第108話 ナット/食糧難からの脱出(4)

 「おはようございます!今日の様子はいかがですか」

「チーズか、まさに順調。良い場所を提供いただき本当に助かっている。私がいると、この国は今後栄えるぞ。今なんか相当酷そうじゃがな~」

 

 ウララさんのお世話係は、大体板についてきた。正直、志摩と永長の尽力によるところが大きいのだけれど。

 お世話係がお世話しているのはほぼ仔竜。仔竜たちは、レイとキイとノナの3人が近隣の森でとってくる食料ですくすく育っている。人間と比べるとさすがに成長ははやく、既に5歳児ぐらいの大きさになっている。このぐらいから人型に化けるトレーニングがはじまるようで、兄似のちび以外はウララさんとレイさんの見た目を引継ぎ、色素が薄い。ちびに角と尻尾と羽根がついていてなんというかかわいらしい。

 兄似の子は男の子、他男の子が2人、女の子が2人で5人の人型ちび竜になっている。


「おばちゃん、おはます!」

「はい、おはよう」

 まあ、兄の隠し子(仮)であれば私はおばちゃんでいいだろう。


 「おまえたちここにいたのか。おはよう」

 魔女さんとイオくんもウララさんの部屋に合流してくる。みんなでおはよう、のあいさつ祭りだ。そして、そちらほんとにかわいいのう。といいながら魔女さんはちびたちの頭をなでる。あと数日したら魔女さん、身長抜かれちゃうんじゃないのか。というかいつのまにかアオくんイオくんの身長に至りそうでもある。


 挨拶が終わったところで、アオくんと連れ立って、朝食をつくりに食堂へ。

 こんな朝早くに魔女さんたちがきたのは、完全に朝ごはんが目的でしかないように思える。またきっとモヤ王はボッチ飯。

 

 今日の朝ごはんは兄の実験作、現地米粉を使った山型パンだ。商業ベースにのせるまえに、実験として私のところに送ってきた。というか【無限フリースペース】に「食べてみ」というメモとともに一斤置かれていただけ、なのだが。

 

 切り分けて人数分にし、トースターで一気に焼く。

 トースターも電源を使ったものから、前に魔法使いさんがやっていたような[魔石]による電力供給ができるように改造、長いコードもなく、使用感が良くなった。

 あとは鶏ちゃんが産んだ卵でスクランブルエッグを作る。

「何気にチーズさんって料理上手ですよね」

「何気とはやっぱり料理しそうに見えないか、私。よく言われるんだよね、コンビニで買ってそう、とか。」

「コンビニとは…?」

「昼夜問わず営業している、バラエティ商店みたいな場所だよ。食べ物から雑貨まで売っているんだ。そしてなんか、得意料理は何とかよく聞かれるんだけど、ありものでつくったり旬のもので作ったりするから、得意と言われても困るんだよね。スペシャリテってことなんだろうけど、とりあえずいまは、ない」

「チーズさんのスペシャリテ、できたら食べさせてくださいね!」

「何年後になるかわからないけど、いいよ」

 そして、顔を向かい合わせ、にっこりと笑う。かわいいぞ少年。


 ◇


 ウララさんたちが食堂に降りてきて、朝食をとる。永長えながとノナは子供たちの面倒をみているため、自室で待機、ウララさんが戻ったらごはんを食べに降りてくるそうだ。

 ウララさん一派の朝食は、私がつくりました。凍結から蘇った職員の方々は、備蓄品からの料理を食堂付の料理人が作ったものを順次食している。

 今回こちらは全員分は賄えない兄のパンがあったために別料理となってしまったが、明日以降は食堂のお世話になることが予想される。となると、こちらから提供できる食材などがあれば、積極的に提供することが望ましいように思える。

 

 朝食後、ウララさんたちは部屋に戻り、我々は外の新規作成した畑へ出る。予定する畑の二分の一ぐらいを昨日作ったような状態だ。

 食材第1弾は今日、私の【時魔法】と、イオくんの謎農業魔法の組み合わせで1ターンはやってみたい。ただ、私の時魔法の範囲がどの程度とれるものかが広大な土地ではやったことがないので、ぶっつけ本番実験となる。

「さあ、今日も頑張りましょー」

「早速紫外線除けかけておきますね」

「ありがとう!」

 

 土魔法チームの3人に、まだ耕せていない残り半分の畑づくりをお願いし、こちらは明日の食料づくりをまず、開始してみる。

 とりあえず、畝にジャガイモ、そこから少しあけて昨日つくった人参の苗を植えてみる。実験なので家庭菜園程度、10×10メートルぐらいの小さな範囲だ。

「僕とりあえず見学しますね」

 アオくんが言う。確かに謎農業魔法を開発運営をしているのはイオくんなので、覚えたりするにしても、そうなるのかもしれない。

「ありがとう!がんばろうね」


「さて、朝食も食べたし元気いっぱいじゃ!イオ、活躍の現場じゃな。お前の開発した魔法たちを見せておやり。」

「■■様は何をするんですか?」

「応援」

「……そうですか。」

「なにかトラブったときだけ、手を出すからそうならないように頑張れよ弟子ども」


 弟子ども。


 「そこに私は含まれますか?」

 ちょっとおそるおそる聞いてみた。

 「もちろんじゃよ、がんばれチーズ」


 種芋と、苗の準備はできている。さあ、集中して始めよう。

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