第79話・送られた言葉

 宮下先生が提案したこの告白審査。

 最初こそ酷な事をさせるもんだと思ったけど、ステージ上の五人は理由はどうあれ、合意の上でこの審査に臨んでいる。

 しかし仮とは言え、告白というのは自分の心の内を曝け出す行為だ。それを意中の人だけにならいざ知らず、こんな大勢の前でその想いを語るとなると、そのプレッシャーや緊張は想像を絶する。

 いや、本来はこんな形での告白などはありえない。それでもこの最終審査に臨んだ五人の心境とは、いったいどんなものだろうか。


「つ、次は私が行きます!」


 まるで結婚式で鳴らされるベルの様な形の、スカート部分がふわっと膨らんだベルラインドレスを揺らめかせながら、愛紗が静かにマイク前へと進んで行く。


「ではもう一人の一年生。篠原さんどうぞっ!」

「あ、あの……私がその人と出会ったのは、中学生の時でした。その時の私はちょっと色々な事があって落ち込んでいて、そんな私をその人はちょっと不器用な感じだったけど、優しく慰めてくれました」


 ――へえ。愛紗の今の想い人は、中学生の時から居たのか。


 それにしても、あのどちらかと言うと素直じゃないタイプの愛紗が惚れた相手ってのは、いったいどんな人なんだろうか。物凄く興味がある。


「その人はその時、私に優しい言葉を送ってくれました。それからの私にとって、とても大切になった宝石の様な言葉を……」


 ――宝石の様に大切な言葉か……。


 その言葉はよほど愛紗の心に響いたんだろう。あのどちらかと言うと意地っ張りで素直じゃない愛紗の心を震わせた言葉とは、いったいどんな言葉だろうか。

 愛紗はかすかに身体を震わせながらも、ゆっくりと言葉を紡いでいく。その様子を見ているだけで、愛紗がとてつもなく緊張しているのが伝わってくる。

 それにしても、杏子も美月さんも愛紗もだが、相手の男は何でそんなに鈍いんだろうか。

 彼女達が意中の相手に対してどんなアプローチやコミュニケーションを図っているのかは分からないけど、それでもそれなりの好意を示した行動をしているとは思う。それでもまったくその好意に気付かないとか、彼女達の想い人はどんだけ鈍いんだろう。これではまるで、ラブコメに出てくる主人公みたいだ。

 そんな事を思いつつ、意中の相手に対して苦労してるんだろうな――と、三人の事を考えて苦笑いを浮かべ、再び愛紗の話に耳を傾ける。


「私はその時からずっと、その人の事を見続けてきました。普段は抜けてるところも多いし、かなり鈍い人だけど、私はそんな彼が大好きです」


 愛紗はそう言うと、ペコリと深く頭を下げた。

 それは愛紗の告白の終わりを意味し、ホール内は前の二人と同じ様に大きな拍手と歓声に包まれ、俺もそんな愛紗を見ながら大きく拍手をした。

 するとその時、ふとこちらを見た愛紗と視線が合わさった。

 よく頑張った――という意味を込め、俺は親指を立てて愛紗へと向ける。すると愛紗はそれを見て少しだけ微笑むと、次の瞬間には恥ずかしがる様にしてプイッとそっぽを向いてしまった。


 ――ホント。素直じゃないよな、愛紗は。


 そんないつもと変わらない愛紗の様子を見た俺は、思わず頬を緩ませてしまった。しかし、ここで俺がニヤついているのを愛紗に見られたら、あとで何を言われるか分からない。なのでここは我慢して、表情を引き締めておこう。

 それにしても、愛紗の好きな相手って、いったい誰だろうか。同じ中学の奴なのは確定だろうけど。まあ、それはあとで愛紗に聞いてみるとしよう。素直に答えてくれるとは思えないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る