です」
「えっ温泉ですか!しかも裏、近いですね」
「ちなみに、ここの場所がばれて……テミスがたまに来る……」
「あの温泉の魔族ですか」
「なぜだか温泉にはまったらしくて、無賃では入れないから、私におごってほしい、出世払いって言ってくるんだけど、なんか、断りづらくて……」
ある日突然店の前に、ある程度ちからをコントロールできるようになったのか、それは、現れた。
丁寧にもお客さんの最後尾に並び、ちゃんとレジ待ちをしたうえで、言った言葉は「温泉にいこう」だった。自分以外の魔族はまだ見たことがなく、山を根城にするも見つけた廃村をリメイクして暮らしているだけで来客もなく、温泉もなく、つまらないのでたまに山を下りてくる、だそうな。
そこで仕方なくもつれていかれたのが家の裏の銭湯「松の湯」。そして、私と一緒に温泉に入った後「じゃあ、また」と言って自分の根城へ帰っていく。あまりにも目立つ容姿をしていることとお湯愛のため、2回しかいってないのに番頭さんには「てみちゃん」と呼ばれている。強い。
「じゃあ、みんな荷物置いてきたら銭湯いこっか。お店のレジ前集合で」
「承知でーす」
そう言うと各自解散、部屋に散る。
◆
「ノリさん、ちょっといいですか?」
そう言って救国の魔法使いの部屋をノックする。
「どうぞ~入って!もう準備出来るから出るけど」
「ちょっとでいいので」
相変わらずこの部屋は、師匠に満ち溢れていた。前にあげた等身大も、部屋の真ん中に飾ってある。
「ノリさんにこれをあげようかと。僕の記録映像で申し訳ないのですが」
そう言うと、1枚のフォトを差し出した。
「これは……?」
差し出されたものを見るノリさんの顔色が変わる。どんな感情なんだかもよくわからない顔をしている。
「お風呂上り、僕の計画に上手く賛同してくれたら、写真に加え、動画で差し上げます。でもこれはノリさんの気持ちを利用した取引だとわかっているので、断ってくれてもいいです」
「いや、これはなに?!?!何なの?!?!」
「あとで説明します」
「ええ~!!」
そう言うと魔法使いの部屋を後にし、レジ前の集合地点に行ったところ一番乗りだった。
「ええ~!!」
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