俺はラブコメがしたいッ!【改訂版】

珍王まじろ

一年生編・一学期

第1話・リア充共、爆発しろっ!

「やーい! 龍之介りゅうのすけのフラレ虫ー!」

「「「「アハハハハハハッ!」」」」


 クラスメイトの男子が俺に向かってそう言うと、教室内に居たクラスメイト達が男女関係無く一斉に声を上げて俺を嘲笑あざわらい始めた。その光景はどこまでも恐ろしく、聞こえてくる笑い声はどこまでも俺をはずかしめる。

 俺はそんな奴等に向けて激しく抵抗の意を示したかったが、相手は複数、一人で声を上げて複数にあらがっても、その声はまるで大波に消される小波の様に掻き消されてしまうだろう。そしてそんな俺にできる事と言えば、悔しさで顔を歪ませながら、ただ黙って顔を俯かせるくらいだった。

 しかしそんな周囲の笑い声は、パンッ! ――と大きく乾いた音の後に聞こえてきた悲痛な声によって一気に静まった。


「謝って」

「えっ?」

「謝って……龍ちゃんに謝ってよっ!」


 周りが一気に静まってしまうほどの声を上げたのは、幼馴染の水沢茜みずさわあかねだった。茜は俺が告白をして振られたるーちゃんを前に涙を流し、るーちゃんは叩かれた左頬を手で押さえながら顔を深く俯かせていた。

 夏休みを目前に控えた小学校三年生のある日、この日の出来事は俺にとって、後々までの恋愛のトラウマとなった。


× × × ×


「――すけ。龍之介」

「んん……」


 ゆさゆさと優しく揺さぶられる感覚に、俺の意識は徐々に覚醒し始める。

 そしてどこかすっきりとしない意識の中で頭を上げると、俺を心配そうな表情で見ている、涼風すずかぜまひろの姿があった。


「……まひろか」

「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だよ」


 本当は平気じゃないにもかかわらず、俺は薄く笑みを浮かべてそう答えた。

 あの出来事はまひろも知ってるけど、わざわざそんな昔の事を思い出させる必要は無い。あの日の出来事は、色々な意味で俺達に傷を残しているんだから。


「そっか。それなら良かった」


 涼やかな笑顔を見せながらそんな事を言うまひろは、小学校二年生の頃からつるんでいる俺の親友だ。

 まひろは男だが凄まじく童顔で、それでいて顔立ちの整った女の子みたいな奴だ。加えてロシア人の母親と、日本人の父親のハーフだからか、美しい金髪に透ける様な白い肌をしているけど、瞳は日本人らしく黒色をしている。

 その外見は服装が男子生徒の制服でなければ、絶対に女の子に間違われるくらいに可愛らしい。長い付き合いの俺だって、未だにまひろが女の子じゃない事が信じられないくらいだ。

 しかもそれでいて性格も良いときたもんだから、女子からも男子からも人気が高いんだけど、本人は超が付くほど人見知りなので、実際に交流がある友達が多いかと言えばそうでもない。

 そんなまひろの特徴から、俺は今でもまひろが女の子だと錯覚してしまう事があるし、まひろが女の子だったらいいな――なんて事を、わりと本気で思った事もある。てか、今でもよく思う。それ程にまひろは、言動も雰囲気も、その辺に居る女の子よりも女の子らしい。

 何をしても、何を言っても可愛い奴。それが俺の親友、涼風まひろだ。

 一番後ろの窓際席という、ラブコメではよく主人公が座っている場所に居る俺は、まひろの可愛らしい笑顔を見たあとで窓の外を眺めた。

 高校に入学して間も無い、五月の中旬。

 開いた窓からは、心地良い風がそよそよと流れて来る。その風に心地良さを感じながらアナログの腕時計を見ると、時刻は十二時を少し過ぎた辺りを指し示していた。

 そして俺が座っている位置から見える中庭では、恋人持ちリア充共が、仲良くお弁当を食べたりしている光景が広がっている。


「中庭は相変らず人気のスポットだよね。カップルも多いし」

「ちっ、忌々しい事この上ない……全員揃って同時爆発しねえかなー」

「もう……龍之介はすぐにそんな事を言うんだから。少しは相手の幸せを願ってあげなよ」

「相手の幸せを願う? そんなのはな、あらゆる意味で余裕のある幸せな奴に任せておけばいいんだよ」


 まひろは俺の言葉を聞くと、やれやれと言った感じの苦笑いを浮かべた。そんなまひろの表情も、今ではすっかり見慣れたものだ。

 それにしても、自身が充実していないのに、幸せにしている奴等の幸せを願うなんて、そんなのはただのドMだ。生憎あいにくと俺は、そんな幸せ野郎ではない。


「そういえばさ、まひろは何で誰とも付き合わないんだ?」


 中庭に居るカップル達を苦々しく見ていた時、俺はふとそんな疑問を口にしてまひろを見た。

 まひろは昔から女子の人気も高いし、彼女をつくろうと思えばすぐにでもできると思う。それだけに、浮いた話の一つも無いまひろが、親友の俺としては不思議でならなかった。


「うーん……何でって言われても困るけど……龍之介はさ、もしも僕が女の子と付き合う事にしたらどう思う?」

「そりゃまあ、爆発する事を願うだろうな。当たり前の様に」

「やっぱりそういう答えになるでしょ? だから僕は誰とも付き合わないんだよ」

「ええっ!? それって俺のせいって事ですかい?」

「まあ、そういう事かな?」


 まひろは可愛らしい笑顔を浮かべながら、くすくすと笑う。その姿は本当に、一人の可愛らしい女の子にしか見えない。これで男だなんて、本当に勿体ないと思う。

 もしも俺が神様に会って一言物申す事ができるなら、もう少し色々な事を考えて性別を決定してくれ――と、強く抗議したい。

 そんな事を思いながら再び中庭へと視線を移し、俺は今日も、恋人持ちリア充共を片っ端から呪った。

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